声が盗まれる

今週のブログではAI関連の記事をいくつか取り上げたが、週末の締めのこのニュースレターでもAIの話題をどうぞ。今のところはまだアメリカでしか確認されていないが、AIが人の声のクローンを簡単につくり、それを使った巧妙な電話詐欺事件が確認されはじめたというのがそのニュースだ
ブロムベリひろみ 2023.04.02
誰でも
北欧通信102 

北欧通信102 

  • 声が盗まれる

  • 自転車があればクルマ無しでもOK? 進化するスウェーデンの自転車事情 【スウェーデン発 みんなと地球の“ラーゴム”なくらし vol.19】

  • (2年間で)7.4%の賃上げに労使合意

  • Chat GPTをめぐるニュース2つ。そしてデータサーバーの冷却費はどうなっている?

  • 政府の気候政策にダメ出しをした気候政策諮問委員会とは

  • パルメGPT

  • インフレで減る家庭での食品ロス

  • 小学生に医療や介護の仕事の魅力を伝える

声が盗まれる

日本でも問題になっている振り込みと同じような詐欺はアメリカにもスウェーデンにもあって、スウェーデンでは主に、孫になりすまして高齢者に電話をかけて金銭を要求するといった手口だが、つい最近アメリカで確認され始めてきたのは、AIにより実在の人物の音声クローンを作り、それを使って電話詐欺を行うというもの。

以前は似た声を作るには大量の音声素材が必要だったが、ものすごいスピードで進化を続ける今のAIでは、同じ声をとても速く簡単に、かつ無料で作れるようになった。ストックホルム大学のコンピュータ・サイエンスの講師トビアス・ファルクさんは、これまでの数十年に相当する進化がこの一年で起こり、そしてその一年に相当する進化がこの2週間で起こっていると説明する。

今の音声クローンAI技術は主にアメリカ英語をデータベースとして作られているので、昨日SVTのレポーターが試していた時点では、スウェーデン語の彼の声のクローンの精度はまったくよくなかったが、これも開発が少しでも進めば瞬くまにスウェーデン語でも簡単に声のニセモノが作成され、詐欺などに使われるだろう。スウェーデン警察の詐欺対策センターでも、このAIによる音声クローンの進化状況を注意深く見守っている。

私の場合、仕事でのコミュニケーションは、今はその殆どがメールかチャットかビデオ会話だし、会議もビデオか対面なので、音声だけで話すことはとても少なくなったけれど、プライベートでは特に身近な人ほど今も音声通話でのやりとりが多い。もしも一番身近な家族とそっくりな声で詐欺の電話がかかってきたら、ころりと引っかかってしまうような気もする。

SNSやYoutubeなどで話したりビデオを公開している人は、そこから簡単に音声クローンができるそうなのだが、いまさらこれらの公開データを削除したとしてももう既に手遅れのような気がする。そう言えば私も、ラジオを作りかけたまま放置しているし。

私にとっては、声は、外見などよりも結構特別なもので、この人の声ならいつまでも聴いていたいと思うほどの魅力も感じてきたものなのに、そんなに簡単に特別な声の複製とか作られても困るんですけど。でもここまで来たら、次はAIによる人間の複製ですかね、やはり。

今月のElleの連載、本日公開されました。今月は自転車の話です!

自転車は環境にも健康にもよいエコな乗り物ナンバーワン。子ども用ワゴン、カーゴといった機能の搭載、自転車専用高速道路の整備も進んでいる。

どうぞよろしくご一読ください♪

工業系の労働組合連合が雇用主側と記録的な7.4%の賃上げに合意した、とニュースで聞いて、インフレが背景にあるのだろうけど、でも7.4%はすごいな、私ももっと賃上げを要求するべきだったかな?と思ったが、よく聞くと7.4%は今後2年間の賃上げについて合意したものだった。

工業系労働組合連合が雇用主側連合と合意に至ったのは、今年は4.1%の賃上げ、来年が3.3%ということで、たしかにそれでも高い数字だし(これまでの交渉で一番高い歴史的な数字)、また2年間に渡る枠組みを決めたというのも珍しい。産業界で働く人たちは来年もちゃんと給与は上がると安心して働けるのかもしれない。今回の工業系の合同労使協約には450の団体別協約が含まれ、約220万人の労働者にその影響が及ぶ。

