『ブレイキング・ソーシャル』・金持ちを養っている余裕なんてない
北欧通信100
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『ブレイキング・ソーシャル』・金持ちを養っている余裕なんてない
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フィンランドのNATO加盟申請批准手続きとスウェーデンの最悪のシナリオ
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TikTokで起きている犯罪
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週4日労働についてスウェーデンの研究者はどう考えているか?
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子どもたちのスポーツ格差
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消えた年金、1500億円
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未来のAIは「サイコパスの世話になるようなもの」?
『ブレイキング・ソーシャル』・金持ちを養っている余裕なんてない
大金持ちは宇宙旅行にでかけようとし、大企業はこの不安定な世界情勢の中でも記録的な利益を生み出し、さらに高学歴の財務専門家のサポートを受けて巧みに税金の支払いを逃れる方法を見つけ出す。一方、社会で最も大切なエッセンシャルワーカは家賃の支払いにも事欠くような状況で働いているが、その給与の大半を税金として払わなければならない。勉学に励み勤勉に働けば報われると、私たちが幼い頃から教えられ、信じてきた社会的契約は、まるで機能していないかのようだ。
バナナ産業の暗部に迫った『バナナの逆襲』や、車社会の問題点をあぶり出した『Bikes vs Cars 車社会から自転車社会へ』また、金融商品化してしまった住宅事情により、適切な住宅に住むという基本的人権を迫害されそうになっている人や街の戦いを取り上げた『Push』など、今の世界が抱える問題を取り上げ 、世界中で上映会を行いながら議論と対話の場をつくり続けてきたスウェーデンのドキュメンタリー映画監督、フレドリック・ゲルテン。
彼の最新作『ブレイキング・ソーシャル』は、この壊れた社会契約と、世界の富裕層がますます金持ちになることを可能にしている「クレプトクラシー」をテーマにしている。
「クレプトクラシー」とは耳慣れない言葉だが、「収奪政治」や「泥棒政治」を指し、元々は少数の権力者が国民や国家のお金で私腹を肥やす政治体制を指す。ゲルテンはこの言葉を「法律の枠内で堂々と行われている搾取」をも捉えた言葉として使っている。
映画の中で彼はチリの活動家から、アメリカのアマゾンでの労働組合運動を率いる人など世界中でクレプトクラシーに対峙し戦っている多くの人に会う。そして今日本でも注目されているオランダの歴史家・思想家のルトガー・ブレグマンの力強い言葉で、この世界で同時多発的に起きている現象をあぶり出していく。
(ルトガー・ブレグマンは、例えば下記のインタビュー動画で「日本のグレタ・トゥーンベリはどこにいるのだ!」と日本の若者に迫っていたりするような人だ)
2019年のダボス会議でのパネルディスカッションで有名になったブレグマンの発言と同様に、この映画は権力者、大企業や大金持ちたちが、いかに民主主義を弱体化させ社会を根本から変えてしまったかを取り上げている。そしてそのような格差社会に「もう、うんざりだ」と人々が怒り、対話し、行動を起こすきっかけをつくる、希望をもらたす映画となることを狙っている。
映画は「もしもあなたが怒っていないのだとしたら、それは注意力が足りないだけだ」とか、「世界を変えたいのなら、話を変える必要がある」、「人々が怒りはじめたら、変化はすでに起きている」、「敵がたくさんいるのなら、友だちがたくさん必要だ」などの力強い言葉で溢れているようだ。
最近はNetflixなどでも優れたドキュメンタリーを手軽に観ることができるようになったが、ゲルテン監督が目指しているのは、もっと泥臭い、この映画をパネルディスカッション込みの上映会で、みんなの手で世界中で対話しながら広めるやり方だ。(このあたりは『逆転のトライアングル』のルーベン・オストルンド監督が、最近、映画は映画館でみんなで体験を共有しながら見てほしいと話していたことにも通じる。参考・ルーベン・オストルンドが語る「映画館で映画を見る」ということ)
映画は既に完成しているが、このためにゲルテン監督自身の制作プロダクション(WG Film)が、現在キックスターターキャンペーンを実施している。
