オンブズマンにまつわる誤解
イチゴ(Jordgubbar)〈今週のフィーカ話〉
今年の夏至祭のイチゴはどうでしたか? 私がいただいたのはとてもおいしかったのですが、しかしこういう食べ物がおいしいと「気候温暖化のせいではないか?」とつい考えてしまうこのへんな癖をどうにかしなければ。
あまりの美味しさに写真を撮る前に、山盛りのイチゴをパクパクと食べてしまいました
近くのスーパーで夫が買ってきたのは、ルンドの近くで作られたけど、大きなプラスティックの容器に入っていた完熟イチゴ。
ここまで熟させた甘いイチゴは、よくスウェーデンで売られているいつもの紙の箱に盛られているだけだと結構はやく傷んでしまうのだろうけど、プラスティック容器に密封されたイチゴたちはまさに食べごろの状態が保たれていました。これにより廃棄されるイチゴの量はかなり減っているよねと思いながらも、でてしまった大きなプラのゴミをみながら心は複雑。でもイチゴはとてもおいしかった。
そういえば、今週は「イチゴ警察」についてもかきましたね。
やっぱり解散選挙?〈今週のニュース〉
そんなイチゴに一喜一憂するスウェーデンの庶民をよそに、今週もバタバタと激動の政局でした。大方の読みでは、このまま行けば明日の月曜日にはおそらく首相は議会を解散することを強いられ、夏休みが明けたタイミングで選挙となるのか?
コロナ禍での選挙となった場合、今のパンデミック法では街での集会の人数に制限があるので、警察の負担はどれくらい増えるのか? みたいな話題も昨日のニュースでやってましたね。
↑これが、いまのところ最新の動きで、ここに至る経緯は時系列では↓こんな感じでした。
そして政局の話題に疲れた私は、なぜか、スウェーデンの長い休みはどうやって実現してきたのか、というおもしろネタに走ってしまった😅 しかしそこでも「休みはしっかりと計画して活動的に過ごすもので、ダラダラしていてはいけない」という厳しい現実を知ることになり、いっそう疲れた、のでした。
オンブズマンにまつわる誤解〈今週のテーマ〉
スェーデンの政局のニュースも目まぐるしいですが、それよりももっといろんな大変なことがシレッと報道されている感じが否めないのが、ここ連日の日本からのニュース。
オリンピックの話題ももう、どないなってんねん、と思いながら見てますが(でも日本の人がここまで心配したり怒っているだろうということは、こちらからはまったくわかりません。Euro2020も開催中だし、東京五輪も同じような感じで開催されるのだろうとみんな思ってて、日本の多くの人たちの心中はまったく誰も気にしていないと思います)、中でも今週いちばんびっくりしたのがこれまで説明されていたことと内容が異なる赤木ファイルが提出されたのに、麻生財務大臣が再調査はしないと発言したこと。
こんなことってあり! と呆然としたところで、私がなぜか思い出したのは「オンブズマン」という制度。こんな腹立たしさをオンブズマンが解決してくれないのだろうか?
スウェーデン語を勉強しようと思った人は誰でも、最初に日本語にもなっているスウェーデン語ということで、「オリエンテーリング」と「オンブズマン」という言葉について知ることになるわけですが、この「オンブズマン」を、私は長い間、間違って理解していました。
オンブズマン( ≠ ご相談係 ) = 必殺仕事人組織
私が漠然と持っていたのは「ひどい目にあった人が苦情をもって相談に行くことができる、弱者を受け止めてくれる人」という理解でした。おそらくそれも間違ってはいないのでしょうが、実際のオンブズマンの仕事は、権力を持ったものがそれを濫用していないか、子どもの人権やジェンダーにおける問題、労働者の権利などが正しく守られているかを厳しく調査し、闇を暴く必殺仕事人に近い。
またオンブズマンという言葉自体も、選出された数名のことを指すだけと思っていましたが、それよりは、例えば後述する「国会オンブズマン」では「80 名(そのうち60人が法の専門家)の法律に関するプロ集団」として考えた方がよさそうです。
人々からの申立てから調査を始めるだけでなく、疑わしいケースに関しては自ら調査に着手することもある、最高裁の判事レベルの人材が検察の機能も兼ねているような役割で、最終的に罪を裁くことはしないけれども、なぜそのような望ましくない状況が生まれたのか、その理由を詳しく調べ、社会のシステムを弛みなく改善しようとする終わりのない取り組みだと言えます。(オンブズマンが案件を調査した後、起訴することもあります)
スウェーデンの国会オンブズマンはご相談係ではなく、権力を厳しく監査しその濫用を暴く組織で、その任につくには野党与党を問わず、スウェーデン国会の議員すべてから選ばれなくてはいけないという、この国で最高レベルの信任を得た、法律のスペシャストたちです。
つい最近でも、国会オンブズマンは、先ごろ行われたパルメ元首相殺人事件の再捜査に関して検察官の行った記者会見の内容が適切であったかどうかを自主調査してレポートとしてまとめています。これによれば国会オンブズマンは、検察が証拠不十分で起訴できないと言いつつ、同時に容疑者の名前を上げたこと、またこれ以上捜査をしても意味はないと捜査打ち切りとしたことの双方について、適切ではなかったと強い批判を表明しています。
オンブズマンの定義を確認
では、まずは、スウェーデンのオンブズマンの定義をもう一度みていきましょう。 その後で、日本におけるオンブズマン制度の一端を担うものだと総務省が主張している日本の「行政相談」の内容と比べてみたいと思います。
スウェーデンのオンブズマンとは?
