差別撤廃オンブズマンと50万人への差別

この木曜日の朝に耳にしたのは、「毎年50万人が差別されたと感じている」ことをまとめた新しい報告書と、そして、その報告書をまとめたのが「差別撤廃オンブズマン」だというニュース。またオンブズマンには、差別に関する苦情が年間3500件よせられるが、これは多いのか、少ないのか? もう一度オンブズマン制度について、ちょっと抑えておきたいと考えた
ブロムベリひろみ 2023.05.14
誰でも
北欧通信 108

北欧通信 108

  • 差別撤廃オンブズマンと50万人への差別

  • 「もうこれ以上、火消し役には回れない。火よ、燃え上がれ」

  • 今年の夏、見逃せない2023世界建築都市のコペンハーゲン

  • かっこよかったストックホルムの電動アシストサイクルに設計上のミス。現在回収点検中

  • 変わる「荒野の道」の除雪作業

  • 南から、ロシアから。やってくる白樺花粉

  • 今、すでに、もう

  • 来週後半、ブログとニュースレターを休みます

差別撤廃オンブズマンと50万人への差別

「オンブズマン」は日本語でも定着している言葉だが、私はその意味を長らく誤解していた。このニュースレターを始めてしばらくたった時に、その役割について調べたことがある。

私が漠然と持っていたのは「ひどい目にあった人が苦情をもって相談に行くことができる、弱者を受け止めてくれる人」という理解でした。おそらくそれも間違ってはいないのでしょうが、実際のオンブズマンの仕事は、権力を持ったものがそれを濫用していないか、子どもの人権やジェンダーにおける問題、労働者の権利などが正しく守られているかを厳しく調査し、闇を暴く必殺仕事人に近い。

またオンブズマンという言葉自体も、選出された数名のことを指すだけと思っていましたが、それよりは、例えば後述する「国会オンブズマン」では「80 名(そのうち60人が法の専門家)の法律に関するプロ集団」として考えた方がよさそうです。

人々からの申立てから調査を始めるだけでなく、疑わしいケースに関しては自ら調査に着手することもある、最高裁の判事レベルの人材が検察の機能も兼ねているような役割で、最終的に罪を裁くことはしないけれども、なぜそのような望ましくない状況が生まれたのか、その理由を詳しく調べ、社会のシステムを弛みなく改善しようとする終わりのない取り組みだと言えます。(オンブズマンが案件を調査した後、起訴することもあります)
このオンブズマン制度に関する記事はこちらからどうぞ。オンブズマンにまつわる誤解

今回、差別撤廃オンブズマンがまとめた報告書は、50万人が差別されていると感じており、職場でセクハラを受けた人は30万人いることを指摘している。この状況を受け、差別撤廃オンブズマンは、差別を受けている人の保護強化のための法改正を政府に求めている。

今回差別撤廃オンブズマンが特にフォーカスしたのは学校と職場での差別で、特に神経精神障害のある子どもたちが弱い立場にあることを指摘している。また30万人が職場でのセクハラを受けているという指摘は、スウェーデン労働環境庁が実施した調査に基づいており、とりわけケアや飲食の現場で、若い女性へのセクハラが目立つという。仕事に関する領域では、依然としてアラビア語系、イスラム系の名前の求職者は、採用プロセスで差別を受ける可能性が他の人よりも高くなっていることも改めて指摘されている。

差別されたと感じている人が50万人いるが、寄せられる苦情は年間3500件という今の状況から、より多くの人がオンブズマン制度を活用するために、差別撤廃オンブズマンは自らの役割をより明確にする必要があると分析した。そのためには法律を変更し、現在の、調査が主体の役割から、具体的な対応を決定できる立場へと変わることを政府に要求している。

自身への差別を通報することはハードルが高いと感じる人も多いと考えられるので、差別への具体的な対応をオンブズマンがとることができるようになると、今の状況が変わるのではないかと考えているという。