クラウドファンディングが成立した場合集まった資金は、世界で上映会を実施するための翻訳作業や、映画のメッセージに共感した人が気軽に使えるような発信キットの作成や、またこのような独立系のプロダクションが大企業に敵対するような内容の映画を作った場合は訴えられることがあるので(実際に『バナナの逆襲』第一話はゲルテン監督がドールから訴えられた経験をそのまま映画にしている)、そのために弁護士を雇えるように保険に加入する費用として使うことなどが予定されている。
『ブレイキング・ソーシャル』は現在世界10カ国で配給が決まっているが、スウェーデンでも一般公開は今年の秋の予定。しかしCHP:DOXでは、来週3月21日と24日のまだ後2回上映される予定で、そのうち24日の上映回では、ルトガー・ブレクマンがゲストとして登壇し、フレドリック・ゲルテン監督とのトークライブが行われる。
私は残念ながらこの日はコペンハーゲンまで行けそうにないので、キックスターターで『ブレイキング・ソーシャル』のオンライン視聴(秋の一般公開を待たずとも4月14日までのキックスターターキャンペーン終了後すぐに視聴できる)と、このトークライブの動画視聴もついて、他にもマルメにあるWG Filmも訪問できるなどいろいろ特典の多いパッケージを選んでみた。きっと映画はどこからでも観ることができるので、気になられた方はぜひこちらのキャンペーンページを覗いてみて欲しい。ゲルテン監督からののメッセージ動画もアップされています。
(彼の以前の映画『PUSH』について書いた記事もよければこちらから、ぜひ。)
「もしもあなたが怒っていないのだとしたら、それは注意力が足りないだけだ」
トルコはフィンランドのNATO加盟申請を批准する手続きを始めると発表したが、スウェーデンはテロ対策の分野で必要な措置をとっていないとして、スウェーデンの申請には応じないとした。スウェーデンのNATO申請が数ヶ月から最大で1年ほど遅れることになれば、スウェーデンは安全保障・防衛政策の大部分を見直す必要があるだろうとの見方が強まっている。
スウェーデン防衛大学のシェル・エンゲルブレクト教授は、加盟までに時間がかかれば現在のフィンランドとの防衛面での協力体制の多くを見直す必要があり、これまでフィンランドと共同で行っていた軍事演習を同じ形で続けることがほとんど不可能になると説明する。
トルコのエルドアン大統領は昨日の記者会見でも、スウェーデンはトルコが「テロリスト」指定している124名の引き渡しを行っていないし、このテロリストたちはストックホルムの街頭でデモ活動を行っていると批判を繰り返した。
エンゲルブレクト教授は、スウェーデンの法制度がこれらの人物に容疑をかけることができるようになるには、トルコがテロ容疑を立証するために資料をもっと提出する必要があると考えている。トルコがいう「テロリスト」のなかには、トルコ政権に批判的なジャーナリストたちもいて、スウェーデンの法律の元では、現状ではエルドアン大統領の要求に従うことはほとんど不可能だ。
少し振り返ると、スウェーデンは当初はNATO加盟に消極的で、検討を開始し国会で可決された時も、その重要な要因となったのは、スウェーデンはフィンランドと足並みを揃えるべきだという点だった。フィンランドだけが加盟すれば、スウェーデンの安全保障に悪影響を及ぼす恐れがあると判断されたからだ。スウェーデン政府は、来る7月初旬のNATO首脳国会議に先立ち、6月中にトルコがスウェーデンにもゴーサインを出すことを期待している。ここで決まらないと、加盟のタイミングは晩秋から来年までずれ込む可能性がある。
NATOの主要加盟国はスウェーデンが攻撃された場合の支援を口約束しているが、それが本当に守られるかの保証はなく、同時にロシアがNATOの枠組みの外にある、スウェーデンに様々な形の妨害工作を行い、混乱させようとする可能性は高まるだろうと考えられている。
スウェーデンが軍事攻撃されるなどの極端な事態にはならないだろうけど、これまでも起こっているようにネットワークが攻撃されて、支払いやウェブサービスが混乱するといったような事態はもっと頻繁に起こるのかもしれない。まぁ、こんなことが起こるなんて思ってもみなかったというようなことがずっと起こり続けているので、この先なにが起こるかは本当にわからないんだけど。
アフトンブラーデットが「TikTok」という言葉が含まれるスウェーデンの裁判所での判決結果700件を取り寄せて調査したところ、そのうち150件がTikTokの中で起きたり、もしくはこのアプリを何らかの形で利用した犯罪を取り扱っていた。その中でもっとも多いのは、子どもに対する虐待や性犯罪で、またもっとも特徴的な共通点は、加害者にも被害者にも若者が多く、また自分のしていることが犯罪であるとは認識していない人が多いということだった。
