スウェーデン歴代1位の映画はこれ! 映画ランキングと世相
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スウェーデン歴代1位の映画はこれ! 映画ランキングと世相
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リベラル(党)が死んでいく
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毎年500万回の停電
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貧しいスウェーデンに備えよ
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子どもと睡眠薬
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出版業界は不況を恐れない。非常時には本。
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アニー・エルノーは「アクティビストに」
スウェーデン歴代1位の映画はこれ!映画ランキングと世相
『霊魂の不滅』(第1位)
今回、スウェーデンの映画人、評論家72名にアンケート調査を行いランキングを発表したのは映画メディアのFLM。FLMは今も紙の映画雑誌を年に4回発行し(すごい!)、またウェブやニュースレターでも映画関連情報を提供している。FLMは2012年にも同じランキングを発表したが、前回に続き今回も輝ける1位に選ばれたのは、ヴィクトール・シェストレーム監督の『霊魂の不滅』(1921年)。
これはスウェーデンの映画の黎明期から、世界に名を馳せたスウェーデン無声映画の黄金期(1917〜1924年)にかけて、そしてその後はハリウッドでも監督として活躍したヴィクトール・シェストレームが、ノーベル文学賞作家のセルマ・ラーゲルレーヴの原作(『幻の馬車』原題・Körkarlen(「御者」の意味))を元に脚本を書き、監督し、さらには主演も務めた作品で、スウェーデンだけではなく世界の映画史上、必ず語られなくてはいけない100年以上前につくられた超重要作品だ。
なぜ、この映画がすごいのか、その理由はいくつもありすぎて、とてもこのニュースレターには書ききれないが、上にあげたクリップだけでも観てもらうと、冒頭のカットで、ベリマンの『第七の封印』のダンスシーンを思い浮かべた人もいるかもしれない。ベリマンは12,13歳くらいの時にこの映画を初めて観て、生涯で最も強い影響を受けたのがこの『霊魂の不滅』であると語っており、毎年夏には一度、必ずこの映画を周囲の人たちと一緒に見る習慣にしていたことをインタビューで明かしている。
シェストレームは、ベリマンが監督としてスタートは切ったがまったくイケてなかった駆け出しの時代にメンターとしてベリマンを支えた人でもあり、またシェストレームが亡くなる直前、最後の主演作品として請われて出たのが、ベリマンの『野いちご』だった。『野いちご』のイサック・ボリ教授と言えば覚えている人もいるかもしれないが、それが『霊魂の不滅』を作ったスウェーデン映画の父、ヴィクトール・シェストレーム、その人だ。
『霊魂の不滅』に衝撃を受けたのはベリマンだけではなく、例えば『シャイニング』の中の、斧で扉を破壊するあの恐ろしいシーンも『霊魂の不滅』から影響を受けていることの指摘など、この映画が与えた影響は、公開後100年以上経った今もここかしこで確認することができる(この斧のシーンや他のシーンも、他の映画でも瓜二つなので、下の動画でお確かめください)。
ちなみにこの映画、2007年に大規模なフィルムの修復デジタル化作業が行われ、この時にマッティ・バイ(Matti Bye)によるすばらしい伴奏音楽もつけられた。この結果『霊魂の不滅』は新しく映画館で上映されたり、改めてDVDも発売されたし、また各種ストリーミングサービスのラインナップにも加えられた。『霊魂の不滅』は日本ではAmazonプライムにも入っていて視聴することができるよう。未見の方はぜひ。
『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(第2位)
『霊魂の不滅』がスウェーデンのNo1映画であることに異論はないようだが、映画ランキングはその時代、時代の世相や事情を反映した変化がある。今回のFLMのランキング2位には、ロイ・アンデションの鮮やかなデビュー作『スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー』(1970年)が2位に入っているが、この映画は1990年代あたりには権利関係の問題でほとんど観ることのできる機会がなく、半ば忘れられてしまっていたが、今はストリーミングで簡単に観ることができこの映画のことを語る人も、その機会も増えた。
スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー
