POPスターのメンタルヘルス
swelog weekend nr 23
〈今週のニュース〉 VAB (ヴァッブ)るスウェーデン
〈今週のテーマ〉 等身大のザラ・ラーソン POPスターのメンタルヘルス
〈今週のスウェ推し〉 タダの食べ物・森の恵みの豊かさよ
VAB(ヴァブ)るスウェーデン〈今週のニュース〉
スウェーデンには子供が熱を出したり病気になったりすると、親はその看病のために休めるという制度があって、そのために打ち合わせに突然同僚が参加できなくなることもよくあります(みんなお互い様なので、そういう時も誰も文句言わない)。
2018年4月に作成した資料より。数字などは当時のもの。
毎年夏休み明けのこの時期(第35週)には、このVABと呼ばれる病気の子供看護休暇を取る人が増えるのですが、今年はコロナによる影響が別の思わぬ形ででたようで、前年、前々年と比べて2倍近くに及ぶ親がとるという事態に。
SVT Morgon Studion(朝のニュース)での解説画像より
保育園の方も子どもたちが少しでも鼻をたれていたら(?)親に子供を引き取りにきてもらうように連絡したり、親の方も家にいても緊急時には対応できることを、コロナでのリモートワーク生活で理解した人が増えたためか、家で子供を見ることがもっと普通にになったのがこのVAB取得数増加の背景にあるとみられています。
スウェーデンの育児休暇制度も整ってますが、日本にもこれが根付けば! と心から思うのがこのVAB制度。もちろん制度だけが整ってもだめで「お互い様」だとこころよく理解してくれる上司や同僚がまわりにいて、さらには社会全体がそのことを理解していないと意味のない制度でもあります。
そんなVABっている今週のスウェーデンから取り上げたニュースは、こちらからどうぞ。
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等身大のザラ・ラーソン POPスターのメンタルヘルス〈今週のテーマ〉
Aviciiと若者のメンタルヘルス
今週の火曜日は、2018年に人気の絶頂期に自殺して亡くなったAviciiことティム・ベリリングが、生きていれば32歳になった誕生日だったということで、Googleの検索トップページにでるイラストや動画(Doodleと呼ぶのだそう)が、彼の一生を描いたものになっていました。
この日は、Aviciiの死後、若者の精神疾患と自殺防止のための財団を立ち上げて活動している、彼のお父さんのインタビューがまた流されたりしていました。(財団についてはこちらのブログ記事もどうぞ。【ヨハン・レンクの次の仕事はパンデミック、そして、Aviciiミュージアム】/swelog)
そしてAviciiといえば、ストックホルムを代表するランドマークで有名なGloben(グローベン)が、パンデミック下の今年の5月、Avicii Arenaとその呼び名を変えました。
Aviciiはその音楽で多くの人に記憶されるだけでなく、これからも彼の名前を聞くたびに、私たちは彼の感じた孤独、メンタルヘルスの問題、そしてそれをみんなで表に出して話し合っていくことの大切さなどについて思いを馳せることになるでしょう。
しかし、せっかく名前を変えたAviciiアレーナも、パンデミックで熱気のあるコンサートやイベントは開催することが難しくなっていました。そんな中、同じく今週の火曜日に公衆衛生局から発表されたのが、上のブロク記事でも紹介した9月末からのほとんどのコロナ対策規制の撤廃。
さっそくいろんなコンサートの話が盛り上がってきていますが、Aviciiに負けないインターナショナルな人気を誇り、圧倒的な才能を放つザラ・ラーソン(ここからはスウェーデンでの呼び名に近いサラ・ラーションで書いていきます)のコンサートが11月に予定されています。
すごすぎるサラ・ラーション
サラ・ラーションって誰? という方にはSpotifyでは10億回以上、Youtubeでは7.4億回再生された彼女の2015年のヒット曲Lush Life(きっとどこかで聞いたことあるはず!)や、660万人のフォロワーのいる彼女のインスタグラムのアカウントを覗いてもらってもいいと思いますが、先日のABBA新曲とワールド・ツアーのニュースを讃えて、彼女がさらっとTiktokにあげた、なにげなく歌ったABBAのMoney, Money, Moneyのカバーを聴くだけでも、その才能をわかっていただけるかもしれません。
スウェーデン発のPOPスターとして、この国を代表するような存在になったサラ・ラーションですが、彼女はこれまでも歌だけでなく、筋金入りのフェミニストとしても名を馳せています。その活動を一躍有名にしたのは、おそらくインスタグラムでのコンドーム・ソックスの投稿。コンドームがきつい、なんてつけない理由にならない、なぜならハイソックスとしても使えるくらいの伸びがある、とユーモアで諭す彼女は、ずっと同意のないセックスやレイプする男性への批判を続けてきました。
さらには今年の3月には、彼女の体型のことをからかい続けてきたスタッフを解雇し、それをツイートするなど、自身の体型への誹謗中傷とも戦い続けてきています(このあたり、アデルの妹、ビリー・アイリッシュのお姉さん格とでも言えばいいのか?)
