スウェーデンのベスト・モビリティシティ

2030年の気候目標を達成するために各都市が果たすべき役割は大きい。インフラを整備することで、生活者のこれからのあるべき暮らしへの移行を後押しすることができる。その都市で提供されている移動手段を評価するスウェーデンのベスト・モビリティシティ賞で1位に選ばれたのは、さてどの街?
ブロムベリひろみ 2023.06.18
誰でも
北欧通信 112

北欧通信 112

  • スウェーデンのベスト・モビリティシティ

  • H&Mがリサイクルすると回収した服を、センサーをつけて追跡してみたら

  • Z世代でお金がより重要視され、社会への影響力への関心が減る

  • 戦争とチョコレートのボイコット

  • 声の選べるオーディオブック・声クローンのAI技術はここまで進んだ

  • メディアの中の崩れた体型、シワのある顔

  • スウェーデンクローナの何が問題か

スウェーデンのベスト・モビリティシティ

2023年のベスト・モビリティシティ賞は、スウェーデンの経済紙のダーゲンス・インダストリが発表したもので、サステナブルなモビリティ(交通手段)にどの自治体が力をいれているかを評価したもの。

評価軸としては、自転車や公共交通機関への取り組み、電気自動車の充電ステーションの人口あたりの数、化石燃料に依存する車が全体に占める割合や、一台の車が平均どれくらいの距離を走っているかなどの数値も見ており、またモビリティ目標に政治的なコンセンサスがあるか、住民からのエンゲージメントの強さ、長期的な視点のあるなし、また、都市の高密度化への取り組みなども挙げられており、そして目標だけでなくその実施と達成具合をみる明確なガバナンス体制があるかどうかも評価している。

そして、輝ける一位の座についたのは、わが街ルンド!

ルンド市は何十年も前から長期的な視点でモビリティの課題に取り組んでおり、まだ右左を超越した政治的な結束があり、明確な実施と評価のための枠組みをもっていることが評価された。

ルンドは小さな街だが、サステナブルなモビリティへの取り組みに関してはスウェーデンをリードしており、また学生の街でもあり、自転車や徒歩での移動に環境面以外でも利点を感じている住民が多く関心も高い。

ルンドの路面電車は2022年の都市開発プロジェクト賞も受賞している。https://lund.se/nyheter/nyheter/2022-06-28-lunds-sparvag-vinner-arets-stadsbyggnadsprojekt-2022

ルンドの路面電車は2022年の都市開発プロジェクト賞も受賞している。https://lund.se/nyheter/nyheter/2022-06-28-lunds-sparvag-vinner-arets-stadsbyggnadsprojekt-2022

2020年12月には新しい路面電車の運行も始まり、そして自転車専用道路への投資が継続して行われている一方、街への自動車でのアクセスはかなり制限されたままだ。ルンド中心部からの自動車の締め出しは、早くも1971年に導入され、自動車派からは常にかなりの不満の声があるが、この点については現在まで変わっていない。

ダーゲンス・インダストリ紙面より

ダーゲンス・インダストリ紙面より

今回のランキングでは、2位はルンドと同様の中規模都市でやはり自転車や公共交通機関への取り組みが評価されたヴェステロース、3位はスウェーデンで最も優れた公共交通機関を提供すると評価されたストックホルム。この街は地下鉄や近郊への通勤電車など、サステナブルな交通手段の提供に力をいれながら、都市の拡大と高密度化を同時に進めてきた。ストックホルムの渋滞税の導入や自転車専用道路の充実も高く評価されている。

このランキングは経済紙が環境コンサルタント会社と一緒に作ったもので、学術的なしっかりとした研究指標などからは程遠いが、街の取り組みを知る際の大まかな目安にはなりそう。自動車産業が盛んで長年自動車の街として知られてきたヨーテボリも、このランキングでは上位につけているのも面白い。ヨーテボリには路面電車があるし、最近は自転車通勤を増やす取り組みにも力を入れている。

こちらのベスト・モビリティシティのレポートは公開されている。ルンド市の担当者はこれからもルンドが全国をリードするような形での取り組みを続けたいと話す。スウェーデンでリードするということは、世界の中でもいい位置につけていると思うので、みなさん、このルンドのリラックスした自転車や路面電車生活をよかったら見にきてください。

