スウェーデンの賃貸市場
4月から5月の最も季節の動く時期に、5週間もルンドを離れて戻ってきたら、いやー、新緑がうるさい🌿
桜とマグノリアとライラックと林檎が咲いていて、あれ、この花たちはみんな同じような時期に咲くのだったっけ? と考え込む始末。京都では私が出たすぐ後にもう梅雨が始まったそうだし、移動のせいなのか温暖化のせいなのか、季節の移り変わりについていくのにちょっと混乱しています。
2021年5月17日〜5月22日のニュース
そんな感じで過ごした今週も、偶然ながら取り上げたニュースの中でLGBTQ関連のものが2つ。
ホルモン治療の議論の方は極めて難しい問題だなと思いましたが、医療情報提供サイトでも必要のないところでは「男性」「女性」の表記をやめて「人」などのニュートラルな表現にとっくの前から取り組んでいたというのは、スウェーデンやな! とちょっとびっくり。「妊娠している人」という表記を用いて、ここでも「女性」という特定語をなるだけ使わないというのは徹底しているなと思いました。
こういうニュースを目にしたすぐ後に、LGBTQの人たちをまったく理解しない日本の一部の国会議員の発言とかを読むと、本当に悲しくなるというか、呆然とします。でも先週のニュースにあったように、50年前のスウェーデンでも同性愛者を改心させる治療が行われていたことを考えれば、日本もきっとこれから変わるはず。嘆くばかりではいけない、と自分を自分で励ましたりする毎日でもあります。
このLGBTQの関連の2つのニュース以外は、あまり共通点のないバラバラな話題でしたが、コロナ検査が不備で入国できなかった人はどれくらいいて、その人たちはどうなるんだろう? と気になっていたので、それを伝えてくれていた昨日のニュースは読んですっきりしました。
後は、(おそらくはギャング団による)大規模放火事件、オンラインカジノのようになってしまっている株式市場、安定の?テグネル記者会見、とおなじみのニュース?が並んだ感じですね。
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今週のテーマ・「Colive」はスウェーデンの若者の住み方と賃貸市場を変えるか?
さて、今週はスウェーデンの賃貸住宅の話を取り上げます。
日本からスウェーデンに引っ越してこようとする人が、まずいちばん最初にびっくりするのは「すぐに借りれる賃貸住宅がない」ってことではないでしょうか? 市町村などの自治体は質がよく価格も比較的抑えられた賃貸公営住宅を提供していますが、入居希望者が多すぎて、何年も(時には何十年も!)待たないといけないことが多く、簡単に入居できるようなものではありません。
たとえば今ストックホルムでは66万人が公営住宅への入居希望の列に並んでおり、さらに毎年希望者は4万人ずつ増えています。もう大都市では希望する公営住宅に住む権利が回ってくるなんて宝くじより難しそう。
個人の利益や投機目的で不動産を所有することに一定の規制もあるのか?、日本のように賃貸物件がたくさんあるわけではなく、特にまだ生活も落ち着いていないし、不動産を買おうとまでは思わない、かといって学生でもない若い社会人は、住むところを探すのが本当に大変です。短期間で不安定な「又貸し契約」で住むところをなんとか確保している人も多いのが現実。
コレクティブからコ・リビングへ
ここまで需要と供給の関係がずれていたのに、これまではこれといった解決策はなかったこの問題に、1970年代に流行ったスウェーデン語で「コレクティブ」と呼ばれる共同生活スタイルを、現代風にアップデートしてソリューションを提供しようとしているのが、Coliveです。
コレクティブとは、ひとつの家やアパートに5,6人が一緒に住み、それぞれ個室はあるが、キッチンやリビングなどを共有する形。今の言葉ならシェアハウスですが、コレクティブは、この共同生活スタイルが始まった頃の社会のイデオロギーみたいなものをそれなりに背負っています。
(コレクティブを取り上げたおすすめの映画もいくつかあるので、便乗して紹介させてください👇)
しかし、Coliveの提供するコ・リビングは、コレクティブが進化したというよりは、アメリカのコ・リビングのスタートアップ・ムーブメントがそのまま遅れてスウェーデンにやってきたという感じです。社会のペインへソリューションを提供し、それでお金も儲かる、というわかりやすい仕組み。
共同生活をビジネス化
Coliveはこんな感じで運営されていくそうです。