もともと代理者を意味するスウェーデン語だが、それ以外の国でも広く用いられるようになっている。また、最近ではこれをオンブズ、オンブズパーソンと言い表すことが多くなっている。日本では通常、国政監察官(行政監査専門員、または行政監察委員ともいう)と訳されている。
スウェーデンで1809年に創設された制度で、国会が政府機関に対する国民の苦情を処理するため任命した官職である。この国では1915年に軍事オンブズマンも設置されたが、1968年には両者が統合されて、3人のオンブズマンが軍隊に対する苦情を含めて、政府の行政機関に対する苦情調査の責任を分担することとなり、1976年には1人の主任オンブズマン兼事務局長を含む4人のオンブズマンが置かれることになった。
スウェーデンのオンブズマンの権限は強大で、警察、外務省、保安当局のすべての活動を含む中央・地方政府、国有化産業、裁判官などの不当な行動に対して、本人の苦情申立ておよび自らのイニシアティブで調査を行い、施設を査察することができる。またいかなる関連文書への接近も拒否されることはない。そして調査結果に基づいて関連の政府機関に勧告をし、国会ないし政府に対して立法および政策変更の提案をすることができる。
現在スウェーデンには「国会オンブズマン」の他にも「報道機関オンブズマン」「消費者オンブズマン」「平等オンブズマン」など多くのオンブズマン組織がありますが、今回はオンブズマン制度の発端で国の仕組みをつくる民主主義制度と最も深く結びついている「国会オンブズマン」制度について詳しくみていきましょう。
(スウェーデン自身が簡単に説明するその他のオンブズマンの仕組みに関してはこちらをどうぞ)
「国会オンブズマン」の呼称による誤解
英語ではThe Parliamentary Ombudsmanと呼ばれ、また日本語でも「国会オンブズマン」と呼ばれているこの制度。その日本語の呼称がこのオンブズマンの仕組みをわかりにくくしていると私は思います。
こちらのオンブズマンはスウェーデン語では「Justitieombudsmannen(略してJO)」ともいい「司法、正義オンブズマン」というほどの意味です。スウェーデン語で国会を表す「Risdagen」s Ombudsmänとも呼ばれるので、「国会オンブズマン」で間違いではないのですが、もっときちんと訳すとすれば「国会が選んだオンブズマン」で、国会の代理人として、行政やさらには裁判所の監査を行う機関です。よって先にあげたパルメ元首相の殺人事件の検察の情報提供の仕方についても、国会オンブズマンによる独自の監査が可能になります。
監査人の監査をまた監査
スウェーデンの政治の仕組みをみていくと、昔はよほどひどい暴政がひかれていたのかと勘ぐってしまうほど、権力者を監視する制度を二重も三重も重ねてあることに気が付きます。このニュースレターの一回目にも書いた、時には行き過ぎるほどの権力者や行政の透明性を求める姿勢もそうですし、報道機関が忖度なく腐敗などを暴こうとする飽くなき姿勢もそうです。
政府や閣僚の行動の監査は、国会の中の憲法委員会(与野党の国会議員で構成されます)や、今回の首相への不信任決議のように国会議員が行い、行政や裁判所の監査は国会議員たち全員の信任を得た国会オンブズマンが行う。
国会オンブズマンの監査はだれが行っているのという質問については2012年から2016年まで主席国会オンブズマンを努めたエリザべット・フーラが、以前インタビューで「オンブズマンは常にジャーナリストの厳しい目にさられている」と話しています。
オンブズマンも他の公的な立場の人たちと同様、よほどの機密事項でない限りは、すべてのメールのやり取りに至るまで公開されるレベルの透明性で仕事をしています。ちなみに現在の主席国会オンブズマンもエリザベツ・リュニングという女性です。
オンブズマンじゃないよ、これ。「行政相談」の役割
行政がなっとらん、と怒り狂っている時に「キクーン」をみたらもっと怒るな、私なら。なめられてる国民?
