助産師の給与を上げろ!

助産師を増やせ、給与を上げろ、出産危機に終結を! これまでも何度も語られてきたスウェーデンの助産師の労働条件とそれに起因する人不足はいつまで経っても改善されず、ストックホルムのとある大病院では50名近くの助産師が辞職願いを出す事態にまで発展。背後にはどんな要因があるのかを調べてみた。
ブロムベリひろみ 2021.11.28
誰でも

swelog weekend nr 34

〈今週のトピック〉  助産師の給与を上げろ!
〈今週のブログ記事〉 国民が素直に喜ぶ機会を逸した首相選出のドタバタ
〈今週のスウェ推し〉 グリーンフライデー

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助産師の給与を上げろ!〈今週のトピック〉

助産師が一斉に辞職

助産師という言葉をニュースで聞くようになったのは今月の頭。今回の危機は10月29日(金)にストックホルム広域医療を担当する大型総合病院の一つ、ダンデリュド病院で働く助産師26人が一斉に辞職願いを出したあたりから大きく報道されるようになった。

同病院での助産師の辞職願はその後も止まず、現在までに50名に増え、このまま事態に進展がなければ、この病院で働く助産師の約半数が来年1月末には職場を離れることになる。

スウェーデンでの妊娠、出産のサポートシステムは日本での一般な形とは少し異なる。妊娠がわかった人は自宅近くの助産院で担当の助産師による妊娠期間中のサポートを受けるが、出産は広域地域の総合病院にある産科で行うことになる。

陣痛が始まったりと子どもがもうすぐ生まれそうになった人は、予めここで産もうと予定していた病院にその時初めて電話をして受け入れてもらえるかを確認することになる。電話をした病院が一杯だった場合は他の病院に回されることもあるが、その割当は病院側で行う。人によってはすんなり受け入れてもらえることもあるし、運が悪ければ遠方の病院での出産を強いられる人もいる。

今回の一斉辞職騒動で最初に怒りの声をあげたのは、ストックホルムの別の病院で助産師たちのシフト組みなどを担当していたマネージャーたちだった。「助産師たちをこれ以上劣悪な労働条件で働かせる、そんな仕事の責任は負えない」と、出産の現場の環境に抗議したものだ。その後、妊婦のため幸せな出産のために、がまんして働いてきた助産師たちも堪忍袋の緒が切れたように、辞職という形で態度を表明する。

ノルウェーでは当たり前の「一妊婦一助産師」体制

助産師たちが要求するのは、もっと人を増やし、ノルウェーでは労働条件として守られている「一妊婦一助産師」体制の徹底と、シフトの改善や給与の底上げなどだ。

スウェーデンでは手術の予定は医師や看護師の労働条件に合うように組まれるが(ゆえになかなか医師までたどりつかない人や手術してもらえない人もでる)、出産の場合はそうもいかない。

日や時間によっては助産師一人で複数の妊婦を担当することになり、助産師たちはトイレにもいけない労働状況と、責任の重圧の割には低い給与水準に不満を持っている。スウェーデンで出産の現場をメインで支えるのは助産師で、産科医の介入は問題のある時など、かなり限定されたものになる。

予算をつけろ! と抗議集会に助産師が集結

Ola Hakefelt
@OHakefelt
"Omkring 1 000 personer samlades under tisdagen utanför Regionshuset i centrala Stockholm. Detta för att protestera mot krisen i förlossningsvården och samtidigt visa sitt stöd för stadens barnmorskor."
#svpol #vårdpol #sjukvård #välfärden #Stockholm
arbetaren.se/2021/11/16/bar…
Barnmorskornas burop mötte Irene Svenonius Omkring 1000 personer samlades under tisdagen utanför Region www.arbetaren.se
2021/11/21 02:41
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11月16日、ストックホルム市が来期の予算決定のために開催する議場の近くの広場に、1000人程度が助産師の労働条件改善を要求して集まった。スウェーデン助産師連盟会長のエヴァ・ノードルンドは「社会は、出産や女性に関わる問題を軽視している。政治家は平等とは何かをもう一度考えるべきだ」と述べ、ストックホルム市の財政担当官は8万2千人分の署名(!)を受け取った。

ストックホルム市は、出産環境や、現場で働く人たちの労働条件改善のために今後3年間で5億クローナ(約62億円)の予算を取ることを約束。そのうち「一妊婦一助産師」体制確立のために来年は1億5千万クローナ(約19億円)が割り当てられることも決まった。

