ユーモアで政治を変えたアストリッド・リンドグレーン

歯医者 (Tandläkare) / 「事件」のニュース /ユーモアで政治を変えたアストリッド・リンドグレーン / ブレーキンゲの島
ブロムベリひろみ 2021.07.10
誰でも

歯医者 (Tandläkare)〈今週のフィーカ話〉

一大決心をしてインプラント治療の予約をとろうとした友人から「待ち時間16ヶ月っていわれた😱」とスウェーデンの医療システムの怪談を聞いて、コロナでまた一層医療の待ち時間がえらいことになってるな、と、しかしある意味他人事として耳にしたのもつかの間。(こちらは一年前のニュースだけど、今はこれより一層ひどくなっているはず)

今度は自分が歯にちょっと違和感を感じることに。前回の検診からちょうど1年位経ってるしそろそろ一度みてもらったほうがいいのではと、近くの地方自治体運営の歯科診療所に電話して、前回検診してもらっった歯科医の予約を取れないか聞いてみたら「歯が痛い、とか緊急の用件じゃないと予約は基本的にできない」と言われました。

「すぐに診てもらいたかったら緊急予約をとって。同じ歯医者になるかどうか約束はできないし、その場合は緊急料金が600クローナ(約7800円)上乗せになるけど。一回の診療につき1500から2000クローナ(約1万9千円〜2万6千円)の心つもりしていてね」とも。

虫歯になったりしていないか、ちょっとチェックしてほしいと思っただけなのに、最低でも軽く2万円かかるんですか😰 私がスウェーデンに引越してきてからも、なぜ歯医者はずっと日本でお世話になっていたのか、その理由を思い出しました。冒頭の友人は、16ヶ月はあんまりだとその後電話してみたら、キャンセル待ちが出たとかであっさりすぐに予約がとれたのもスウェーデンらしいといえば、スウェーデンらしい。

歯医者は早く診てもらうに越したことはないだろうから、ホンマにこの状況改善してほしい。ちなみに定期歯科検診のお知らせは今のところコロナで遅れすぎていて、一体どれくらい遅れていて、いつ次のお知らせが来るのかよくわからない状態のようでした。わー!、ですわ。

***

「事件」のニュース〈今週のニュース〉

今週は「事件」に関するニュースを多くブログでも取り上げました。swelogはニュースウォッチブログですが、いわゆる「事件」ものはこれまではあまり扱ってはおらず、ブログのカテゴリーでも、事件に関する記事は「暮らしの輪郭」という大きな括りのカテゴリーに入れていました。

しかし、今週のサイバー攻撃のニュースや刃物の殺傷事件に関するニュースに限らず、「事件」とその背景に関して書くことが以前より増えてきたように思い、今週「事件」というカテゴリーを新しく作りました。

「事件」の詳細をメインに書くことはこれからもしないと思いますが、金曜日にはまたあちらこちらで発砲事件があったりもしたし、「事件」と切り離して今のスウェーデンを考えることはできないのも事実です。このカテゴリーの中でどのようなブログ記事を私は書いていくのか、自分自身よくわかっていませんが、まずは「事件」をもう少し正面から考えていくことにしました。

「事件」以外では、今回の一連の首相不信任から再任命の騒ぎの中で、ちょっと目立ったわが道をいく女性議員たちのことと、(事件報道に疲れた私の、いわゆる一種の現実逃避?)加熱する伝書鳩レースビジネスと、国王と首相をおちょくる人気のミームの話で終わった1週間でした。

こんな感じでswelog weekendでは、毎日更新しているブログswelog(スウェログ)で取り上げたニュース記事を一週間分まとめて、日曜日にニュースレターとしてメールでお送りしています。おもしろそうと思っていただければ、ぜひ下記の「無料購読する」からご登録ください。

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ユーモアで政治を変えたアストリッド・リンドグレーン〈今週のテーマ〉

最近の政治批判にはユーモアが足りない

上のミームの話ではないですが、市井の民は直接世の中を変えることはできなくてもおちょくることで大変な状況も笑い飛ばせるし、特には何かが少し変わることもある。昭和の大阪で生まれ育った私は「責任者でてこーい!」と時事ニュースにちゃちゃをいれていた漫才師の人生幸朗さんをよく覚えてます(へんな困ったおじいちゃんだったけど、権力者に正面きって物申せなくても、おちょくることはできることを教えてもらいました)。

近年のSNSの普及で、誰もが今の世の中で起こっていることを簡単に批判したりディスったりすることができるようになったけれど、みんなユーモアがちょっとたりまへんで! と思いませんか? ユーモアは人々の心により響くし、時には大きく人を動かすのに。そして閉塞した社会の息抜きにもなる。

「モニスマニエン国のポンペリポッサ」で税制をおちょくる

北欧通の人が多いだろうと私が勝手に推測するこのニュースレターの購読者の皆さんの中には、アストリッド・リンドグレーンが「モニスマニエン国のポンペリポッサ」という物語を発表してスウェーデンの税制を風刺し、その税制も改正し、そして当時40年に渡って政権を担当していた社会民主党政権を倒してしまうほどの影響力を持つことになった、と、どこかで読まれた方も多いのではないでしょうか。

税制改正にとどまらず、人権や原発や動物愛護の問題など、様々な領域でオピニオンリーダーとしても活躍したリンドグレーン。税制を批判したと聞くとずいぶんと真面目な感じですが、当時の人はタブロイド紙に発表されたこの「モニスマニエン国のポンペリポッサ」というタイトルを聞いただけでふふふ、と微笑まずにはいられなかったと思います。

(下記はこの物語が発表された1976年3月10日を「女性の歴史」の記念日のひとつとして伝えるツイッターアカウントです)

