大金持ちのパラダイス スウェーデン

「世界で最も平等な国のひとつであったスウェーデンは、いつの間にか世界でも有数の格差社会で、大金持ちのパラダイスになってしまった」。長年経済の分野で活躍してきたジャーナリストが書いた『金儲け スウェーデン(Girig-Sverig)』という本が話題になっている。
ブロムベリひろみ 2022.05.01
誰でも

  • 大金持ちのパラダイス スウェーデン

  • 教会のストライキ

  • 突然口座残高がマイナスに😱

  • 取るに足らない意見と感情の増幅

  • コロナ感染の新たなピークは5月中旬に

  • 「Hen」の現在

  • 魚のアニマルウェルフェア

  • 映画『The Northman (ノースマン)』を観たよ!

大金持ちのパラダイス スウェーデン

アンドレアス・セルヴェンカはスウェーデンを代表するメディア各社で長年経済担当として働き、近年はシリコンバレー特派員としても活躍したジャーナリスト。アメリカで取材を続けるうちに、未だに多くの人が持つ「平等で社会民主的なスウェーデン」というスウェーデン像はまったく実情を表していないことに苛立ち、これを主題に『金儲け スウェーデン(Girig-Sverig)』を書くことを思い立った。

セルヴェンカの本によると、スウェーデンの超富裕層とそれ以外の人々の間の格差は近年急速に広がっており、上位数%の超富裕層が所有する資産の割合はアメリカと比べても高くなっており、数十億アメリカドルの資産を持つお金持ちの数は、スウェーデンよりも遥かに大きな国である日本やブラジルと比較しても多い。

Gigig-Sverigeより。スウェーデン(2021年値)とアメリカ(2018年値)で人口の0.1%の人また0.01%の超お金持ちの人の所有資産が全体に占める割合を示したもの。スウェーデンの方が偏っている

Gigig-Sverigeより。スウェーデン(2021年値)とアメリカ(2018年値)で人口の0.1%の人また0.01%の超お金持ちの人の所有資産が全体に占める割合を示したもの。スウェーデンの方が偏っている

スウェーデンは勤労所得に対する税金は世界でも最も高い国のうちの一つだが、その裏で、所有資産関連税はたいていの国よりも遥かに低くなっている。スウェーデンには相続税も資産税もないし、また株式の小口取引では利益に課せられる税額が免除される措置がとられているが、この仕組みをもっともうまく使って税金を収めていないのは、これまたお金持ちだ。

高給をもらっているうちはお金持ちじゃない

多くの人は20万円の月給を30万に、50万だったら80万に、100万円の人は200万円くらいにしたいと思って働いているかもしれないが、いくら高くても給与をもらっているうちは本物のお金持ちとはいえない。年収が2千万や3千万円程度あってもそれに合わせて収める税金も高いし、それに比べると不動産売買や株式投資から得る利益では収める税金も低く、お金はどんどん増えていく。

投資や不動産売買で儲けようとする傾向は若い人たちの間でも顕著で、若者の株式投資も増えている。swelogブログでも下記のような問題も取り上げている。スウェーデンではまだバブルは弾けていないが、不動産価格も株価もこのままの状態がこれからもずっと続くことはないだろう。

セルヴェンカの本では私が折にふれて書いている、ストックホルムの電動キックボード問題(原材料や技術リソース、回収、修理、ロジスティックスに費用がかかり、誰が計算してもすべての参入スタートアップが利益を出せるはずのないことは明らかなのに、スタートアップバブルで資金が投入され続けている)も取り上げられており、そういう意味でもこの本は興味深い。

私も少し前まではスウェーデンのスタートアップへの投資事業に興味があったが、世界的な問題を解決するというよりは、お金持ちがさらにお金を増やすために、または少数の限られた新しいお金持ちをちょっと増やすためだけに、(無駄な)投資が繰り返されるのを見続けるのはちょっとつらいものがある。