『散歩する惑星』(2000)、『さよなら、人類』(2014)などで知られるR・アンダーソン(アンデション)監督が26歳で発表し、ベルリン国際映画祭で4賞を受賞、本国でも大ヒットを記録したデビュー作。ソフト・ロック調の爽やかな旋律に乗って、15歳の少年ペール(ソールマン)と13歳の少女アニカ(シュリーン)が育む初々しい恋模様が、世俗の垢にまみれた大人たちと対比して描かれる。1971年日本初公開時の題名は『純愛日記』。
『ショー・ミー・ラブ』(第5位)、『ガールズ』(第6位)
他にも今回5位に入った『ショー・ミー・ラブ』(1998年)や、6位に入ったマイ・セッテリングの『ガールズ』(1968年)は、前回のFLMランキングは共に20位。順位が上がった背景には、『ショー・ミー・ラブ』が扱った、同性愛の少女たちの恋やLGBTQへの意識と理解の高まりが指摘されている。また、公開時には批評、興行とも散々な結果だった『ガールズ』は、以前は見向きもされなかった女性の映画監督の作品にもようやく光があたってきたことや、この作品が扱っているフェミニズムというテーマが、2022年の今、やっと評価される段階になったと分析する批評家もいる。
『ガールズ』
女優から監督に転身したセッテリングの長篇第4作。パートナーとの関係にそれぞれ問題を抱える女優三人が、アリストパネス「女の平和」のツアー中、女性の権利獲得をめぐる困難に直面する。現実と非現実が入り交じる大胆な形式で表現された過激な風刺性は、当時の批評家と観客の反感を買い、その後18年にわたりセッテリングをスウェーデンでの映画製作から遠ざけることとなった。現在ではスウェーデン映画ベストにもしばしば挙げられる。
さて、こちらのランキングは25位まであるのだが、イングマール・ベリマンの映画でベスト10入りしているのは、3位に『仮面・ペルソナ』、9位に『ファニーとアレクサンドル』そして、10位に『野いちご』の3作品。ベリマンの映画がNo1に選ばれないのは、ベリマンは40を超える映画作品をつくっており、こういったランキングでは票が分かれる、という事情もあるのかもしれない。
このランキング、FLMのサイトでは無料公開されていないので、私もコピペすることは今日のところは控えたいと思うのだけれど、またそのうちランキングの中からおもしろそうなものを紹介していきたい。たった25本なのだけれど、私もまだ観ていないものあるので楽しみだ。
しかし、この25本のうち、今、ストリーミングサービスで観ることのできないのはたった1本だけだそうで、そういう意味では「昔の映画の現代性」は格段にあがった。我が家にホームシアターがないのは残念だけど、うちのテレビも一応55インチくらいはあるので、これでせっせとスウェーデン映画の至宝を発掘していくことにしようっと🎬
そして、スウェーデンの移民政策は大転換し、原子力発電所新規建設と再稼働はエネルギー政策の中心に添えられ、「スウェーデンの文化」をもっと行き渡らせるような文化政策がとられる。昨日、右派陣営が発表した今後の政権運営に関する合意の大枠は、ざっとそんな内容だ。
17世紀に建設されたティード城に閉じこもって交渉が行われたことから「ティード合意」と呼ばれることになった今回の新政権の大枠合意では、極右政党のスウェーデン民主党は大臣のポストを得ることはなかったが、その代わりに移民政策や犯罪取締り、文化政策などの分野で、政策の決定に大きな影響力を持つことになった。
(右派連合政権による新しいスウェーデンはこんな感じだ)
ティード合意は、今日15日(土)に正式提案が行われて、月曜日に穏健党党首のウルフ・クリステルソンを首相として選出するかどうかの投票が国会で行われ、火曜日にはクリステルソンが新政府の閣僚を発表し、国王が彼を首相に任命するというセレモニーが行われるはずである。
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私が上の記事で2%くらい期待したミラクルは結局は起こらなかったが、しかし、昨日の発表にリベラル(自由)党の数人の議員たちが、強い反意を表明し始めた。
元国会議員でリベラル党の重鎮バルブロ・ヴェステルホルムは、今回の結果に落胆し、離党するかどうか一晩寝て考えると発言。リベラル党党首経験者のマリア・レイスネールは、ティード合意の発表に涙したと語り「リベラル党が死んでいくところを目撃しているようだ」とコメントしている。またリベラル党青年部は月曜日の首相選任投票でクリステルソンにNOと投票するように、党の国会議員たちに要求している。
リベラル党青年部役員のアントン・ホルムフルトは「リベラル党は右派政権がポピュリズムに傾かないように右派連合の一員として目を光らせると国民と青年部に約束したのに、今回の合意で発表された、難民のための中間待機場所の設置や、犯罪検挙のために匿名の目撃者を有効とすること、そして難民受け入れ数の大幅削除などは、青年部として到底受け入れられる内容ではない」と批判する。他には発展途上国への援助金の大幅削除の合意に、深く嘆く古参議員もいる。