事例の中には、20代のTikTokのスターが11歳の少年に下着姿の写真を送るように要求した例や(この人は複数の子どもに同様の要求をしていたことが発覚し、3年の禁錮刑となった)、ある少年を強姦魔と名指しして名誉毀損で有罪になった少女の例などがある。また不快な状況や事故現場などを撮影して拡散し、プライバシーを侵害するものも多い。
先の11歳の少年の例で言えば、スターからエスカレートする要求を不審に思った彼が母親にそのことを話すというところから事件は発覚している。TikTokは新しいプラットフォームだが、そこで起きていることは、一昔前から変わっていないようにも感じる。
一方、セキュリティ問題や情報流出の懸念などで、米政府が株式売却を求めたり、ニュージーランド議会や英国政府では使用が禁止されたりもしているTikTokだけど、スウェーデンではまだそこまで目立った動きはありません。
少し前のスペインでの研究や、今回は英国での大規模な研究結果が発表され、週に4日だけ働く形は、労働者の精神面でも生産性の面でもポジティブな影響が確認され注目を集めているが、スウェーデンの専門家はどう見ているか、そのインタビューが掲載されていた。
ストレス研究者のヨーラン・ケックルンドは、英国での研究は大規模ではあるものの調査期間はたったの6ヶ月であり、長期的な影響について語るにはあまりにも短すぎるという。この研究に参加した企業からは病欠の減少、自己退職の減少、生産性の向上などが報告されており、多くの企業は研究期間終了後もそのまま労働時間の短縮を続けることにしている。研究では70%の従業員が燃え尽きを感じるレベルが減り、40%がストレスが減ったという。
ケックルンドによると、この研究は科学雑誌にも掲載されておらず信頼性で不確かな面があり、またケンブリッジ大学とボストン・カレッジの研究者が報告者を作成しているが、世界で労働期間の短縮を求めるキャンペーン4 Day Week Campagnを進める4 Day Week Globalが、独立系で進歩的な態度を表明する英国のシンクタンクAutonomy Reserchと共同で行ったもので、調査結果に少し無批判な態度を感じるともいう。
ただし、この、労働時間が短くても同じだけの給与がもらえるのであれば人々の気分はよくなるという傾向は、これまでのスウェーデンでの研究でも確認されており、この研究をさらに大規模で科学的な方法で行うことは興味深い、とケックルンドは付け加える。
仕事にもよるが、たいがいのオフィスでの仕事や、このようなブログを書くという行為も、決められた時間内で勢いをつけてやったほうがよい結果がでた、よいものが書けた、と感じることはよくある。時間がたっぷりあるからといって、だらだらやっていてもよい結果がでるとは限らず、そんな時の文章はピリッとしないように思う。仕事は常に、時間があればあるだけ、スライムのように伸びていくと、常々感じる。
というわけで、このブログも毎朝、短い時間内にスパッと書くことを目指しているのですが、校正にも時間がかかっていないため、いつも誤字や脱字の多い文章しかご提供できておらず、申し訳なく思っております。すまぬ😰
スウェーデンの全国スポーツ連盟が子どもたちのスポーツ参加状況をまとめ、それをSVTが、地域別の住民の収入や教育レベルなどの社会経済状況データと掛け合わせて比較してみたところ、子どもたちのスポーツ参加状況は親の経済状況で大きな差があることがわかった。
この検証ではスウェーデンを、市町村よりももっと細かい3000の地区別に分け、高学歴、高収入で一軒家に住む人が多く、失業率の低い地区を1とし、反対に団地住まいでシングルマザーなど収入が低く、経済的に厳しい状況の人たちが多く住む地区を5などと区分して、それを元に子どもたちのスポーツ活動状況を分析した。
結果は、ひとつの例外もなく、恵まれた地域に住んでいる子どもたちは平均76%の参加率と、よくスポーツを楽しんでいるが、経済的に厳しい人たちが多く住む地区の子どもではスポーツを楽しんでいる子どもは4割にも満たないというものだった。
以前より顕在していたこの問題を解消するため、全国スポーツ連盟は、2015年から国から社会統合と犯罪防止促進目的で、年間1億クローナ(約13億円)の資金を得ているが、皮肉なことにこのお金は、結果を出せるおよそ25%の限られたスポーツクラブしか支援できておらず、そのほとんどは恵まれた地域のクラブであると、今では考えられている。
マルメ大学の研究者は、お金があっても社会経済的に厳しい地域にはそのお金を受け取ることのできるスポーツクラブが存在しない問題を指摘し、これ以上お金だけをスポーツ活動に投入しても、格差を解消することはできないと話す。
スウェーデンからは、もう次世代のスラタン・イブラヒモビッチは生まれないのだろうか?