DAVID THUNANDER / THUNANDER AT GMAIL.COM

DAVID THUNANDER / THUNANDER AT GMAIL.COM

こういうのを本物の取材というんだろうな。アフトンブラーデットが、すごい記事を発表していた。「あなたが”リサイクル”した服はここに捨てられる

昨年12月にバングラディッシュにあるH&Mの工場からの排出量を分析した同紙の二人の記者のもとに、H&Mが店頭で回収している古着の多くは最貧国に送られそこで捨てられたり、燃やされたりしているとの情報が入った。年間30億着の衣服を販売するH&Mは完全なサーキュラー化を目指して変革を進めていると同社のウェブサイトには書かれている。

世界に4000店以上あるH&Mの店頭には着なくなった衣類の回収ボックスがある。H&Mはこの世界最大の取り組みで投資家たちに高く評価されており、2020年の1年だけで9400万枚のTシャツ相当数を回収した。

H&Mはテキスタイル業界のサステナブル活動で知られるI:Collectと協業して回収を行っていること、集められた古着はベルリン郊外の施設で選別を行っていると説明していた。(このアフトンブラーデットのスクープの後、同社のウェブサイトからはI:Collectとの協業を説明したページは削除された)また、再販できるものは再販すると約束しているが、そうではない衣類についてはどうなるのかの説明は、同社のウェブサイトにはない。

前置きが長くなったが、今回アフトンブラーデットの記者たちが行ったのは、この回収ボックスに位置センサー(Airtag)を縫い付けた服10着を入れ、それらの服がどこへ運ばれていくかを追跡したというもの。

今年1月下旬にストックホルム市内のセカンドハンドショップ数店から、まだ状態がよく、素材やスタイルの異なるH&Mの衣類を10着購入した記者たちは、これに位置情報を追跡できるAirtagをつけて、ストックホルム近郊の8つの異なるH&Mの店舗にある回収ボックスに入れた。衣類の中にはまだほとんど使われていない新品のようなパーカーもあった。

数日後にはすべてのボックスは回収され古着たちは移動し始める。ここで、全ての服はストックホルム南部のPostnordのターミナルに送られ、ノールショッピングにある別のPostnordのターミナルに移動した。

スウェーデン国内のアパレル店舗やセカンドハンド店で集められた古着のうち、再び国内で販売されるものはわずか10%(そんなに少ないのか!)だと言われているが、もしもAirtagをつけられた古着が一般客に販売された場合は、すぐにAirtagを外しにいくことができるように記者たちは、起きている間中、追跡画面を眺めていた。

…… そして現在。

この10着の衣類たちは様々な行方を辿ったが、ヨーロッパ内のテキスタイル廃棄施設に運び込まれたり、アフリカ、ベナンのコトヌーという街の海岸にある衣類の墓場にたどりついたりと、いずれの服も、私たちはこうなるといいなと望むような形でリサイクルされたり、アップサイクルされたような形跡はない。

バングラデッシュやベトナムで生産された服たちは、スウェーデンで販売され、その後リサイクルに出された後も延々と世界を巡る旅を続ける。記者たちがリサイクルボックスに服を投入した後、この10着の衣類たちは、これまでに合計5792キロ移動したとAirtagからのデータは伝える。

記事は本当に読み応えがあるので、スウェーデン語だけど一般公開されているようなので、よけれど見てみてください。この先多くの場所で引用されればいいなと思う。

H&Mはこの記事の内容に対し書面で回答をよせているが、これからもっと衣類回収後の処理にガバナンスを効かせることを余儀なくされることは間違いない。

アフトンブラーデットはスウェーデンの大企業への躊躇ない調査報道に長けていて、前にIKEAの記事を紹介したこともあった。

今回の記事は毎年世界中で1000億の衣類が新たに生産され、その半分が1年以内に捨てられてしまうという調査結果も引用している。もう本当に、すぐに着なくなってしまうような新しい服はいらないよね。

スウェーデンの15歳〜24歳の16,295人を対象とし(すごい人数だな)昨年の10月から11月にかけて行われたユースバロメーター調査では、若者たちの間で「お金」の重要性が増している一方で、政治などで社会に影響力を与えることは重要視されなくなってきていて、また家族を持つことの優先順位も下がっていることがわかった。

1990年代半ばから2010年代前半に生まれたZ世代にとって、お金を稼ぐことはより重要なものになってきている。この調査では2人に1人が週に1回以上、お金のことでストレスを感じていると回答した。調査結果の分析責任者は、背後には最近のインフレや戦争など安全保障上の問題、そしてお金を持っていることが人間の価値として表現されがちな、インフルエンサー文化の影響を指摘する。