一方でリベラル党党首のヨハン・ペーションは「すべてのリベラル党の国会議員は月曜日にはクリステルソンの首相選出にYESの投票を行うと合意している」と明言しており、これからのスウェーデンがティード合意の元で運営されていくことはほぼ間違いない。
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アフトンボラーデットのアンデシュ・リンドベリは、昨日発表した論説で、9月のスウェーデン選挙の後にドイツの風刺画家Harm Bengenが発表したイラストに言及し、また2017年当時それまではまともな党として扱われていなかった極右政党のスウェーデン民主党と協力体制を図る緒をつくった、当時の穏健党の党首アンナ・シンベリ・バトラへ、ホロコーストを生き残ったエメリッヒ・ロートさんが送った言葉を紹介している。
「悪が制服とブーツを着て、憎悪を撒き散らしているだけであれば、それほど危険なものではないのです。悪がスーツを身にまとい、借り物の言葉で表面を取り繕う時こそ本当に危険なのです」
「スウェーデンの家庭では年に500万回の停電が発生している」という一文で始まるこの記事は、停電の多さを伝えるための記事ではないようで、突発的停電と計画的停電の違いを伝え、いずれにせよ、一般家庭でも2,3時間程度の停電には対応できるように準備しておけ、というのが主なメッセージのようだった。
しかし、国全体で480万世帯しかないスウェーデンで、年に500万回の停電が起きていると聞けば普通に驚く。修理工事などのために行われる計画的停電とは違い、突発的停電は、突風の影響や、暴風雨による倒木によるもの、そして工事中の断線事故によって起こる……とサラリと説明されているが、この断線事故、そんなことも起こるよな、と断線が起こることも予め盛り込み済みで世の中は回っているのだろうか?
私の住んでいるアパートでは、今下水管の交換工事をしている最中で、毎日大きな機械が盛大にアパートの前の地面をを掘っている。今週頭、日中に突然インターネットが使えなくなったそうで(私は会社にいたので影響なかったが)、それはこの工事中に間違って線を切ってしまったことが原因だった。幸いこの断線は数時間で修復されたが、こういう事故は、起こらないように細心の注意を払って掘り掘りしているのだと思っていたけど、スウェーデンではどうやらそうではないようだ😅 まぁ、たしかに細心の注意を払っているという感じはまったくない工事現場なのだけれど。
ということで、もう冬だし嵐の季節だし、停電に備えてロウソクとか懐中電灯とかガスコンロとか、そんなものを備えておくとよい、という話でした。チャンチャン♪
今年のベストセラー本『金儲け スウェーデン(Girig-Sverig)』のアンドレアス・セルヴェンカがアフトンボラーデットに書いている経済コラムが面白い。今日紹介するのは、福祉国家として名を馳せたスウェーデンで貧困層が増えているというもの。
セルヴェンカは大金持ちのリストを発表しているが、コラムは、その金持ち一族の一員から、今の株価低迷で資産が数十億と減ったのでリストを更新するべきではないかという手紙をもらったことへの言及から始まり(セルヴェンカは、この一族にはそれでもまだ数十億残っているとコメント)、スウェーデンで貧困層が増えていることを数字を使って説いていく。
スウェーデン中央統計庁によると、前回インフレが激しかった1991年にはスウェーデンで低所得水準の暮らしとされた人は全体の7.3%だった。それが2020年には14.7%と倍増しており、またシングルマザーだけに限ると、その率は1991年の12.5%から37.5%まで増えている。
ここでの低所得水準とは所得が全体の中央値の6割に満たないことを指すが、セルヴェンカはこれが主にスウェーデンの平等社会のイメージを維持したい人たちや経済界から資金援助を受けている研究者やオピニオンリーダーたちから「あくまでも相対的な貧しさにすぎず、スウェーデンはみんながよい暮らしをしている」いう論説に利用されてきたと指摘する。
確かに、1991年から2020年の間にも最も所得の低い10%の所得も、毎年1%、合計で31%増えているが、平均では77%、所得の多い上位10%の人の間では同期間に所得は130%増えている。格差は拡大しており、下位10%の人たちの手元には、税金を払うと毎月8500クローナ(11万1000円)しか残らない(この国ではさらに消費税が25%(食品は12%)かかる)。
コラムはこの低所得層の人たちのこの冬が、今のインフレと電気代の高騰でかなり厳しいものになること、しかし、スウェーデンには低所得者層を代表してロビイング活動を行う組織はないので、この人たちの声が政治に反映されない状況がこれからも続くだろうことを訴える。
セルヴェンカは欧州中央銀行のチーフエコノミストが、低所得層救済のために富裕層への増税を提案していることに言及、しかし、このような議論は今のスウェーデンではまったく行われていないことを嘆く。