その他にも若い女の子たちを肉体的に利用する男性への批判や、安全に中絶する権利についても積極的に発言してきたのが、サラ・ラーション。スウェーデンの若い世代で、はっきりと自分の思ったことを口にするかっこいい人といえば、グレタ・トゥーンベリ、そしてサラ・ラーション。少し前には中国のHuawaiとの広告契約を取り止めたことも話題になった、そんな今を代表するとびっきりのRebel girlなのが彼女…… だったのですが……
サラ・ラーションの「グレー」な現在
スウェーデンでは毎年夏にその前の一年で注目を集めた人が、自分の好きな曲をかけながら自分で選んた好きなことについて話す、とても人気のラジオ番組があります。近年ならグレタ・トゥーンベリや、日本でも話題の『スマホ脳』の作者のアンデシュ・ハンセンの回がとても話題になりました。
そして今年の番組に選ばれた58名のトリとして出演したのが、サラ・ラーション。彼女は10歳の時に出場したオーディション番組で注目を集め、また正式デビューした2015年から本格的な活動をしていたので、うっかりしていましたが、まず、この存在感なのにまだ23歳であることに改めて驚きました。
Sommar i P1 Zara Larsson Foto: Mark Earthy
レコーディングや多くのPR活動はこなしていたものの、このコロナ禍では以前の様に世界をツアーで回ることはなく、 妹と暮らすストックホルムのアパートで、宅配で注文したのに結局は食べなかった寿司を捨てる時にグレタ・トゥーンベリのことを思うといった日常を送る彼女が話しだしたのは、友だちと裏切り、女関係にだらしない元カレとその三角関係の彼女とのつかみ合いの喧嘩、レイプ、そして「怒り」でいっぱいだったこれまでの自分。
そんな怒ってばかりだった17歳、18歳の頃は、世の中は白か黒、正義と悪で、自分のやっていることの意味や正しさをはっきりと自覚できていたのに、今ではなにもかもが「グレー」になってしまい、自分は変わってしまったと話すサラ・ラーション。
彼女は、今、自己承認欲求の罠に陥っており、新しいインスタグラムの投稿をアップする度に、新しい曲の動画を公開する度に、すべてのコメントに目を通さずにはいられず、また再生回数を何度も確かめずにはいられないと話を続けます。
成功をおさめるにつれ、もっと人から認められたい、好かれたいという欲求が止まらない。以前はひどい男どもに強烈な言葉の一撃をぶつけることも厭わなかったのに、それもできなくなってしまったと。そしてスマホを果てなくスクロールしてしまうサラ・ラーション。
サラ・ラーションは、自分でも、病的で毒されているという、この自己承認欲求の罠から抜け出すことができるのか、どうなのか? 活動の中で一番好きだというコンサート活動が再開されれば、忙しすぎて家のソファでスマホをいじってばかりのコロナ生活からもさよならできるのかもしれない。
自分の闇と一緒にスターとして進めよ、サラ・ラーション!
ふと思いだしたのが、先日観たアレサ・フランクリンの伝記映画『Respect』。アレサ・フランクリンが偉大なアーティストであったことは知っていても、映画をみると、彼女がどんな闇を抱えていたのか、どういう暮らしを送っていたのか、そんなことはほとんどまったく知らなったことに気づきました。
一方、今、私たちの前にいるサラ・ラーションは、彼女の歌もレベルガールさも、そして彼女が抱える闇も問題も、すべて同時に伝わってくるし、それがサラ・ラーションという存在の意味でもあるように思います。
サラ・ラーションだけに、これ以上のものを求めるのは酷かもしれませんが、彼女には、彼女の問題も全部ひっくるめて、これからも私たちに力を与える存在であり続けてくれればと思います。
そして、願わくば誰か彼女の近くにいる人、サラに『スマホ脳』を読め! とそれだけは薦めてやってはくれはしないだろうか。ほら、読書大好きって言ってたし。
サラ・ラーションがスマホ脳の恐ろしさを理解して話してくれれば、若い女子たちへも影響力は絶大なはず、なんだけど。
タダの食べ物・森の恵みの豊かさよ〈今週のスウェ推し〉
きのこにベリーそしてりんごやなしといった果物の季節が到来。自然の恵みってほんとうに素晴らしいと毎年この季節に思うのですが、私が一番こころをひかれているのは、やはりちょっと外にでるだけで、タダで食べ物が手に入る! というところのようです。
つんできたキノコをバターで炒めただけで、ごちそうになる素晴らしさよ
勝手に摘んだり、とったり、好きなようにお食べ、という、この日本ではあまり経験したことのない(少なくとも私の生まれ育ったところでは)この食べきれない、つみきれないくらいの森の恵みたち。
これはスウェーデン語では「クマのベリー」と呼ばれるブラックベリー。草には棘があるので、欲張りすぎると腕が傷だらけになる
森でつむキノコやベリーもいいですが、みんなの家の庭のリンゴやなしやすももたちも一斉に実るので大変です。会社で使っているチャットアプリでは「うちの梨、ことしも70キロ収穫したので、欲しい人は取りに来て!」とかの果物もらってください、情報にあふれていました。
私はインスタグラムで#svampplockning (きのこ狩り)というハッシュタグをフォローしているのですが、これも今もうすごいことになってます。日本中のみんなが、少し足を伸ばしただけのそこら中にある森で、こんなに(タダで!)キノコがつめるのなら、みんなもっと仕事しなくなるんじゃないだろうか? というのは私の勝手な妄想です☺︎
では、また来週!
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