ストックホルムの空飛ぶ(ような)電気フェリー

来年の夏、ストックホルムに行く人は特別な体験ができるかもしれない。2024年7月から空中を浮遊するような電気フェリーの試運行が予定されているからだ。電力のボートは既にもう珍しいものではないし、スウェーデンでは数年前から大型電気フェリーも運行している。小さな電力稼働の自動運転フェリーもこの夏から運行を開始した。しかしCandela社の空を飛ぶ(ような)フェリーは速く、特別な乗り心地なのだとか
ブロムベリひろみ 2023.11.19
誰でも
北欧通信 127

北欧通信 127

  • ストックホルムの空飛ぶ(ような)電気フェリー

  • 備えあれば憂いなし? 戦争に備え、大量負傷者受け入れ演習を行うスウェーデンの病院

  • 涙と冷笑

  • 増幅されるステレオタイプ。フィンランド人は大酒飲みか?

  • フェイスブックやインスタグラムでの、広告なし課金サービスの真の意図

  • 気候温暖化は火山噴火の頻度も高める

  • 気候環境大臣が人気のインフルエンサーを批判して炎上

ストックホルムの空飛ぶ(ような)電気フェリー

Candela P-12 Shuttle 運行イメージ

Candela P-12 Shuttle 運行イメージ

来年の7月から6ヶ月間の予定で、ストックホルム交通局が運行するフェリー航路に空を飛ぶ(ような)フェリーがお目見えする。電力で動くこのフェリーは、速度が約時速30キロメートルまで上昇した時点で、船体が上に1,5メトール浮き上がる。水面との接触は最小限に抑えられ、水から受ける抵抗が減少するため駆動に必要となる電力は大幅に減る。水面には小さな波紋が残るだけだ。そして、電気エンジンで、フェリーと水がぶつかる音もなく、船内はほぼ無音となる。

11月16日の初のテスト試乗の様子が公開されたスウェーデンのCandela社が開発したCP-12シャトル船は、運行時には30人の乗客と数台の自転車が乗船できる大きさ。今の従来型のフェリーでは、55分かかっているストックホルム中心部と郊外のエケロー(Ekerö)を結ぶ路線を、P-12は25分で結ぶという計画だ。

公共交通フェリーの電力化にも注力するCandela社が採用の水中翼船と呼ばれる技術は、100年以上の歴史がある技術で、船がうける抵抗を劇的に減らすることができる。この技術によりP-12の大きさのフェリーを、電力でまた高速で動かすことができるようになった。またP-12は船体の下に、1秒間に100回水の構造と流れを読み取る多くのセンサーを搭載しており、その情報を船のコンピューターに送信し、運行を最適化している。船内では水波による振動をほとんど感じない。空飛ぶじゅうたんに乗ったことがある人はいないが、そんな乗り物に乗っている感覚になるらしい。

Candela社によるとP-12の購入費用は約170万ユーロ。バッテリーは将来交換する必要が出てくるが、船は30年の寿命があるとする。P-12には通常の電気自動車のバッテリー3〜4個分に相当するバッテリーが搭載されており、日中の急速充電と夜間の低速充電で毎日のフェリー運行には十分な充電ができるとの説明がある。

この電気フェリーがストックホルム交通局に本採用されるかどうかは、6ヶ月のテスト期間が終わった後に決定されるが、来年夏のパイロット・プロジェクトはスウェーデンの交通庁が資金を提供し、ストックホルム交通局が運行を担当する。

このちょっと未来的な乗り物、乗ってみたいよね。

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さて、先週のレターのアンケートには数多くの方にご回答いただき、誠にありがとうございました! 結果は圧倒的に「ブログ全文がレターにも掲載されているほうがいい」が多かったので、これからもそれでいきます。でも「ブログの出だしとリンクで十分と」お答えいただいた方も一定数ありましたので、こちらのリクエストには、ブログ自体の文章をこれからもっとすっきり簡潔に書くことでおこたえしていきたいと思います。とはいっても、今週のブログはこれがまたどの日の記事も、結構長い.....すみません!