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今日はそろそろこのへんで書くのをやめないといけないが、セルヴェンカのコラムには他では読めない視点が含まれているので、これからもちょくちょく紹介していこうっと☝️
スウェーデン社会庁の統計によると、睡眠薬や鎮静剤の処方を受ける子どもはこの10年間で5倍に増えた。睡眠薬の処方を受ける子どもの数は2011年には1万6000人だったが、2021年には8万4000人となった。
背景にあるのは、睡眠ホルモンであるメラトニンが処方できるようになったことで、メラトニンを処方される人はスウェーデンだけでなく、他の国でも爆発的に増えていると、小児科医のクリスティーナ・テドロフさんがSVTのニュース番組で説明していた。彼女はまた不眠に一番効くのは「暗くて、静かで、冷えている場所」という寝る場所の環境に気を配ることだと言う。日中は外で出て体を動かすという比較的単純なことが「睡眠衛生」に大きな影響を与える。
メラトニンの処方は長期的な服用による影響もまだよくわかっていないし、子どもでの治験も行われていないので、服用する場合は短期間の限定的なものであるべきだとも指摘されていた。
私は一度「よく寝るためにどうするか」という本を読んでまとめたおかげもあってか、眠れないということはほとんどなく悩みは眠れないではなくて、もっと寝たいだ。春眠暁を覚えず、とよくいうけど、スウェーデンに暮らす感覚で言えば、すっかり暗くなってきた今が、一年の中でも一番眠い季節な感じで、秋眠暁を覚えず、なのは私だけかな?
不眠でお悩みの方はこちらもご一読ください。
スウェーデンでは来年辺りから景気が後退すると考えられているが、書籍は不況の中でも売れ続けるだろうと、スウェーデン出版社連合組合の代表が話している。これまでの歴史を振り返ってみても、書籍は経済や社会の不確実性からの影響を受けることが少なかった。
本の価格は今後さらに上がることが見込まれているが、本の売上はその値上げによる影響を受けることは少ないと組合ではみている。(スウェーデンの本は日本の感覚からするとかなり高いが、本屋により価格は異なり、また年に一回超大型バーゲン・セールがある)
書店を訪れる4人に3人はこれからも同じように本を買うと答えた、英国で行われた調査結果を引き合いに出しながら、組合の代表は「他のカルチャーにかかるコストと比較すれば、書籍の価格はまだまだ安い。そして本の賞味期間はとっても長い」と説明する。本の将来は明るいのか? なんだか元気になってきた。
そういえば先日「非常袋にも文化が必要」って記事をみかけた。これは今、社会防衛対策庁(MSB)が啓蒙している非常袋用の準備品目の中には、本や文化に関するものが入っていないが、これがこの先変更される可能性のあることをMSBの担当者がコメントしたもの。この記事で実施されていた有識者へのアンケートでは、非常袋にあるとよい本として、聖書やシェイクスピア、また『ムーミン谷の冬』などがあげられていた。
非常時こそ叡智。
「今後は社会の不公平について書くだけではなく、論客として世の中を変えたい。声を上げていきたい」と、昨夜テレビの文学番組で語っていたのは今年のノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノー。
私は彼女の本は読んだことないが、これまでどんな作品を書いてこられたのかを読んで気になっていたが、インタビューでの発言も素晴らしかった。いわく「請わられれば、私は女性の権利のために闘い続けるでしょう。セクシュアリティ、家事、そして仕事の面で、女性が男性と平等になるまでには、まだまだ多くの隔たりがある」という彼女は、82歳。
社会派論客として、「すべての人の尊厳のある人生のために戦う」という彼女が、その言葉で意味するのは「物質面での安定と将来のビジョンを持つことができる環境」だという。そのためには学校教育でその基礎が築かれなくてならないが、これが今フランスでもヨーロッパ全体でも、不公平な状況になっているとアニー・エルノーは言う。
そして、彼女はまた「自分の人生に起こったことは、書くまでは起こっていない」という体験についても語る。書かないと、それは起こっていないの同じこと。書くことによって記録するというのが大事なのではなく、書くことで何が起こったのかを自分で理解すること、それが重要なのだと話す。書くということは世界を理解することなのだと。
私にも自分で自然に封印してしまっていた感情にある時突然気づき、ああ、自分はあの時悲しかったのだな、つらかったのだな、とわかったことが何回があった。アニー・エルノーは書くことでそれを行い、さらにはその個人の体験を普遍化させ、それが世の中を動かす原動力になることについて話している。
こんなブログのようなものであっても、それでも何かを書く人は、みんな小さなアクティビストの卵?
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