私が時々本を買っているオンライン書店では、昨日一番売れた本のリストを毎日更新しているが、土曜日の朝は、この本は5位につけていた。しかし同じリストの輝ける1位は、2030年までに1億クローナ(約13億円)を稼ぐことを公言して、SNSでも人気の金儲けのカリスマ@100miljonersmannenの本だった。こりゃだめだ! やっぱりスウェーデン人はお金儲けに取り憑かれているようである。

次に億万長者になるのはあなたの番!とお金持ちになりたい気持ちを煽る本がこちら

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昨日の金曜日の朝からスウェーデン教会の職員がストライキに入っている。今このストライキに参加しているのは、教会の管理人、火葬場の職員や清掃職員など全国で500人に及ぶ。

これらの職員の多くを会員として抱える労働組合Kommunalによると、過去にはスウェーデン教会の職員によるストライキが行われたことは一度もないが、今回はストライキという手段に訴えざるを得ない状況にあるそうだ。

ストライキが起こったのは、スウェーデン教会雇用者団体との間で新しい労働協定協議が決裂したため。労働者側は組織の構造改革が起こった時にも、最低他の労働者たちと同じ条件が保障されることを望んでいるが、雇用者側は今条件としてだされているものは費用がかかりすぎて受け入れることはできないとしている。

スウェーデン教会の運営費は教会に来る人達からの会費で賄われており、雇用者側団体は、どこの教会区も予算はカツカツの状況で運営されていると説明する。

今後このストライキには、教会で働く他の職種の人、例えば聖職者や、結婚式やお葬式で演奏する音楽家といった人たちも参加する可能性があり、予定されている洗礼式や結婚式、お葬式に影響がでることも懸念されている。

うーん、合意に至るのはなかなか難しそうだけど…… 

話は変わるが、今日は4月30日。コロナで2年間中止されていたヴァルボリのルンド恒例の学生一大野外飲み会が今朝早くから市民公園で絶賛開催中だ。

今日4月30日は、日本で知られている名前では「ワルプギス」、スウェーデン語では「ヴァルボリ」と呼ばれる特別な日だ。夜には公園や海岸などでメーデーを迎えるための大きなかがり火が焚かれ本格的な春の到来を喜ぶ、美しくも物悲しい夜を迎える。

そんなヴァルボリの日は、いつの頃からかルンドでは3万人近い学生が大挙して市民公園に押しかけ、一昼夜芝地の上でぎゅうぎゅう詰めになって大量の酒を飲み続ける世紀の屋外飲み会イベントの日になってしまった。

今年は地元の新聞が、メイン会場(というか勝手に集まっているだけだが)の市民公園からライブ配信をしているので、どんちゃん騒ぎの学生をみてみたいという奇特な方はこちらからどうぞ。

本日ルンドでは(おそらくは同じ学生の街のウプサラでも)、公営酒類販売店のSystemboladetは休業しており、一部の電動キックボードも使えません

一大野外飲み会は別としても、3年ぶりの夜のかかり火は観たい人も多いのでは。ルンドでは例えばこちらの地図からどこで火が焚かれるかを確認できます。

多分もう20年近く前、ネットバンキング専門で店舗を持たないSkandiaという銀行に口座を開設してお金を移したとたん、銀行のサイトにアクセスできなくなったことがあって、あぁ、なんとバカなことをした! ネットバンクなんてものを信じた結果、お金をなくしてしまった、と冷や汗をかいた経験がある。

昨日の夕方から大手銀行Swedbankの多くの顧客の口座残高が突然正しく表示されないという悪夢のようなことが起こっている。Downdetectorというサイトでは、昨夜23時30分の時点で2000人以上がSwedbankのサービスに問題があると報告。

Swedbank側は、障害が発生しており問題を修復中で、間違った口座残高情報は元に戻ると説明している。一部の銀行口座では数万クローナの赤字の残高表示となっていたり、これらの口座では支払いの決済ができない状態となっている。