ニュースでは、自身のアスペルガー症候群が原因で、せっかく決まっていたインターンシップを取りされてしまった人が、差別撤廃オンブズマンへ苦情を申請し、その後、彼女が受けた扱いは「差別」であったとオンブズマンが証明。今の制度では彼女へのインターンシップの機会についての具体的な措置はないが、不当な扱いを受けたことが証明されただけでもよかったし、これが自分と同じような人の環境変化への影響力を持つようになればいいと当人は述べていた。

***

突然、話は変わるが、昨日の土曜日、スウェーデンで一番読者数の多いニュース系メディアであるタブロイド紙のアフトンブラーデットに、日本の林正芳外務大臣の寄稿文が掲載されていた。林外相はEUや関係各国の外相らとインド太平洋地域の情勢などを議論する会合に参加するためにスウェーデンを訪れていた。

取材記事ではなく、自らの寄稿が掲載された先がアフトンブラーデットであったというのはちょっと首をひねるところもあるが、それを一旦横におくと、「日本はスウェーデンとの協力関係の深化を望む」と題されたこの寄稿文では、日本は政治や防衛を含むあらゆる面で、スウェーデンとの強固な関係を深めたいとの大臣の声が書かれている。

特に防衛面への言及は多く、ロシアのウクライナへの攻撃を踏まえ、日本とスウェーデンの両国は多くの分野で安全保障上の利益と課題を共有しており、また今年は日本がG7議長国、スウェーデンがEU議長国を上半期務めることから、この二国間関係を強化することがこれまで以上に重要であると書かれている。私は知らなかったが、既に昨年の12月には日本は、防衛分野で高い技術をもつスウェーデンと「防衛装備・技術移転に関する協定」を締結したことも書かれている。

願わくば、日本はスウェーデンの差別撤廃オンブズマンのような制度を参考にしてほしいなと思うし、参考にするものがいきなり徴兵制度などにはならないことを、心より祈ってる。

との抗議の声を上げていたのは、ストックホルムの教師、生徒、そして保護者たち。先週の土曜日に数千人が集まり、学校への予算削減に対抗するデモが行われた。

スピーチに立った教師の1人は「削減された予算を補うために、私たちが身を粉にして働くという状態にはこれ以上耐えられない。もう火消し役は続けられない。火が大きく燃え上がれば政治家たちもこの国の教育の危機に気がつくでしょう」と声を上げた。

教師は削減された予算を補うために、総務、警備員、庶務や学校看護師やカウンセラーとしても働くことはできないと現状を批判する。ストックホルム市の126の公立基礎学校のうち、103校で、2023年度に割り当てられた予算では学校運営が赤字となり、各校は人員削減を迫られている。

他の教師は「教えるために5年もかけて勉強してきたのに、今は教える以外の様々なことに時間を使っている。なんとかやってきたけど、これ以上続けられない」という。

学生アシスタントの人たちが多く加盟する労働組合は「政府は電気代が払えない家に住むことを選んた人たちに、巨額の電気代補助金を支払い、また今社会に蔓延する犯罪を取り締まるために過去最大の取り組みを行っているというが、犯罪への最大の取り組みはこれまで教育、学校に予算を使った福祉国家のスウェーデンで行われてきたのだ」と声を上げる(もっともだ!)

自閉症やADHDの子どもなど特別な支援が必要で、学生アシスタントのおかげで学校生活ができる子どもたちへの配慮も、新予算下ではこの先はなくなっていくことを恐れる保護者の声も聞かれた。

さて、このデモから一週間たったが、まだ大きな変化の兆しは伝わってこない。ストックホルム市は学校を救済するための予算は政府の責任で配分されるべきだといい、教育大臣は予算の責任は自治体にある、という。

「スウェーデンはもっとスウェーデンらしく」  って、言ってましたよね、誰か。

この写真はちょうど1年位前にコペンハーゲンの日本大使館に行く途中にとったものなので、この建物は今はすっかり完成しているはず

この写真はちょうど1年位前にコペンハーゲンの日本大使館に行く途中にとったものなので、この建物は今はすっかり完成しているはず

「コペンハーゲン」って聞いただけでなんだかウキウキしません?(私だけ?😅)街の名前だけでそうなのに、その後に「2023年世界建築都市」ってついていたら、もうワクワクしてしまう。