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ストックホルムの南部広域医療病院(Södersjukhuset)で、スウェーデンが戦争状態にあり、攻撃で負傷した人を一度に大量に受け入れるという想定の演習が行われた。

水曜日に行われたこの90分に渡る演習では、血糊で重症者に扮したエキストラ27人が、主にヘリコプターで救急部に運びこまれ、そのうち12人は命に関わる多量の出血を伴う傷をおっているという設定。ただし病院側は、どのような怪我をした人が、何人くらいやってくるのは知らされていなかった。負傷者は救急部の廊下にも並べられ、命に関わる状態に措置を施された後、重症者は手術室や集中治療室に送られた。

想定されていたのは、戦時下に民間人向けのシェルターが攻撃され、多くの人が負傷するが、何人の負傷者が担ぎ込まれてくるかは、わかっていないというもの。

この病院は第二次世界大戦中に建設されたもので、当時スウェーデンは中立国だったものの、戦争のリスクに対応するという機能が与えられていた。1990年代後半に、この機能は実質上なくなっていたが、今、再び総合防衛の一部として機能するように再整備が進められている。

ストックホルムの広域行政局の災害医療準備部門の責任者は、ストックホルムが防衛軍とこのような形でエキストラの患者を使って演習を行うのは初めてだと説明し、演習には警察や救急隊員も参加していると話す。

今回の演習は「Meteor 2023」と呼ばれ、南部広域病院だけでなく、ストックホルムの他の救急病院や専門医療管理チームなども参加して、一度に大量の負傷者が出るような状況に対応できるかどうかを確認するために計画された。警察の担当者は、このシェルターが攻撃されるという想定以外にも、今週のストックホルムでは新聞社で発砲事件が勃発する、学校が襲撃されるなど、各地でさまざまな想定の元で、エキストラや爆撃音、爆撃光などを使った臨場感あふれる演習があると言う。

今回の演習に参加した看護師の一人は、大量の負傷者に対応する同様の訓練に参加したのは13年前で、その時に想定されていたのは、たしか通勤電車が脱線したというものだと言い、演習には世界情勢の変化が如実に反映されていると感想をもらす。

備えあれば憂いなしなのは間違いないと思うのだけど、私たちの平和な日常は常に暴力と隣合わせであることを否が応でも意識させられ、このニュースに安心すると言うよりも、不安が高ったのは私だけだろうか? 時にやってくる自然災害に対応するだけでも大変なのに、もう本当に人による暴力はやめてくれないかと思う。そう言えばアイスランドの火山は今、どのような状況なのだろう。

水曜日の国会で、社会民主党党首で元首相のマグダレーナ・アンデションが、穏健党党首で現首相のウルフ・クリステルションとの答弁の最中に泣き出しそうになったことから、SNSは彼女を嘲笑う投稿であふれた。

クリステルションは、社会民主党のジャマール・エル・ハジ国会議員が今年の春にマルメで開催されたパレスチナ会議に参加したこと、そしてこの会議の主催者がハマスの中心人物であったことが報道されたことを受け、「社会民主党の中にはテロをロマンで語るような文化がある」と批判した。

アンデションはエル・ハジ議員を擁護し「彼の息子の妻の家族は数日前にみんな殺された。36人も。あなたはそれでも彼をテロリストのロマンティストだと避難するのか。ハマスを支援していると」と発言する前に声を詰まらせ、涙をこらえようとしているのが明らかだった。

「ひどい非難だ、一国の首相ともある人が、どうしてこんなことができるのか」との言葉で答弁を終えたアンデションだが、その後は右派系新聞の論客が「アンデションが披露したのは、哀れなパフォーマンスだ。大げさでバカバカしい」と投稿するなど、数多くの嘲笑にさらされた。

ダーゲンス・ニュヘテルの文化副局長のオーサ・ベックマンは、「感情表現としての涙は、女性らしさや弱さを連想させるため、馬鹿にされる。では暴言や憎悪や怒りも哀れな感情表現だろうが、そうはならないのはなぜだ」と力強く書くが、最後は落胆でこの小文を終える。

「すべてが疑われ、すべてが冷笑され、尊厳など残っていない」

「あまりにも悲しい時代だ」、と。

ストックホルム大学でアルコールと薬物について研究しているユッカ・トーレネン教授の話が興味深い。彼はフィンランド人は酒ばかり飲んでいるというステレオタイプがどのように作られたかを知っているし、スウェーデンに住むようになったフィンランド人がどのようにスウェーデン人の飲酒習慣を取り入れてきたかを説明してくれる。