Z世代は概して前の世代よりも、社会に影響を与えることができると感じてきたが、今は自分たちにそのような力があるのかについて、少し躊躇しているようなような傾向が調査結果からは読み取れるのだそう。

いやー、私たちは誰も社会を変えることのできる力を持っていると若者たちには強く信じてほしいし、収入の高さと気候問題へのネガティブな影響力(二酸化炭素排出量)にはかなりの相関関係があると考えられているので、そこのところもよろしく。

こちらは去年の冬の期間限定バージョン

スウェーデンでチョコレートと言えば、上の写真のMarabou(マラボー)。どこのスーパーでも10種類以上のフレーバーがズラリと並び、定番の味から最近は季節に合わせて期間限定バーションをどんどん送り出し、「マラボー」と聞くだけで思わず笑顔になるスウェーデン人も多い。

そんなマラボー・チョコレートをボイコットする動きが広がっている。マラボー・ブランドを所有する米企業Mondelez社は、今もロシアで生産と販売を続けている。ウクライナのKyev School of Economics(KSE)は、そのような企業をブラックリスト化しており、その中でMondelezの名前も挙げられている。Mondelezはアメリカの食品コングロマリットで、フィラデルフィアチーズなどのブランドも保有しており、昨年ロシアでのビジネスで利益を3倍にした。

(この#LeaveRussiaリストを覗いてみたらかなりの数の日本企業が今もロシアで活動している。一方で、撤退を決定した日本企業もかなりの数あることもわかる。他にはペプシやネスレ、ダノンなども)

このMondelezのブラックリスト掲載が明らかになってから、スウェーデン国鉄SJやNorwegen航空やStrawberryホテルチェーン(旧Nordic Choice)は、マラボーチョコレートの仕入れを取りやめ、またスーパーの中でも取り扱いをやめたり、棚に「この企業はウクライナのブラックリストに載っています」と注意書きを掲載するなどの動きが広がっている。

スウェーデンの企業では製紙メーカーで紙おむつなどを製造しているEssityもブラックリストに掲載されたが、Essityは既にロシアでの事業の売却を決定している

マラボー・チョコレートはスウェーデンのブランドで、今もスウェーデンで生産されているため、問題ないとしてリストが明らかになってからも販売を続けていたヨーテボリのリセベリ遊園地なども、このボイコット運動の浸透で、これまでの方針を覆して、仕入れを一時的に中止することを昨日発表した。リセベリには特大サイズのマラボーが当たる射的ケームがいくつかある。当初、ボイコットしないと発表していたリセベリだが、SNSなどに批判的なコメントが殺到したのだそう。

このボイコットはどこまで広がるだろう? お近くのスーパーではまだ売られてる?

AIを使って古いデモ録音からジョン・レノンの声を取り込み完成させた曲をビートルズとして今年中に発表するとポール・マッカートニーがラジオで話したそうだが、今朝はもうひとつ、AIを使ってオーディオブックの朗読の声を自分で選べるようになるという話がニュースになっていた。今のAI技術で、声はとてもはやく簡単にクローンを作成できるものになった。

既にアップルやグーグルはAIが読み上げるオーディオブックを発表したそうだが、スウェーデンのオーディオブック最大手のStorytelもAIを使って、リスナーが読み上げる声を選べる機能を提供する。

アストリッド・リンドグレンなど、著名作家自身の声で読み上げるものを聞きたいという要望は根強く、Storytelは今一緒に仕事をしている朗読者たちとも話を始めている。反応は様々だそうだが、人気の声はますます使われるようになって、ごく少数の声の寡占状況となる可能性もあるが、人々がAIではなく人間の声を望めば、これからも人間の声は残っていくとStorytelは説明する。

現時点では、英語の声クローン技術は恐ろしいほど高度に開発されている。SVTの記者が、短い文章を読み上げて録音したものを学習させて、まったく新しい別の文章を声クローンに読み上げさせていたが、声は自然でよくできており、本人にはないちょっとアメリカンなアクセントが聞き取れたくらい。

Storytelはこのまま開発を進めれば、今年のクリスマス頃にはスウェーデン語でも同レベルに達することができるだろうと話す。ただしAIが作ることは完璧すぎて、本当の人間は完璧ではないので、そのようなツルッとした声を人々が好むかどうかは未知数だと、取材された文芸評論家は答えていた。

そっか。私はスウェーデンで日本の人と会う時は、標準語で話すことが多いのだけれど、これからはどこでも関西弁で話すようにすれば、私の声は少しは盗まれにくくなりそう。スウェーデン語や英語の発音は、もとから壊れてるし、AI時代にユニーク性を発揮しやすい、よい特質が私の発話にはあるということで、安心だよ!😉