コペンハーゲンは、ユネスコの指定する今年の世界建築都市で、よりサステナブルで環境負荷が少ない住宅や都市つくりをメインテーマとして、歴史、暮らし、自然にもフォーカスした様々なイベントが年間を通じて開催される。

7月2日から7日までは「持続可能な未来ー誰も置き去りにしない」をテーマとした、1万人を超える建築家や専門家が集まる大規模な国際世界会議UIAも開催される。ここでは今、世界の都市が直面している様々な課題を解決するために建築がどのような役割を果たすことができるのかが話し合われる。

私はもうコペンハーゲンのあり方にはすっかり馴染んでしまったけれど、この街を初めて訪れると、その歴史あふれるが親しみやすい街の佇まいや、自転車の多さ、地下鉄やあちらこちらにある超モダンな建築物にとても驚くはずである。こちらの記事ではそのちょっと度肝を抜かれる系の建物たちの写真がたくさん掲載されている。

私たちはあんまり飛行機に乗ってはいけないのだけれど、この夏やっぱり思い切って北欧まで行くか!と計画している人はコペンハーゲンはお見逃しなく。

これはちゃんと書いておかなくては。

4月のニュースレターで、ストックホルムのレンタサイクルがかっこよかった、と書いたのだけれど、そのレンタサイクルには設計上の問題があることがわかり、現在使用できなくなっている。

去年から始まった、この新しい電動アシスト自転車のレンタルは、ストックホルム市への納入業者との間で、これまでも結構問題続きだったようだ。今回は10日ほど前に、自転車のフレームが折れて利用者が転倒し怪我をするという事故が発生し、ストックホルム市は貸出を中止している。現在バイクを回収し、総合的な点検を行うための取り組みが本格化している。

事故は自転車の設計ミスによるものと考えられ、現在サプライヤーであるイタリアのVaimoo社からのフィードバックを待っている状態だそう。

イタリアのVaimooは、レンタサイクルシステムの運営会社へ自転車を供給するヨーロッパ最大のサプライヤーで、その製品とサービスは約70ヶ国で採用されている。ストックホルム市のこのレンタサイクルシステムは、スペインのInurba Mobility社のスウェーデンの子会社Stockholm eBikes社がストックホルム市から委託を受け運営してるが、同社によると、今回ストックホルムで確認された、自転車の設計上の欠陥はこれまで知られていなかった。

導入時から、部品の供給不足による納期遅れやバッテリーやアプリの性能問題など、さまざまな問題がおこり、それを解決しながらここまできたストックホルム市のeBikesレンタル。先日多くの人が気軽に乗っているのがいいなぁと思っただけに、安全の上の不備があってはもちろん問題外だけど、ミスを修正してまた使えるようになってほしい。

このeBikesは完全に導入されると、ストックホルム全域の300のステーションに、5150台の電動自転車と120台の電動カーゴ自転車が設置される壮大な計画。これからの本格的な自転車シーズンを前に、安全な形で復活することを祈る。

積雪量は例年より少ないが、雪が岩のように硬い。今年もステッケンヨックの荒野の道の除雪作業が始まったが、気候変動のせいか雪の質が以前とは異なり、除雪作業員は固い雪に手こずっている。

(ステッケンヨックについては去年のニュースレターでも取り上げたよ)

ステッケンヨックは、緯度的にはスウェーデンの真ん中あたりから少し北上した付近のノルウェーとの国境近くにある。この先もまだまた北に広大な国土が広がっているが、スウェーデンの南端に住んでいる私にすれば「最北」感が漂う土地だ。

今年も6月6日のナショナルデーの開通を目指して、KlimpfjällとGäddedeの間の「荒野の道」の除雪がおこなわれており、総距離はなんと24キロにも及ぶ。

この冬は、北の街でも暖かい日に雪が溶け、それが凍ったところにまた雪が積もるので滑りやすくなり、転倒事故が増えているというニュースもあった。

このステッケンヨックからのニュースは、広大な雪原と作業員さんのゆったりとした語り口を聞いているだけで和む。この荒野の道は今年も6月6月に開通する予定だが、雪がこれ以上減らないうちに一度見に行く予定を立てた方がいいのかもしれない。