しかしこれだけ賃上げされても、鉄鋼労働者組合(IF Metal)の委員長は、インフレ率が高いため、今年は実質賃金は上がらないことを指摘する。またこの7.4%を2年間でならすと、一年当たり3.7%となり、これは組合連合に参加する多くの個々の労働組合が要求していた今年4.4%という賃上げ率にははるかに及ばない。しかし、今年の交渉が始まった昨年秋には、雇用者側は、2%の賃上げと3000クローナ(約3万8000円)の一時金を提案していたので、それでも交渉で両者は大きく歩み寄ったことになる。

ダーゲンス・ニュヘテルの経済コラムニストも、今回の合意は1997年にこの工業界の労働組合が共同で行う賃金協約が始まって以来、25年で初めての実質的な賃金の引き下げを意味すると書いている。喜んでいいのか、嘆くべきなのか。

一方ルンド大学の経済学者は実質賃金は上がらないとしても、これだけの規模でこれだけ額面で賃金があがれば、今のインフレに影響を与えかねないとし、この労使合意はスウェーデン中央銀行の今後の決定に影響を与えかねないことを指摘する。

また、今回の団体協定には最低賃金が1350クローナ(約17500円)引き上げられることも含まれており、月収が2万8211クローナ(約37万円)より低い場合は、合意賃上げ率以上賃金が引き上げられることになる。しかし、人件費がこれだけ上昇すると、今後人員整理やレイオフが必要になる企業もあるだろうとすでに雇用主側が表明しており、賃金の労使間バランスはなかなか難しいものだなと思わされる。

ダーゲンス・ニュヘテルのコラムニストは、スウェーデンには労使協約の強い伝統があり、スウェーデンの労働者はおそらく世界でも一番ストライキをしないとも書いている。2021年にストライキや職場封鎖で失われた労働日数はスウェーデンではわずか11日だが、ノルウェーでは11万6250日、デンマークでは24万3400日だと数字をあげている(いろんな職場での日数とストライキに参加した人の数をかけ合わせたものだろうか?)。これ、フランスだともっと天文学的数字になるのかな?

それにしても今週、毎日新聞で読んだ、もう倒れそうになるくらい働いている保育士の方が1150円の時給をせめて50円あげてほしいといったら「無理よ」と、雇用者に軽く却下されたという話がひどすぎる。時給50円アップは「無理よ」 人気の保育園支えるブラック環境 | 毎日新聞 。日本のブラックな職場にも、団体交渉のパワーをどうすれば武器にしてもらえるだろうか?

1つ目のニュースは、スウェーデンやヨーロッパ諸国がAI開発に関して遅れをとる可能性が非常に高いとして、研究者たちがスウェーデン政府の態度を批判しているもの。例えばリンショーピング大学のコンピューターサイエンスの教授は、スウェーデンがこの分野の研究開発にもっと投資することが必要だと話す。スウェーデンはこれまでデジタルで世界的な開発を促進し、SpotifyやSkypeといった成功事例もあるが、もっと数学と科学の分野での教育に投資しないと、将来はわからないというもの。

また政治家はもっとAIについて学ぶことが必要で、これをIT技術の問題として捉えず、社会的課題を解決するための新しいツールの一つとして位置づけることが重要だという。

2つ目は、スウェーデンだけのニュースではないが、イーロン・マスクやアップル創業者のスティーブ・ヴォズニアックを含む1000人以上のAI関連の研究者や実務家が、AI開発においてより安全性に重点を置いた開発を進めることを優先し、セキュリティ・プロトコルや行政による、より明確な規制を求めて出した公開書簡を取り上げたもの。このグループは、高度な人工知能の急激な発展は人類と社会に危険をもたらす可能性があり、社会が追いつくまで高度な開発を6ヶ月間中止することを求めている。

このニュースのインタビューに答えていた物理学教授でAI研究者のマックス・テグマークはGPT-4や同様のシステムが、人々に離婚することを勧めたり、若者に自殺するよう促したりすることが確認されていると説明する。また今週はじめにはユーロポールは、フィッシング詐欺やディスインフォメーションにAIがどのように利用されているかの調査を開始したと発表した。

日々一刻と進化していくAI技術の報道で、私が一番気になっているのはこの膨大な情報の処理を続けているデータサーバーの冷却のための電気代はどうなっているかである。以前ビットコインが盛り上がっていた時に、この取引のために消費されている電気代が膨大なものになっていることをこのブログでも取り上げたこともある。

ChatGPTとサーバー冷却費の話題はまだスウェーデンのニュースでは見かけていないものの、英語のニュースではもうすでにちらほらでているようなので、後で読んでみるかな。

スウェーデンにはある時期に「権力は腐敗する、都合のいいようにごまかそうとする」ということを徹底的に考えた人たちがいて、それを防ぐためのさまざまな仕組みを作ったことが、今のスウェーデンの透明性の高い社会を支えているとつくづく思う。

