5%の漸進

オリンピック / 共産党を考える / 5%の漸進 / Laxbutiken(サーモン専門店・レストラン)
ブロムベリひろみ 2021.08.01
誰でも

オリンピック〈今週のフィーカ話〉

よく考えると、いつもオリンピックはニュースで見る程度だったのに、場所が東京に変わったくらいで突然、観戦し始めたりすることもないということに気がつきました。

そんな、このちょっとひねくれた私の気持ちにぴったりハマったのが、岸本佐和子さんの「ネにもつタイプ・五輪傑作選」。今4回目まで公開されていますが、なにしろ、1作目の冒頭が「オリンピックが嫌いだ」。 名の通り、傑作ぞろいです。あー、笑った。

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オリンピックの取材で日本にいっているダーゲンス・ニュヘテルの記者が「これまでこれほど丁重な拒絶」を受けたことはないと、日本で1週間過ごした感想を記事にまとめていました。今の日本を考える上でとてもおもしろい考察だと思うので、明日、改めてブログの方で取り上げようと思っています。

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「共産党」を考える〈今週のニュース〉

さて、スウェーデン中が夏休みのせいなのか、私の取り上げるニュースが偏りすぎているせいなのか? なんとなく生活に密着したニュースが多かったような、今週。

そんな中、比較的時間をかけて書いた(というより周辺資料を読むのに時間がかかったというのが正解か?)のがこちらの記事です。「共産党」という言葉の持つネガティブなイメージは一般的なものだろうと思っていたら、世代的なものだったとは! 目からウロコでした。

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5%の漸進〈今週のテーマ〉

夏休み、読書とYoutubeで勉強中

今週は、日本から送ったり持って帰ってきたりして積んだままになっていた本を手当り次第、たくさん読みました。さらにはサポーターとして応援はしているけれど、いつもは時間の制約もあってなかなか観ることができていなかったChoose Lift ProjectポリタスTVの動画もたくさん観ました。

しかし、そんな中、一番インパクトがあって、見てよかった!  と思ったのがこちらの『こんな政権なら乗れる』出版記念のトークイベント。少しの希望がありました。全部で2時間を超えるこの動画、すぐにそんな時間にとれないという方にも、まずはどんなものだったのか書いてみたいと思いました。そして、この3年間、ブログを書いてきて、なんとなく考え始めたことと、このトークイベントで話された内容とのつながりも。

「民主主義」って何?

私は3年前の夏のスウェーデンでの熱波と気候危機問題と、9月の統一選挙を前に移民排斥を掲げるスウェーデン民主党の躍進に不安を感じ、スウェーデンに来て初めてニュースメディアに目と耳を傾けるようになり、それをブログに書くようになりました。でも、それまでは政治をあまりしっかり考えたことのない人間で、いまでも、よくわからないことだらけです。

上のニュースのコーナーで取り上げた「共産党」の話ではありませんが、特に、スウェーデンと日本、また私たちがよく目にすることの多い、例えばアメリカで、同じような名前がついている政党であってもその歴史的な成り立ちや現在の立ち位置も違い、また「保守」や「リベラル」、さらには「民主主義」や「立憲主義」とは? などなど、ブログを書く度に調べつつ、戻りつつ、なんとか理解を深めようとしてきました。

さらには、自分はなんとなく「左より」で「リベラル」だと思っていたけど、今は「日本はアメリカに頼らず自分たちでちゃんと国を守れるようにするべきだ」と考えてもいるので、私って実は「保守」なのか? と自分で自分の考えをどう理解すればいいのかよくわからなくなってきていました。

「リベラル保守」?「保守はリベラル」?

そんな時、出会ったのが上のトークイベントでも話している中島岳志・東京工業大学教授の「リベラル保守」という考え方。私はその名も『リベラル保守宣言』という2013年に出版された本をまず読みましたが、いま、中島教授のことを知らない人にどれか一冊勧めるとしたら、迷わず、NHK出版の学びのきほんシリーズの『自分ごとの政治学』を勧めます。よく使われる政治の概念や仕組みをとてもわかりやすく解説した入門書で、さらには自分は何を大切に思っているかを考えさせてもくれます。