月末で自動引落しなどが多く発生するタイミングで、多くの顧客で問題が起こっているようで、また同時に口座間決済サービスSwishでも影響がでており、Swedbankと系列のSparbankernaの顧客はSwish決済ができない可能性がある。Swedbankはまだこれがサイバーアタックによるものなのかどうなのかなど詳細を発表していないが、顧客のお金や情報は安全だと話している。

大手スーパーCoopの決済システムが止まったのは去年の夏のこと。すごい危機も何度も起きれば結構慣れるもののような気がする。いいことなのか悪いことなのかよくわからないけど、超キャッシュレスだった私も、今では200クローナ札を持ち歩くようになりました😉 。

イースター週末に起こったコーランを燃やすデモとその後パトカーなどの炎上と多くの警官の負傷へと繋がった暴動を受けて、SVTが世論調査を実施していた。

特定の個人や集団を不快にさせるデモは禁止されるべきだと思うかという問いに対して、55%は反対しているが、全体のほぼ3分の1にあたる28%の人が禁止することに賛成している。

調査を実施したNovus社のCEOは「表現の自由を制限しようとする人がこんなに多いのはショッキングな結果だ」と解説し「民主主義国家におけるデモや表現の自由の複雑さがきちんと議論されてこなかったことの反動が大きいのではないか」と言う。

暴動の後では、表現の自由よりも感情面への配慮に焦点があたっており、自分を表現することの権利よりも誰かを怒らせないことがフォーカスされているという。調査結果の男女間の差ははっきりとしており、男性では71%が禁止すべきではないと答えたのに対し、女性の間では38%だった。

ちょうど昨日のランチで一緒になった同僚とこの話題について話したのだが、そのうちの1人が「表現の自由は制限されるべきではない。しかし、取るに足らない意見に反応するべきではない」と話していた。

確かに私たちがとり得る態度としてはこれが正しいのかもしれない。話は、昔私も学校で習ったことのあるロンドンのハイド・パークのスピーカーズコーナーへと及び、そう言えば「ここではどんな自説を表明してもいい」と教わったな、と懐かしく思い出した。

要はつまらないやつが「お前の母ちゃんでべそ」と行ってきたらそんなもの無視しろ、ということなのだろうが、つまらないことを言ってくるのはせめて子どもである時だけにしてほしい。それにしても、SNSは感情を増幅させることには長けたツールだなと思う。ツイッターがこれからどうなるかちょっと心配だな。

公衆衛生庁は、スウェーデンでは5月の中旬に新型コロナウイルス感染の新たなピークがやってくるという見解を発表した。これは4月からすべても行動規制要請がなくなったことの影響と、感染力の強いBA.2型の流行が影響すると考えられているから。

現在スウェーデンでは毎日25人程度の人がCovid-19で入院しているが、5月半ばにはこの数が倍増してピークを迎えると予想されている。感染は広がるが、推奨されるレベルのワクチンを受けていれば重症化したり、死に至るリスクは大幅に制限することができると、公衆衛生庁は、まだ受けていない人への接種をすすめている。

公衆衛生庁ではこの先の感染のピーク時やまた夏休み前に、再度何らかの規制を導入することは考えていない。

昨日は、私の周囲だけでも、子どもからもらったインフルエンザで休んでいる同僚が1人、体調を崩して休んでいる同僚も1人、看護師として働くアパートの隣人はちょっと風邪気味な気がするのでコロナのPCR検査を受けたと話していた。

春らしくなってきた空気中にはいろんなものが飛んでいるよう。花粉もいっぱいなのか、昨日は目が痒かったです!