賃上げ要求は10万円で! そしてデンマークでも

一方、ストックホルムの別の広域病院ソーデル病院の助産師たちは、職歴10年以上の助産師には月8000クローナ(約10万円)、6年以上10年以下では6000クローナ(約7万千円)の昇給を要求する手紙を病院の経営陣に対して送っている。現在ソーデル病院で働く助産師たちの月額平均給与は4万1千クローナ(約51万円)ほどだが、もっと高い報酬をえてはじめて、これからもこの病院の産科で働き続けたいと思う助産師が増え、それがひいてはみんなの逼迫した労働環境を改善すると考えている。

助産師の給与が他の公務員の給与と比べて低い水準にあるデンマークでも、助産師たちが、昇給を焦点にした活動がスウェーデンの状況を受けて今また活性化しているとの報道もあった。

Dagens Nyheter
@dagensnyheter
Förlossningskrisen sprider sig – upprop i Danmark mot låga löner och dåliga villkor: “Fantastiskt att barnmorskor i Skandinavien går samman.”
dn.se/varlden/fantas…
2021/11/20 18:50
9Retweet 30Likes

デンマークでは1969年に実施された公務員制度の改革で、当時は男性に多かった医師の給与は高く、助産師や看護師など女性に多い職業の給与は低い水準に合わされたことが、今の助産師の給与にも影響を及ぼしている。スウェーデンでは問題はここまで構造的にはっきりしているわけではないが、背景にある事情は同じだ。

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11月16日にはヨーテボリでも助産師の待遇の改善を求めて1000人近くの人が集まったことSVTは報じており、今の助産師危機がストックホルムに限った話ではないことがわかる。

誰でも自分の働きに見合った給与を得たいものだし、それを妨げているものが社会のシステムに込みこまれているような時には、みんなで一緒に声をあげる。いつもうまくいくわけじゃないけど、スウェーデンの人はそんな問題の組織化が上手だな、とみていて思う。

日本でも看護師の賃金が4千円上がるようだが(それも救急医療に関わる人だけ)、一桁違うだろうと私も思う。手一杯な時は行動を組織化することも大変だろうが、ツイッターデモが増えてきた日本でも、今後はリアルなデモや集会が増えればいいな、と妄想する(今はコロナもあって難しいかもしれないけど)。

だって、ヨーテボリのデモを紹介するニュースビデオで「助産師をなめるなよ!(Don't fuck with us!)」とプラカードを掲げていた人、ピンクの先の尖った帽子とマフラーの変わった出で立ち、と思ったら、これはどうみても女性器をかたどったコスプレ? いや、こんな人に出会うだけで楽しすぎそう。デモも楽しく!(キモの座ったコスプレはこちらの↓ニュースリンクから😊)

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単純に喜べる話はないのか?〈今週のブログ記事〉

今週は、スウェーデン初の女性首相の誕生とブラックフライデーに関して書くことになるだろうなーと思っていたけれど、首相選出の方は予想していなかった展開に。どうして物事はこんなにこんがらがるのか? 初の女性首相おめでとう! とかみんなで単純にもっと喜びたかったよ!

コロナの方も、新しいオミクロン株もベルキーまで来たのならスウェーデンに来るのはきっと時間の問題。今年のクリスマスも結局去年と同じような感じになりそうだ。オフィスワークにも慣れてきたところだけど、これでまたリモートワークか? そんなことよりなにより、感染しないように注意しなければいけない。オミクロン株の話が入ってくる前でもすでに深刻とか言っていたのだから。

とりあえず今週自分に起こった変化は、サフランパンの食べすぎでますます体が丸くなってきたことかな。こっちの方も単純にサフランパンおいしいなぁ、幸せ♡とか言えない感じなのですが😰

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グリーンフライデー〈今週のスウェ推し〉

アウトドア用品専門店Naturkompanietでは数年前から、ブラックフライデーの日をグリーンフライデーと名付けて、顧客に無料で登山靴のワックスがけを提供している。新しいものを買うよりも使っているものを大切に手を入れたり修理しながら使おうと呼びかけていて、この日はお手入れ用ブラシやクリームなど各種製品が店内の一番目立つところにも並べられている。

日本でもメルカリやイケアが、グリーンフライデーに新しい取り組みを発表した模様。

もちろんリサイクルも再利用もいいと思うけれど、バンバン買って次々にメルカリを利用するよりも、愛着のあるものを長く使い続けるというのが一番よいのではないかと思う今日このごろ。

そして、お店がプロのお手入れをしてくれるのもいいが、こんな時日本だったら絶対靴のお手入れ方法の無料講習会やっているだろうなー、スウェーデンでもそうしたらいいのに、とも思った今年のブラックフライデー。このニュスレターを読んでいただいた方は、ぜひこのアイデアを使っていただき、来年ブラックフライデーには日本でもスウェーデンでもたくさんの「お手入れ講習会」が開かれますように😉

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では、また来週!

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