スウェーデンの人は誠実でごまかさないとかではなくて、権力を握ったものは悪いことをするという前提の上、いわば徹底的に人を信じていないが故に、権力者がやっていることを監視しようとする仕組みがいくつもある。

昨日の夜のトップニュースは、気候政策諮問委員会が「新政権がこれまでに発表した政策では、スウェーデンは気候目標を達成できない。排出量削減の先送りは深刻な事態をもたらす。スウェーデン国会が定めた気候目標を達成するためにはより強力な気候政策が必要だ」と年次報告書をまとめたことだった。

気候政策諮問委員会は8名の気候問題の学術専門家からなる2018年にできた機関で、年に一回スウェーデン政府の気候政策を評価し、報告書をまとめている。昨日発表された報告書は、政策の変更がこの20年間で初めて排出量の増加につながったことを深刻な事態とし、早急な政策転換が必要であることを指摘している。

またEUが気候目標を強化する中で、スウェーデンは逆に近い将来の排出量の増加につながる政策を発表しており、国として勢いを失っていると厳しく批判した。中道右派の穏健党が中心の新政権になってから、電気自動車購入時の補助金がなくしたり、鉄道網整備計画が中止したり、ガソリン税の一時的な引き下げなどを行っている。

ニュースで厳しく批判する諮問委員会議長のセシリア・ヘルマンソンを見ながら、私が思い出していたのは日本でウヤムヤになってしまっている日本学術会議で6名の学者が任命されなかったというニュースなのだけれど、この件はこうしてウヤムヤなまま葬られるのだろうか?

もうみなさんもお気づきかもしれないが、このブログはしばらく前からAIが書いている。取り上げたいテーマの傾向を入力して、これまで書いてきたブログ記事の傾向を分析してもらい、翻訳アプリを間にかませると、毎日スウェーデン語の記事を選び、そこから日本語のブログ記事をアップしてくれる。写真も私が前日に撮影したものから適当なものを選んでくれるし、私の誤字脱字の傾向や絵文字の使い方も、チューニングにチューニングを重ねたので、もうAIが書いたのか、私が書いたのかは一読しただけではわからないはずだ……

というようなことは、私の場合、しばらくは起こりそうにないけれど、AI、特にChatGPTでこれもできる、あれもできるというような話はスウェーデンでももちきりである。

ニュースの話題としてはプログラマーの将来はどうなる? といったものや、学生が不正をしても先生は見つけることができないといったものがあるが、昨日、おお!こんな使い方もできるのか、と思ったのが、パルメ首相殺人事件の真相解明に特化した「Palme GPT」だ。

36年前に起こった当時現役の首相が公道で銃殺されたこの事件は、警察が初期捜査に失敗し犯人がみつからないまま、かといって特別捜査班は解散することもなく捜査は延々と続けられてきたが、2020年に容疑者として通称「スカンディアの男」をあげ、さらに「この人物はもう他界しているため捜査を打ち切る」という、かなりの肩透かしで期待はずれの内容で中途半端な発表をして一応の幕を閉じた。しかしこの事件はこんな驚く側面をもった事件でもあった。

  • パルメ殺人事件の捜査は、JFK暗殺事件の捜査に匹敵するほどの規模で、世界でも一、二を争う大規模の捜査が行われてきたこと

  • これまでに取り調べを受けた人は1万人に及ぶこと

  • 犯人は自分だと公言した人は134人に及び、そのうちの29人は警察に自首したこと

  • 現在に至っても、週に2,3の事件解決につながる情報のタレコミ(?)が警察にあること

これほどの事件は、捜査が打ち切られても、高い関心を持つ人は多い。

PalmeGTPは、公開されているパルメ殺人事件に関する資料(palmemordsarkivet.se)を使ってふたりのIT技術者が構築したもので、この事件に関する膨大な資料に目を通さなくても、またあまり予備知識のない人でも、普通の言葉で簡単に質問を投げかけ、これまで警察の調査結果から回答を得ることができる。

興味のある人からはすでにPalmeGPTのライセンスを買えないか、と問い合わせがきているそうだが、製品化するには使い方のトレーニングや、扱っている資料に関する基本的な理解などが必要となり、このまま公開するとこのツールは何をするものなのかを理解されないまま使われてしまうリスクがあり、そのような無責任なことはできないと開発した2人は説明する。

彼らはPalmeGPTはあくまでツールであり「このAIがパルメ首相殺人事件を解決することはないが、このAIを使った人がパルメ首相暗殺事件を解決する可能性は高くなる」と言う。