靴下を買おうと思ってすごく久しぶりにリンデックス(Lindex)に入り、下着コーナーも覗いてみたら、私のようなちょっと崩れた体型の人がモデルとなっているポスターが張ってあった。リンデックスはこちらの記事でも紹介したスウェーデンの大手衣料チェーンで、この記事でも普通の人たちをモデルにした下着の広告も紹介している。

そうよねー、私たちの体、こうなるよねー、と思いながら、私がこの下着をつければこうなるのかと納得するポスターをしみじみとみた。(私がみたポスターとは違うんだけど、インパクトしてはだいたいこんな感じ)

リンデックスは広告やSNSに現れる、ステレオタイプで、理想的として描かれる美しさから、女の子や女性がいかにネガティブな影響を受けているかに関する調査結果を最近発表している。この調査によると、16歳から65歳の女性の76%が社会の中の「理想の美」と自分を比較して、自分は十分ではないと感じた経験があると回答した。

昨日の朝のニュースでは、クラッシック音楽の夏の面白いイベントが紹介されていて、その解説をしていたカミラ・ルンドベリという人がとても素敵で、なんだか見ていて嬉しくなった。彼女はいわゆる年配の女性で、シワだらけのおばあさんなのかもしれないけど、髪型も、表情も、スタイリングもすてきで、わー、この人のようになりたい!と思わせてくれる。

*****

彼女が紹介していたイベントのひとつはFairplay Chamber Musicといって、気候危機を校了して参加するアーティストたちは飛行機を使わず、ビーガン食が提供されるなど、これからのフェスティバルの形をつくっていくことを目標としているもの。

このフェスティバルではベートーベンの交響曲第5番をオーケストラが演奏する間(およそ30分)ほどに、5キロのランニングコースを走り抜けることができるかを競う「Runnning for Beethoven」という面白い企画もあるそうで、こちらは7月9日の開催。残念、私は今年は参加できないけど、来年にかけてこのFairplay Chamber Music、ちょっとチェックしておこうっと。

この10年で、ユーロはスウェーデン・クローナに対して30%高くなり、米ドルは70%近く高くなった。2013年の夏は1ユーロを8.7クローナで買えたが、今年は11.17クローナ出さないといけない。スウェーデンは小国だが、財政力も強いのにクローナはなぜここまで弱いのか? 同様の財政力と金利のスイスフランでは、なぜ同じことが起こっていないのか?

スウェーデンの通過の弱さは今に始まったことではなく、過去にはスウェーデンのインフレ率は他の国よりも高く成長率は低いことから通貨安に繋がっていると説明されていた。しかし2008年の金融危機後、この関連性はなくなったのに、クローナ安は続いている。過去10年間のクローナ安は、明確な経済論理と結びついていない。

スウェーデン・クローナが小さな通貨であるため、その価値は純粋に金融取引の量に影響を受けているということらしいとダーゲンス・ニュヘテルの記事はまとめている。

スイスフランとの比較で言えば、スイスフランは株式市場が低迷しているいる時にお金が集まり価値があがるという傾向があるが、スウェーデン・クローナは周辺通貨のひとつとして捉えられており、株式市場が低迷しているときにはその為替レートも下落する。

欧州中央銀行と国際通貨基金でキャリアをつみ、現在スウェーデンの第一年金基金のCEOを務めるクリスティン・マグナション・ベルナードは、スウェーデンでずっとマイナス金利が続いていた時に形成された市場心理を指摘する。その時にスウェーデン中央銀行は「クローナは弱いのが望ましい」とのメッセージを出し続けていたからだという。

この先スウェーデンで起こるかもしれない不動産バブルの暴落によりクローナが避けられているわけではないと指摘する他の専門家もいる。

世界の為替市場で取引される通貨の種類はそれほど多くはないらしく、記事にはスウェーデンクローナは昨年世界で11番目に多く取引された通貨だ、と書かれていて驚いた。小さな通貨ゆえ、ごく少数の金融プレーヤーの行う売り買いで、私たちの生活が大きな影響を受けているということらしい。

救われている点があるとすれば、スウェーデン・クローナも日本円も同じくらい弱いので、この2つの通貨の間ではドルやユーロまで極端な動きは出ていないってことだろうか?(と、これを読んだ巨大な金融プレーヤーが、急に円=クローナ為替を混乱させたりしないことを祈る)

***

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