フィンランドから多くの人がスウェーデンにやってきた1970年代の頭、スウェーデンでは都市化が進んでいたがフィンランドはまだ農村社会だった。農村社会ではアルコールは男性だけが他の男性と一緒に飲むのもで、大量を男同士だけで飲酒する習慣は、男女とも少量を高頻度で飲む、都市化が進んだスウェーデンで目立った。

その後フィンランドでも都市化が進み、女性もアルコールを飲むようになり、1990年代にはフェンランドのアルコール消費量は急激に増加した。

トーレネン教授は、近年のITの世界などでのフィンランドの発展は、酒を飲んでいる時間もないような世代によるものだといい、またフィンランドではビールがハードリカーにとって替わり、スウェーデンはワインを飲む国になった。過去10年間、フィンランドのアルコール消費量は大きく減少しており、今ではスウェーデンとの差は殆どない。

にも関わらず、フィンランド人は大酒を飲むというステレオタイプはなくなることはない。

民俗学者のステラン・ベックマンさんは、この責任はすべての人にあるという。STVの番組内で流されたジョークであれ、職場でふと誰かが言ったことであれ、ステレオタイプが様々な形で常に繰り返されると、これが固定化する。ステレオタイプを壊すには、より多くの人がメディアで流されること、日常生活で言われること、そのすべてを疑い始めることが必要だ。

ストックホルムに住むフェンランド系のヴェラさんは、フィンランド人と飲酒にまつわるスウェーデン人からのあらゆるコメントにうんざりしているが、その実、その人たちは実生活でフィンランド人と関わりがなく、フェンランド人がどのような人たちかを知らないのだと思うと話す。

日本でも、韓国人がキムチばっかり食べてるとかステレオタイプを声高に言う人はたくさんいそうだけど、その人たちも実は実際の韓国人、韓国系人の暮らしは知らないのでは?

久しぶりにインスタグラムを使おうと思ったら「課金すると広告がなくなります。これまで通り無料でも使えますが、その場合広告があります」みたいなメッセージがでた。ああ、これがニュースでやってた、メタのGDPR対策か。ついに始まったなか、と思いながら「無料・広告なし」の選択肢を選んだ。

メタはフェイスブックやインスタグラムからの広告収入でビジネスを構築してきた。ユーザーに関するデータを集め、その人にあった広告を出す。しかし、その仕組みはEUの個人情報収集を規制するGDPR(EU一般データ保護規制)に違反しているとして、これまでに何度も多額の罰金を課せられ、最近では今年5月の12億ユーロの違反金を課せられたというニュースがあった。

今回EU圏内のインスタグラムから始まったこの広告なし課金サービスだが、メタはこれでお金を儲けたいわけではなく、またほとんどの利用者はこのサービスにお金を払わないだろうと考えている。利用者からの要望が多く、ユーザビリティを高める必要があるためでもない。メタに必要なのは、利用者がメタにデータを収集し利用することをもっと明示的に許可し、うちはGDPRを遵守したサービスをやっております、とEUに言うための証拠集めだ。

EUは、利用者が利用規約に同意するだけでは不十分で、情報収集に関するもっとはっきりとした認可を与える手段があるべきで、またデータを収集されないという代替手段を提供する必要があると考えている。この代替手段にあたるのが、今回導入された有料の広告なしサービスというわけだ。

しかしメタがこれでEU圏内でも問題なく商売できるかどうかという点に関して、専門家の意見は分かれている。EUの法律は「なんの問題もなく」個人情報の収集を拒否できるオプションが提示されなくてはいけないとされており、毎月10ユーロも支払うことは「なんの問題もなく」と言えるかどうかは微妙だ。

私はフェイスブックはほぼ使ってないので、同じサービスが既に導入されたのかどうかは知らないのだけど、今はまだ導入されてなくても、こちらの方も間もなく始まるはずである。だけど「無料で使い続ける」を選んだ時に、ちょっとだけ自分の大切な魂の一部を売り渡しているような気になった。昔、広告代理店で働いていた私が言うのもなんだけど。