スギ花粉と聞くとそれだけで目鼻がむず痒くなってくるけど、白樺花粉と聞くとどうだろう? なんだか爽やかそうだけど、白樺花粉アレルギーの人の辛さは、きっとスギ花粉アレルギーに負けない(?)のだと思う。

ようやく寒さが緩み始めたスウェーデンだが、今週は花粉アレルギーの人にはとても辛い一週間となりそう。特に大変なのは北部のノールランドに住んでいる人たちだそうで、北部では白樺の花はまだ開花していないが、南部から大量の花粉が暖かい風に乗って大量に移動してくるのだそう。そうなんだ、と軽く聞いていたら、ヨーテボリ大学の花粉研究所のオースロォーグ・ダルさんが、びっくりするようなことをさらっと言った。

「そして高気圧に乗って、東の方からロシアからの花粉もやってきます」!!!

日本でも中国から黄砂がくるので、それほどおかしな話ではないのかもしれないけど、花粉もそんなに遠くからやってくるとは驚きである。

花粉の影響を少しでも減らすには(外はとても気持ちよさそうだけど!)屋外で呼吸が増えるような運動を避けたり、窓を開けないようにしたり、外から帰ってきたら服を着替え、髪を洗う、また外にリクレーションにでたい時には花粉量が少ない海辺や湖畔に行くとよいのだそう。

今朝は軽くランニングしようと思っていたのだけど、白樺花粉アレルギーのない私も、あまりの大量の花粉のせいか喉がちょっといがっらぽいような気もするので、ここはぐっと我慢して、家の中での筋トレをすることにしようっと。

それにしてもこのオースロォーグさん、自宅からビデオでニュース番組のキャスターからの質問に答えていたのだけど、膝の上に愛猫を抱えており、膝から飛び降りようとする猫の動きを何事も起こっていないかのように、自然に抑え込みながら話していた。仕事のビデオ会議で猫を抱えながら参加している人には時々出くわすが、テレビの取材でみたのは初めてかなぁ?にこにこしちゃうよね😊

早ければ、もうすでにこの夏、世界はパリ協定の1.5度の温暖目標を超えてしまう可能性があることをSVTの気候変動問題解説員、エリカ・ビェーストロームが伝えている。私がこのブログを書き始めるきっかけにもなり、スウェーデンで700が暑さを要因とするストレスで死亡した、あの2018年の熱波がこの夏にまた戻ってくる可能性がある。

もしもこの夏、世界の平均気温が1.5度以上上昇してしまったら、それは予想されていたよりも10年も早いことになるが、南ヨーロッパでは既に4月の時点でとても暑く、干ばつに襲われている地方もある。

この気温の上昇はサンゴ礁に壊滅的な影響を与え、広範囲の地域で農業を打撃を与える。ポツダム気候研究所の新しい調査報告書によると、メキシコ湾流は永久に減速してしまう可能性があり、北極海の氷は夏に今よりも40%早く溶け、また永久凍土が溶けてしまうことで、長期にわたる影響がでる。大気中の水蒸気が増え、極端な大雨と一方では甚大な干ばつが増加する。スウェーデンでは北部は例年並みの夏が予想されているが、南部には2018年と同じような熱波がくることが予想されている。

それでも私たちにはまだできることがあって、それは今すぐにでも化石燃料の使用をやめることなのだが、科学者たちの訴えにいまだに誰も真剣に耳を傾けない。

SVT地球温暖化の最新の情報はSVTのこのページにまとめられています。

***

来週は、昇天祭の祝日に合わせて、5月18日(木)〜21日(日)のブログと21日のニュースレターを休みます。来週の月曜日から水曜日までのブログは5月28日(日)のニュースレターでまとめてお送りします。では、こちらではまた2週間後にお会いしましょう。お元気で!

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