Palme GPTはChatGPTとは異なり、インターネット全体ではなく、指定されたデータセット(この場合は大量の非構造化データ=スキャンしたPDFファイル)をインデックス化したもので、どの資料をリファレンスしたかもわかる。その点ではChatGTPよりもマイクロソフトの検索エンジンBingの新バージョンとよく似ていると開発者たちは説明する。

さて、この殺人事件に関しては上でリンクをあげた記事以降の情報を書いていなかったが、2020年に検察から捜査うちきりの発表があった後、2021年には、裁判所で有罪が確定するまでは無罪という基本的な人権である推定無罪の原則を侵害したとして、その発表を行った主任検事のクリステル・ペーテルソンを国会オンブズマンが厳しく批判している。

パルメGPTのライセンスをほしいといったのは、もしかしたらペーテルソンなのだろうか?

今日はタイトル通り、現在の食品価格の高騰により家庭で捨てられる食品がぐっと減っているようだというニュース。

スウェーデンでは1年間に一人あたり平均15キロのまだ食べられる食品を捨てている。しかし食品が高くなったため、家庭でも賞味期限の表記にこだわらず、匂いや見かけなど自分の感覚でまだ食べられるかを判断するようになったり、冷蔵庫の中の残り物をうまく活用するようになり食品の廃棄が減る傾向がでてきている。

これはスウェーデンの食糧庁が昨年5月に行った家庭での食品廃棄に関する意識調査と同じ項目を、最近また調査したものと比較したもので、ここでは食品を捨てないために習慣を変えた人がいることがわかる。この2月末から3月頭にかけて18歳から84歳の1024名から回答を得たこの意識調査では、食品を捨てないためにしっかり五感を使っていると答えた人や、残った食品を”かなり”や”とても多く”活用していると答えた人は共に増えた。この調査の正式な報告書は3月の末(今ね?)に発表されると記事はまとめている。

食品ロスは世界の温室効果ガス排出量の約8〜10%を占めているといわれ、廃棄は生産の現場から流通、小売までさまざまな場所で発生するが、しかしロスのほとんどは家庭で起こっている。

スウェーデンの自然保護庁が実施している食品ロス調査によると、今も昔も食品ロスのほとんどは家庭で廃棄されている食品が主だ。
食品ロスは人気のアプリだけでは解決できないよ! より

さらには食品が各家庭にたどりつくまでには様々な物質的、人的資源を使ってきており、家庭での食品ロスはそのすべてを浪費するということにほかならない。

自然保護庁の食品ロス量の調査報告書は以前は2年に一度だったが、一昨年、昨年と続けて報告されているので、おそらく今年も発表されるはずである。ここで扱われるのは2022年の数字だけど、すでに変化が出てきているかもしれない。この数字が今年発表されるとすれば、5月くらいだと思うので、見かけたらまた取り上げよう。

そんなこといっているうちにもう4月ですな。

ずいぶん前からわかっていたことなのだろうけど、こうして数字ではっきりみるとかなり衝撃的である。スウェーデンでは今9万1000人の福祉の分野で働く人が必要とされており、今後数年間の年金退職者を計算にいれるとと、その数は41万人になる。中でも足りないのが高齢者介護に携わる人で、高齢になり介護を必要とする人は今度ぐっと増えるのに、働き手の方は同じほど増加しない。

この将来的なケア領域の人材不足の解消を狙って、今年からスコーネ地方では、医療従事者が基礎教育の6年生のクラスを訪れて、医療に関わる職業の幅の広さを伝え、興味を持ってもらおうというプロジェクトを行っている。もう少し大きくなって自分が将来つきたい仕事を具体的に選ぶ段階に入る前に、医療の仕事を漠然としてでもいいから子どもたちの選択肢の中に入れてもらうことを狙っている。

インタビューでは、子どもたちはケアの仕事に興味を持っているものの(プログラミングに興味があったけど、人のためになる仕事の方がいいと今は思うと話す男の子もいた)なりたい職業として医師はあがるけど、介護を上げていた子どもは少なくともこのインタビューの中ではなかった。

地方自治体連合会では、人材不足を解消するためには他にも現在のスタッフの能力を強化しフルタイムで働く人を増やす、新しい技術を採用する、健康な高齢者を増やし介護の需要を減らす、などの対策を挙げている。私が後期高齢者になる頃には状況はもっと厳しくなっているかもしれないので、少しでも長く健康で自立して生きていけるように心がけないと。

***

では、また来週!

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