いくら地球が温暖化したからといって火山噴火の頻度まで高まるなんて、それはないんじゃない、ほんまかいな! と記事を読み始めて3行目でその理由がわかった。アイスランドは目下、大規模な火山噴火の危機にさらされているが、今後も、より頻繁に、またより規模の大きい火山噴火が起こることが予想されている。重い氷河が解ければ、火山も影響を受けるからだ。

北欧火山学研究所の研究者は、氷河が溶けて地殻の圧力は低下しており、火山やマグマだまりに影響を及ぼしていると説明する。アイスランドの氷河は恐ろしい勢いで溶けており、数年前にアリゾナ大学が行った研究では毎年100億トンの氷が溶けていること発表された。そう言えば4年前には氷河の墓標のニュースもあった。

これだけの量の氷が溶けると、地殻にかかる圧力は減少し、陸地の隆起が加速する。この変化はアイスランドの多くの火山に影響を与える。影響は長期に渡るが、氷河の下や近辺にある火山で最も大きくなる。

アイスランドの気象研究所では、今年の頭から氷河の融解がこれから50年後、300年後にどのような影響を火山にもたらすかを調べる、大規模な研究プロジェクトが開始された。気候変動で、①氷の圧力が下がるにつれて、マントル深部でより多くのマグマが形成されるようになる②新しいマグマの噴出口が、近辺の上部に形成される可能性が高まる③また既存のマグマだまりの上部の地殻形成を変化させる、といった影響を与える。これが将来的に火山噴火の頻度や規模の増大につながる可能性がある。

今、レイキャネス半島やグリンダヴィークで起きている火山活動は、氷河近辺で起きているわけではなく、氷河融解の影響は受けていないと考えられているが、アイスランド全体では噴火する可能性のある活火山が32あり、その多くは氷河の下やその近辺に位置する。

『奈落に落ちるまでの8段階(Åtta steg mot avgrunden 未邦訳)』の本で、このアイスランドの火山噴火のこと書いてあったかどうか覚えてないのは、他にも恐ろしいことがたくさん書かれていたからだろうか?

金曜日のダーゲンス・インダストリで公開されたロング・インタビューで、気候環境大臣のロミーナ・ポルモクタリが、人気絶大のインフルエンサーのビアンカ・イングロッソを名指しで批判したことから、ちょっとした騒ぎが沸き起こっている。「全員に好きになってもらう必要はない」と題されたこのインタビューで、ポルモクタリ大臣は、「インフルエンサーは(気候変動問題に関して)望ましくないライフスタイルを助長する」として、ビアンカ・イングロッソの名前をあげて批判した。

ポルモクタリ大臣はすべてのインフルエンサーが問題ではないが、ファッション関係の会社を経営し関与しているイングロッソのライフスタイルには問題があり、すべての人が彼女にように暮らし始めたらという考えは恐ろしいものであると話した。また大臣は、インスタグラムで138万人のフォロワーを持ち、テレビ番組も持つビアンカ・イングロッソに対し、自身のプラットフォームと権力を利用して、気候問題に影響をおよぼすような方向の転換を求めた。

ビアンカ・イングロッソは今のところこの批判に答えていないが、アフトンボラーデットのコラムニストは、気候環境大臣はいつから責任をビアンカ・イングロッソに負わせるようになったのかと書き、ダーゲンス・ニュヘテルは署名入り社説で「大臣はビアンカに説教する前に、自分のいる省庁を再編成することから始めるべきだ」と手厳しい見解を掲載した。

ポルモクタリが約1年前に気候環境大臣になってから、スウェーデンは取り組みが始まって以来初めて、気候温暖化ガス排出量を増加させ、研究者たちはこのままではスウェーデンは2030年の気候目標を達成できないと警告している。それにスウェーデンは環境省を廃止して、歴代の環境大臣が抗議の声明を出すという自体にもなっている。

元記事であるダーゲンス・インダストリのインタビューで、ポウモクタリ大臣は、この1年を総括し「誰も彼もが彼女のやることなすことすべてを非難し、やったことすべてが間違っていると考えている」と話した。

ポウモクタリはまだ27歳。これだけ非難され続けても、耐えれるだけのなにか強い芯を持つ人であることは間違いないと思うのだけど、彼女は一体なにのために、誰を代表して、闘っているのだろうか?

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では、また来週!

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