Kvinnohistoria
@kvinnohistoria
10 mars 1976 publicerade Expressen Astrid Lindgrens satiriska saga "Pomperipossa i Monismanien" som kritiserade det svenska skattesystemet. Lindgren skrev texten som ett debattinlägg om höga mariginalskatter, då hon hade upptäckt att hon själv betalade 102 procent i skatt.
2018/03/10 16:08
184Retweet 409Likes

問題にはユーモアで切り込むリンドグレーン

まずは「モニスマニエン国のポンペリポッサ」の物語と、なぜそのタイトルだけでも当時の人の笑いを誘ったのかをみていきましょう。

その前に、ポンペリポッサの物語に関する一連の話は以下の記事に簡潔にまとめられていますので、ご存知ない方はぜひご一読ください。

当時絶大な人気を誇ったダブロイド誌Expressenに掲載されたこの物語は、今もExpressenのホームページで読むことができます。

ポンペリポッサとモニスマニエンはどこから来た?

ポンペリポッサにモニスマニエン。

この2つの奇妙な名前は、昔、スウェーデンの喜劇作家が書いた物語と、リンドグレーンの物語が発表された少し前に公開された当時の映画から彼女が拝借したものでした。ポンペリポッサは1895年に発表された喜劇作家ファキールによる「鼻の長いポンペリポッサ」というお話から。またモニスマニエンはリンドグレーンがこの寓話を発表する前年に公開された一党独裁制による世界を描いた「モニスマニエン1995」という映画からつけられています。

当時のスウェーデンの人はポンペリポッサという名前を聞いただけで、なにかおもしろい話だな、とピンとくるようなタイトル。それが恐怖政治の話と結び付けられていることで、政権を揶揄しようとする話だなと検討がつきます。

自身への批判にもユーモアで切り返す

この発表された物語だけでも十分な反響があったそうですが、ポンペリポッサの物語の伝説をさらに高めたのが、物語を公開したことで受けた彼女への批判を、リンドグレーンがさらに切れ味のいいユーモアで切り替えしたところにあります。

世の中の反響に押されるようにポンペリポッサの物語を読んだ当時の財務大臣グンナー・ストレングは「リンドグレーンは物語においては素晴らしい才能があるが、税制に関しては無知のようだ」と批判します。

しかし彼の批判にリンドグレーンは「これはお国の税務庁が計算してきたこと。ストレングはおとぎ話をつくるのは得意そうだが、どうやら計算はできないようなので、よかったら仕事を交換しましょう」とさらなるユーモアで切り返し、これが人々の喝采をさらった。

この後にこのおとぎ話のようなアホらしい税制は改正されることになり、その税制を作った社会民主党は民意を失います。オピニオンリーダーと聞くと今日では問題に厳しく切り込む人をイメージしてしまいますが、人々にくすっと笑わせて、世の中の問題に気づかせるのはまさに物語作家の底力。

モノやコトが細分化されてきた現代では、リンドグレーンのように広く国民から愛されていた作家や、当時のエキスプレッセンのように多くの人に影響力を持っていたメディアに相当する存在を見つけること自体難しいですが、社会の問題にユーモアで切り込むという態度や戦術はもっともっと使われてもいいと思います。

日本でもスウェーデンでも、ユーモアよ、がんばれ!

リンドグレーンの納税証明書

余談ですが、今回このリンドグレーンの物語の背景を調べていたらスウェーデンらしい、おもしろい資料に出会いました。これは2019年にTimbroという保守系シンクタンクの経済問題研究員が発表していた記事で、リンドグレーンが102%と書いた税率は本当に正しかったのかを検証したもので、ウェブで読める興味深い記事になっています。

私が驚いたのは、この検証の過程で記事の著者が、該当する年のアストリッド・リンドグレーンの納税証明書をストックホルムの公文書館に請求して入手したものを記事で掲載していたことです。

他人の納税証明は税務署に請求すれば今も誰でも他の人のものを入手することができますし、メディアはこのように必要だと判断すればその情報を公開することもできます。(その原則に絡んで今起こっている個人情報の問題については、このニュースレターの第一回にも書きました)

うーん、今のところ私の納税情報は一般市民が知っても誰にもメリットはないので、こんな羽目には陥りませんが、やはりどこまでも透明で公開されるのだな…と改めて実感。

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ブレーキンゲの島〈今週のスウェ推し〉

崖の上から飛び込もうとしている少年を、みんなでのんびり見守っています

崖の上から飛び込もうとしている少年を、みんなでのんびり見守っています

今週のお勧め、スウェ推しは「ブレーキングの島」です。昨日からブレーキングのTjäröという島に来ています。スウェーデンの群島(アキペラゴ)といえば、ストックホルムやヨーテボリの北に位置するBohuslänが有名ですが、ブレーキング地方にもすばらしい小さな島がたくさんあります。

スコーネ地方の北西に位置するブレーキングは、ちょっと他の都市からは離れているけど、海も森も美しく風光明媚。19世紀終わりから20世紀の初めにはスモーランド地方と並んでこの地方からも貧しい農民たちがたくさんアメリカに移民として渡っていったという歴史があります。

普段からストックホルムは東京、ヨーテボリは名古屋、マルメは大阪(で、ルンドは京都)とスウェーデンの各地方、各都市を勝手に日本に置き換えて人に説明している私は、ブレーキングは「四国」ではないかと! 南が新大陸や太平洋に開けているところも似ているんじゃないかと思ったのですが、どうでしょう?

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それではまた来週〜。読んで面白かったなと思ってもらえたらTwitterなどで感想をシェアいただければ嬉しいです またこんな話に興味がありそうな方にもswelog weekendをぜひご紹介ください〜。 Vi ses! 👋

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