この本の「保守はリベラル」という項目では、保守とリベラルの関係が以下のように説明されています。少し長いですが、全項引用してみます。

今の日本では、政治的な立ち位置を「保守 vs. リベラル」という対立軸で語ることが多いようですが、私はそれは違うのではないかと考えています。リベラルを「すべての人の自由を尊重する」ことだとするならば、保守はリベラルに非常に近接した考え方だと思うのです。保守の根本に懐疑主義があり、人間は不完全な、間違いやすい存在だと考えるのなら、当然ながらその懐疑の刃は人間である自分自身にも向けられなくてはなりません。自分が一生懸命主張している内容も、どこかに間違いがあるかもしれないという思いが常になくてはならないわけです。そう考えたとき、次にすべきは「他者の意見に耳を傾ける」ことです。自分も間違っているのかもしれないのだから、自分とは異なる、すぐには賛同できない意見についても、無下に否定するのではなくてまず聞いてみよう、となるわけです。そして耳を傾けた結果、それなりに理が通っている、その人なりのいい分があると感じたら、そこから意見のすり合わせが始まります。これが基本的な保守政治のあり方です。自分とは異なる意見ーーーそれが少数派であったとしても---を封じるのではなく、尊重して合意形成をしていくのです。この考え方は、相手の自由を尊重するリベラルのあり方に、非常に近いといえるのではないでしょうか。
『自分ごとの政治学』より

すぐには賛同できない意見についてもまずは聞いてみる、意見をすり合わせる、少数派の意見を尊重する。これまでスウェーデンとその国の運営の仕方に、「リベラル」という言葉は合っても「保守」という言葉が合うとは思ってもみませんでしたが、この「保守はリベラル」の説明はなんだか、なんだかしっくりくるような気がしました。

選挙は近い

さて、スウェーデンでは左党が大躍進したこの7月の世論調査では、統計的に有意な動きであるとは認められていませんが、実は極右政党のスウェーデン民主党が現在の政権担当党である社会民主党に次いで第二位の政党の座に着きました。

スウェーデンの次の国政選挙までにはまだ1年あるものの、このまま進めばスウェーデンは今の中道左派を軸とした政権から、中道右派からもっと右よりというだけではなく、端的に言えば、もっと移民排斥に傾いた政権に代わるように思います。

私はスウェーデン国籍を持ってはいないので、スウェーデンの国政選挙での投票はできませんが、これから一年、世論がどう動いていくかはこれまで以上にしっかり見ていかなくてはなりません。

一方、日本ではもう数ヶ月もすれば必ず衆議院の選挙があり在外投票もできるのに、その選挙で何が論点となるべきなのか、何を考えて投票すればいいのか、それすらもよくわかっていません。そうすると2(非自公・野党)5(無党派) 3(自公・与党)で分かれているといわれる日本人のうち、無党派層はまた選挙に行かず、せっかく選挙があっても今の体制とあまり変わらないまま、次の国会を迎えそうです。

主体を引き出し、粘り強く対話する

ここで世田谷区区長の保坂展人さんと中島岳志教授のトークイベントの中身に戻りたいのですが、このイベントはお二人が共著で出された『こんな政権なら乗れる』というタイトルの本の出版を記念して行われました。

本の前書きで中島さんが書いているのは、こんな一節です。

本書で、保坂さんの世田谷区長としての施策を振り返りながら、これからの日本のあり方を展望したいと思う。これはリアリズムに基づく希望の書である。今の与党とは異なる現実的な選択肢があることを示したいと思っている。本書を読んでいただいた後、「こんな政権だったら乗れる」と思ってもらえると確信している。閉塞的な日本の現状に対して、もう一隻の船を出したい。
『こんな政権なら乗れる』

2011年に脱原発を掲げて、世田谷区の区長となった保坂さんは、戦々恐々としていた区役所の幹部職員に対し「5%だけ変えます。95%は変えません」と宣言され、実際そのように物事を進めていかれたそうです。 また「あのやり方はダメだ」というNOの政治ではなく、YESを見つける政治を行ってきたきたとも。

そしてその5%少しずつ変えるやり方で、下北沢の再開発や、待機児童、福祉のワンストップサービスやら同性パートナーシップ宣誓など、様々な分野ではっきりわかる変化を、住民の主体性を取り込む方法を通し、そこで粘り強い対話をしていくことで実現させてきました。さらにコロナでに対しても「世田谷モデル」で確立し、それは国の施策に影響を与える程になっています。世田谷区は人口が増え続けているそうですが、これまで保坂さんが実現させてきた成果が与えた影響は大きいと思います。

なぜ5%だけ変えるのか?