昨日の朝、私がAIについて書いている間に、そしてSVTのレポーターがアカデミー賞の受賞を逃したルーベン・オストルンドから一言もらおうと探して回っている間に、スウェーデン人の年金積立の120億クローナ(約1500億円)が消えたことがニュースになっていた。スウェーデンの企業年金運営会社Alectaは、経営破綻しアメリカ当局により閉鎖されたSVBに90億クローナ、そしてシグネチャー銀行に30億クローナを投資していた。
AlectaのCEOは、投資は「失敗」だったが、年金の支払いにはほとんど影響を与えないともいう。また今回の一連の事件はすべてが48時間内に起こったことで、市場全体がこの大規模で急激な下落に気ががついておらず、猛烈なスピードで激しいスパイラルが起こった。しかしこの損失は、Alectaのポートフォリオ全体からみると小さなもので、今後の運営のなかで調節できるものであると説明する。今年に入ってからのAlectaの運用実績は今回の損失を含めても1.5%のプラスのリターンを達成している。しかし約1500億円という大金があっという間に消えたことには代わりはない。
Alectaはさらに、昨日取引停止となったファースト・リパブリック銀行にも90億クローナを投資しているが、このお金はまだ消えてしまったわけではないと説明する。
今回の破綻は、拡大から縮小へと方向転換しているテックスタートアップ企業などが、SVBなどから資本を引き上げ始めたことから起こった。昨夜のニュース番組で解説していた経済誌の編集長は、SVBは2008年のリーマン・ブラザーズのような金融システムの中核にあった銀行とは異なり、今回の影響は限定的なものとなるだろうと説明していた。バイデン大統領が問題は解決すると言ったことで落ち着きが生まれ、慌てた人々が銀行からお金を引き出し始めるようなパニックにはならないだろうとも言う。
ずっと一般企業でも働いてきた私の年金はもちろんAlectaでも運営されている。1500億円の損失がでても、大したことないと言えるCEOの気持ちはよくわからないけど、未来に確かなものなどない、ということを改めて肝に命じる。
『スマホ脳』の著者アンデシュ・ハンセンが、未来の職業について話していた。急速に目覚ましい発展を遂げるAI技術は、これからの仕事を再定義し、私たちが考えている以上に大きな影響を与えるかもしれない。
スウェーデンのオレブロ大学と研究機関Ratioが行った研究調査は、AIによる労働市場への影響は今とても速いペースで起こっていることと、これまでと違い、高度であると考えられていた知識や情報を必要とする業務が、AIにとって変わられる脅威にさらされていることを指摘する。
この研究では、AIの進化により最も影響を受ける職業と、受けない職業をリストアップしたが、将来的にAIにより多大な影響を受ける、もしくはAIにとって変わられるとされたのは、統計学者、ゲーム/デジタルメディア開発者、ソフトウェア/システム開発者、経理アシスタントなどで、受けないものの代表としては刑務所の職員、消防士、准看護師などが並ぶ。
研究をまとめたオレブロ大学の研究者は、AI技術は福祉の観点からはプラスに働くが、社会経済的にはマイナスの結果をもらたす可能性があり、雇用と賃金は特定のグループに不利に働く可能性があると言う。
AIが進化した世界を、アンデシュ・ハンセンは「未来のAIは、仕事とは何をさすのか、その意味を再定義するかもしれない」と言い、例えば子どもを育てることは、未来の真の仕事かもしれないし、また「(AIは)サイコパスの世話になるようなもの」ともコメントしている。それは、例えばセラピストのような仕事は正しい答えを提供するだけではだめで、患者のことを思いながら対話を進めていく必要があるが、AIでそれを置き換えることは難しいからだという。
このニュース記事は30分の経済トピック番組を元に書かれているので、本当だったらこの番組も見た後で、追加の情報も入れたいが、今日は休み明けの月曜日の朝で、その余裕はないので(すみません😅)、その番組へのリンクも貼っておきます(世界のどこからでも視聴可能)。
これまで今週のスェ勉とその周辺をお読みいただきありがとうございました。
このコラムコーナーを書いている暇があれば、今はその分勉強した方がいいということに気がつきまして、また突然ですが、こちらは更新を無期延期させていただきます😰 いや、書きたいことはたくさんあるのですが、やっぱり時間的にちょっと無理があるようで。もしも楽しみにしてくださっていた方がいたとしたらすみません。そう言えば「ラジオ」も放置したままで…… 週4日だけ会社で働くようにすれば、もっと時間に余裕ができるのかとも一瞬でも思った自分が間違いだったようです😅
では、また来週!
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