「Hen(ヘン)」は、従来の「Han(ハン・彼)」や「Hon(フン・彼女)」にかわって性別に関係なく使えるものとして広がってきた代名詞で、実際にあちらこちらで使われるようになって10年くらい経つ。

この度、雑誌『Språk(言葉)』が実施した「もっともイラッとさせられる言葉」のアンケート結果では、このHenにイラッとする人が最も多い事がわかった。

分析の仕方がスウェーデンだな、と思ったのは、回答者を支持する政党別に分析していたことで、右派ポピュリスト政党のスウェーデン民主党に投票すると答えた人の間では半数の人がHenにイラつくと回答したのに対して、左党、環境党、中央党や自由党に投票する人たちのあいだではHenにイラッとする人はほとんどいなかった。

政治的な見解が反映された回答では、そのほかにも「インディアン」「エスキモー」「ジプシー」という今ではポリティカリー・コレクトではない言葉にイラッとするという人も8%くらいいて、これは年配の人の中で目立つそう(もしかしたら若者はエスキモーという言葉自体知らないのかな?)

回答者の中には「どんな言葉使いにもイラッとしない」と答えた人も12%いた。肝が座っている。私も、何事にも苛つかない、そういうゆったりとした心持ちで過ごすことを今日くらいは心がけでみるとしよう😉

スウェーデンの魚の養殖場では魚を解体する前に魚の意識をなくす処理が義務付けられているが、新しい研究結果ではそのレベルが十分ではなく、魚は意識が残っている状態で頭を落とされ、血抜きされているようだ、ということがわかった。

解体前に取られている最も一般的な方法は、魚を高濃度の二酸化炭素が充満したタンクにいれて意識をなくさせることだが、スウェーデン農科大学の研究者たちは、二酸化炭素による処理方法は魚が意識をなくすまでに時間もストレスもかかり、適切な方法ではないと考えている。

研究では、魚の脳に電極をつけて反応がなくなるまでの時間を計測したが、魚が動きを止めた後も脳はしばらく反応していることがわかった。研究者たちは二酸化炭素による麻酔方式は、アニマルウェルフェアの観点から適切ではなく、代替方法を考えるべきだと考えているが、今ある他の2つの方法、電気ショック方法と魚の頭の投打という方法でも、魚への刺激が十分でないと意識が戻る可能性があり、今後、それとは異なる新しい方法を考える必要があるそうだ。

私は以前日本の高級中華料理店で、生きた車海老に紹興酒をかけて、ピクピク跳ねるところをみてからすぐにそのエビをいただくという料理を食べたことがあって、スウェーデン人の夫に話すと目を丸くされたのだが、この料理、日本や中国ではまだ提供されているのだろうか?

映画『The Northman (ノースマン)』を観たよ!

あちこちで絶賛されている映画『ノースマン』を観てきました。

9世紀から10世紀にかけての北欧を舞台に、父親である王を殺され母を奪われたバイキングの若き王子が復讐を誓う、壮大な血と血を争う物語。多くの撮影はアイスランドで行われその自然にも、再現されたバイキングの村の様子にも目を奪われるし、主演のアレクサンダー・スカルスゴードをはじめ、共演のニコール・キッドマン、ウイリアムデフォーやイーサン・ホーク、ビヨルクなどの共演陣もよかった。

しかし、これは最初から最後まで「人が人を殺す話」だった。大自然の中で延々と人と人が殺し合いを続けるのを観続けるこの虚しさは、レオナルド・ディカプリオの『レヴェナント: 蘇えりし者』に通じるものがある。

そして北欧のこのちょっとした超自然の神秘な感じはどこからくるのだろう、と製作陣の名前を確認していたら、『Lamm』の不思議な世界観を作り上げたアイルランドの作家で詩人のショーンがこの『ノースマン』でも監督と共同で脚本を担当していた。ショーンがこの先何を手掛けるのか、ますます注目する必要がありそうだ。

こちらの映画、日本では公開が決まっていないようだけど、なかなか見応えがありました。星5つの評価が多い中、ダーゲンス・ニュヘテルがはなぜか星一つだったけど☆

***

では、また来週!

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おまけの画像

昨日の午後3時頃ちょっと用事があって一大野外飲み会が行われている市民公園の横を通ったら、みんな賑やかにでも結構穏やかに楽しんでましたよ。警察官の数もすごかったけど、ゴミの量もすごかったけど!

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