保坂区長が取り組まれてきたことには目をみはるものがありますが、私が特に注目したのは「5%だけ変えます」と宣言された点です。これは区長になる前に国会議員として長年衆議院法務委員会に所属していた時、法務省のようなもっとも融通がきかない変化が起きないような組織でも、5%くらいならなんとか努力すれば変えられるという体験的な実感としてでてきたものだそうです。

たかが5%、でもお金であれば年に5%利子がつけば複利であれば15年で倍になります。少しの変化でも根気よく続けていけば長年の間に大きな変化を起こすことができる。保坂さんがさらに言うのは「5%だけ変えさせてください、ではなくて、5%は必ず変えますかから」という姿勢だったとも。

ブログを続けてきて私が常々思うのも、スウェーデン人の、特に政治家は、朝から晩までよく議論してるよな、メディアもよく質問し、聞かれた方もよく答えてるよな、飽きもせず、です。きっとこういうことをずっと繰り返して、繰り返してやってきて、今のスウェーデンの形があるのだと思う。そう言えば去年の今頃もこんなことを書いていました。

漸進的に5%で、どれくらい変わるのか?

少しずつ漸進的に変革を起こしてきた例として、現在スウェーデンの国会で半数近くを占めるに至った女性議員は、どのように議席を増やしてきたのかをみてみました。1921年に女性参政権が認められたスウェーデンでは、1922年の選挙で初めて女性の国会議員が選出されました。 当時は二院制でしたが、選ばれた女性は二院合わせて5名、たった1.3%からの始まりでした。

スウェーデンの女性国会議員は長い時間をかけて数を延ばしてきた。Kvinnor har det tuffare än män inom politiken - Jämställdhets myndigheten資料より

スウェーデンの女性国会議員は長い時間をかけて数を延ばしてきた。Kvinnor har det tuffare än män inom politiken - Jämställdhets myndigheten資料より

その後1971年に一院制となった時でも、女性議員の割合はたったの14%。遅々とした歩みで、毎回の選挙でも5%の変化も起こせていませんでした。スウェーデンの国会議員選挙は1994年までは3年に一度、その後は4年に一度行われてきましたが、その先も女性議員の割合は時には、減ってしまうような逆風が吹くこともあり、長い年月をかけて地道に漸進してきたことがわかります。この間、現在の女性が全議員のうち47%を占める状況に至るまで、まさに少しずつ5%にも満たない漸進さでやってきたのです。

目の前の状況に絶望したり、問題が大きすぎると感じる時は「少しづつ漸進的に、5%」と呪文や念仏のように唱えるといいのかもしれません。 

一方、急激な社会変化といってすぐ頭に思う浮かぶのは、2014年以降のスウェーデンでの移民危機です。それまでも移民難民受け入れに関して寛容だったスウェーデンですが、2014年はシリア・エリトリアなどから受け入れた難民だけで実に8万人。2016年にはそれまでと比べて5%増どころではなく、50%増レベルの16万人もの難民・移民を受け入れている。

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漸進的ではなく、急激に起こりすぎたこの社会の変化。変化は大きすぎると反動も大きい。その結果が例えば、スウェーデン民主党の躍進なのだろうと思います。

逆方向への変化を起こしていく時も、やはり漸進的にが正解なのだろうけど、問題が大きいと、これは気候危機問題でも同様ですが残り時間も気になります。でもそこでもすべてが嫌になって為す術もなく途方にくれるよりは、やはり5%の変革を私たちは目指していくべきなのでしょう。1970年代、

ウーマンリブの嵐吹き荒れるスウェーデンの女性たちも途方にくれていたかもしれません。でも続けてきたことで今がある。時間がないように思えても、時間を信じることも大切だと感じています。

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さて、手始めに私は、明日から摂取カロリー、5%削減だ! (すみません、真面目な話の後、こんなシメで😅)

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Laxbutiken〈今週のスウェ推し〉

今週はBohuslän(ボーヒュースレーン)に来ています。

この美しい海も今「日本の牡蠣」という名の牡蠣(もちろん外来種)が繁殖して大変なことになりつつあるそう

この美しい海も今「日本の牡蠣」という名の牡蠣(もちろん外来種)が繁殖して大変なことになりつつあるそう

スコーネから、夫の親族の多くが住む風光明媚なこの地方に旅する時、いつも立ち寄るのがLaxbutiken(サーモン専門店・レストラン)です。一昔前は「鮭の館」(なんだ、それは?)みたいなちょっと古くさい感じも残るお店だったのですが、6,7年ほど前かな? 全面改装して、きれいにより大きくなったレストランに加えて、テイクアウト専門のコーナーやアイスクリーム店も併設するようになり、ますます人気の「道のレストラン」に。

サーモンを使った、ありとあらゆる冷菜からボリューム満点のメインディッシュまで、多彩なサーモン料理が揃っています。お値段はそれなりにしますが、満足度も高い。

https://www.instagram.com/laxbutikerna/?hl=en

https://www.instagram.com/laxbutikerna/?hl=en

去年の夏はコロナでボーヒュスレーンには来ませんでしたが、その間にPokéとSashimiが新しくメニューに加わっていましたよ!

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それでは、また来週〜 👋

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