さて、次に日本の総務省が「日本のオンブズマン制度の機能を担う制度の一つ」といっている総務省の行政相談の内容をみていきたい思います。
日本においては、総務省の行政相談制度がオンブズマンの機能を担う制度の一つとして挙げられます。行政相談制度は、我が国の政治的、社会的風土の中で発展してきた独自の行政苦情救済制度であり、総務省行政評価局、行政相談委員及び苦情救済推進会議の三者が一体となってオンブズマンの機能を果たしているとして、国際的なオンブズマンの団体である国際オンブズマン協会(IOI)やアジア・オンブズマン協会(AOA)から評価されています。
スウェーデンのオンブズマンと同様、総務省の行政評価局でも毎年相談の実績を発表しています。総務省サイトで閲覧できる最近のまとめでは、実績として最初に以下の例が紹介されていました。
これでは本当に相談や苦情への対応で、これはこれで必要な機能ですが、権力の濫用を監視する役割などは望むべくもない。さらには行政相談は総務省の中の一組織が管轄しており、本来なら監視されるべき機関がオンブズマンとしても機能を果たそうとしているという、オンブズマンなら当然あるべき独立性が保たれていない。
この、日本の統治機構に独立した監査機関が欠如しているという問題には、これまでにも政治側からも着手しようとした試みは幾度もあったようで、少しネットで調べただけでも、衆議院憲法調査会が2004年にまとめた詳細なレポートや、参議院の行政監視委員会調査室がまとめた簡単な報告書も出てきます。
キクーンなんかにごまかされてはいけない
しかし今でも「キクーン」で私たちはごまかされており、画期的なことはなにも起こっていない。
赤木ファイルに関しても、コピーは国会に提出されたが、まだ原本は開示されておらず、また裁判中であることも盾にして、麻生財務大臣や財務省はこれからも全容を明かそうとはしないでしょうが、そんな状況にも切り込めるオンブズマンの機能は、今の日本の政治に一番必要なものではないでしょうか?
2015年にこの本来のオンブズマンの役割をぜひ日本でも!と、学生論文を書かれて、その後も東京大学公共政策大学院で研究を続けられた松本さんの「公共オンブズマンの設置」という小論文を読みました。
書かれた本人も「現実の政治制度から大きく離れた制度」で「実現可能性を疑っているが、現実から跳躍したと見れるほどの政治制度の立て直しを2030年までに作らなければ、信頼を失った政治の力が衰え、もはや何もできない政治になってしまうのでは」といっている、この4ページほどの論文を紹介して今日のテーマ記事は終わりたいと思います。
政治への信頼を取り戻し、社会における当事者意識をはぐぐむシステムとして「公共オンブズマン」を提案。公共オンブズマンの設置ー市民の政治参加の架け橋
さて、オンブズマンについて誤解していたのは私だけだったのでしょうか? なにしろ、日本人なら「オンブ」を連想してしまうそんな優しそうなその名称とは裏腹に、闇に腐敗に切り込む最後の切り札、ともいえるその制度。本当に日本でもスウェーデンでの本来のあり方でオンブズマン制度を国として実現してほしいと願います。
地コンブチャ(Kombucha)〈今週のスウェ推し〉
さて、オンブズマンで熱くなったところで、本日のスウェ推しは地コンブチャ。こちらはマルメのRoots of Malmöが作っているコンブチャです。
この他にもラズベリーやしょうが、ターメリックなど体によさそうなフレイバーがいっぱい
スウェーデンでKombuchaがブームになって久しく、何を今更なのですが、実は私、コロナ禍ですっかりお酒を飲まなくなり、暑い季節でもシャンパンやカヴァにも手がでない。
お酒を飲まなくなったのは、免疫を低くしてしまったり不注意になったりしたくないなぁ、と思ったのと、みんながお酒を飲みたくなる週末や連休の前には国営酒店のシステーメットがとても混むので、並んでまで買いに行くのが邪魔くさくなったからですが、かといってノンアルコールのドリンクはちゃんと選ばないと、甘い飲み物が苦手な私には飲めないものも結構多い。
そこでKombucha! 酸っぱいことはあっても、甘すぎるものにはまだ遭遇していないし、ほのかな炭酸が爽やかでおまけに発酵飲料で腸内細菌によろしい。ちょっと高いと言えば高いけど、おいしい発泡酒に比べれば全然安いし。
一時はおしゃれエコブランドのレネー・ヴォルテールのものも買ってましたが、最近はもっぱらマルメで作っているRoots of Malmöのコンブチャを愛飲しています。
日本でも甘い飲み物苦手な人多いだろうし、なぜKombuchaがブームになったりしないのかな?と思っていましたが、多分コンブチャって発酵の進み方具合で中にダマとかできたりするし、日本の購買者向けには品質管理とか難しいのだろうか?と思ったり。保存や長距離運送にも敏感そうだし、作られた近くでさっさと消費するのがいい飲み物のような気もする。
それとも私が知らないだけで、日本でも地ビールと同様、おいしい地コンブチャも続々出てきていたりするのだろうか? 日本のコンブチャ事情に詳しい方、ぜひ最新情報をお教えくださーい。
それとも問題はやっぱり昆布茶協会?との呼称ややこしいとか、以前の紅茶キノコっていう名前がネックなのだろうか、単純に?
ということで、今週はこのあたりで〜。では、また来週!Vi ses! 👋
swelog weekendは毎週日曜日にメールで配信しています。
気になられた方はぜひこちらからご登録ください。
すでに登録済みの方は こちら