貸し出す物件は不動産オーナーからブロック貸しと呼ばれるまるごと方式で借り、入居者はColiveが独自に開発したという入居者マッチングツールで最適な入居組み合わせをつくり、アパートをシェアする。
このマッチングツールに関してはColiveの共同創業者のカタリーナ・リレスタム・ベイヤーが取材で、「研究者が開発したもの」とコメントしていましたが、要は入希望者は申込時に自身の暮らし方に関する100ほどの質問に答え、その回答を参考にColive側が組み合わせを提供するというもの。具体的には、例えば、出身地や信条ではなく、シャワーの浴びる回数とか寝るのは何時頃か、というような暮らし方の詳細にフォーカスしたもののようです。
Coliveがターゲットとしているのは20歳から35歳くらいの職業をもった若い社会人で、これまでにストックホルムの中心地と郊外で3つのColive住宅を運営しています。
昨年オープンしたHaningeの物件は不動産会社のWallenstamが建設したものを一棟まるごと借り受けて運営し、棟全体では数百名が入居するという大規模なもの。Coliveは、Haningeを含むこれまでの運営物件からは年間1000万クローナ(約1億3000万円)の売上を予定しているそうです。
Parkstråket と名付けられたHaningeの物件は中を除くとこんな感じです。
またColiveは、同様の一棟まるごとColive方式の物件を、この先ヨーテボリでは同じく不動産会社のWallenstamと協業して、ルンドではルンドの自治体の住宅公社であるLKFが新しく建設するアパートを、一棟まるごとColiveスタイルで運営することが決まっています。
「掃除」が決め手
Colive住宅に住む若者たちのインタビューからは、入居者自身がするのではなくColiveの運営側が入ってアパートの中の共有部分を週に一回掃除してくれるサービスを気に入っていることがわかります。
マッチングしたけど、それでもなお同居者と掃除や整頓レベルに違いが生じてイライラするようなことがあったとしても、週に一回はプロが清掃してくれると思えれば共同生活もそこまで苦痛ではないのかもしれません。
Coliveの気になる入居費用ですが、日本で言う1DKや1LDK程度の一人向けのアパートを今、スウェーデンで又貸しで借りても都市では11000〜12000(約15万〜16万円)クローナ程度かかるけれど、Coliveでは同レベルの鍵のかかる個室付きコ・リビングアパートへは6000クローナ程度(約8万円)で入居することが可能、とColive共同創業者のカタリーナ・リレスタム・ベイヤーは説明します。
仮に月額が6千クローナだとすると、そのうち賃料が4千、掃除などのサービス提供費が2千クローナという内訳になるそうです。
コ・リビングとコ・ワーキングそして孤独解消
新しいHaningeの物件には、建物の中にコ・ワーキングスペースもあり、またColiveの事業にはこれまでスウェーデンの大都市でコ・ワーキングスペース事業を運営してきたUnited Spacesの起業家たちも投資しています。
Coliveの事業が立ち上がったときには、コロナで社会や暮らし方がここまで変わるとは考えてはいなかったでしょうが、Colive創業者たちは創業の理由に住宅問題の解消と同時に「若者の孤独問題の解消」もあげていました。実際SVTの取材に答えていた地方出身のダニエルさんは、Coliveで一番気に入っているところを、一緒に生活する人がいることだと答えています。
これからは、増えてくるであろう入居者のマッチングに関する不満をColive側がどれくらいマネジメントできるか、その手腕が問われるところだと思いますが、今後の住まいの潮流を考える上で、こういう形の暮らし方は主流とは言わずとも大きな支流になるのではないでしょうか?
私も今は必要ありませんが、将来高齢になりかつ一人で暮らすことになったら、こういうコ・リビング住宅も住まいの選択肢のひとつとして考えたいなと思います。(今ある高齢者向けサービス付き住宅とはマッチングのあるなしのところが異なる、というイメージで捉えています)
日本でも孤独担当の大臣が任命されるようですが、こんな新しい住み方への取り組みも、国や地方自治体が積極的に考えていくようになればいいな、と思います。(空き家問題と一緒にして考えれば一挙に両方解決したりしないのだろうか🤔 )
今週もここまで読んでいただきありがとうございました!
それでは、また来週〜👋
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