森論争

『ノルウェイの森』ときたらもちろん村上春樹なのだけれども、「スウェーデンの森」では「皆伐(Kallhygge)」と受けるのが正しい。植林地であっても樹木は同じ様に二酸化炭素を吸収ししばらく経てばまた生物多様性は新たに構築されると主張する研究者がいる一方で、森は人の手を加えずできるかぎり多様性を保ったまま残すべきだという考え方の人も多い。増え続ける木材需要の中、森はどうあるべきなのか?
ブロムベリひろみ
2021.10.24
誰でも

swelog weekend nr 29

〈今週のトピック〉  森論争
〈今週のブログ記事〉 インテリアが気になるという逃避行動?
〈今週のスウェ推し〉 グレタの映画

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森論争〈今週のトピック〉

スウェーデンの森=皆伐

『ノルウェイの森』、ときたらもちろん村上春樹なのだけれども、「スウェーデンの森」ときたら「皆伐(Kallhygge)」と受けるのが正しい。皆伐とは一定のまとまりのある森林の林木を一度に全部伐採することをいう。

皆伐
森林を構成する林木の全部または大部分を一時に伐採し収穫すること。一斉に伐採するので、伐採、造林の技術が比較的容易で確実であり、その時点での経済性も優れているため、林業とくに人工林の経営では広く行われている。

しかし皆伐すると、林地が一時に露出して肥沃(ひよく)な表土や腐植が流出し、林地の生産力を害したり、跡地の造林地が気象災害や病虫害を受ける、生態系を破壊するといった弊害がおきやすい。とくに皆伐を大面積に行ったり短期間に頻繁に繰り返したりすると、その弊害も著しい。そのため、土地の条件に応じて皆伐面積の制限、皆伐繰り返し期間の延長、皆伐以外の伐採方法の採用などを考慮する必要がある。

まもなく始まる英国グラスゴーでのCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)の開催を前に、熱を帯びる気候危機関連報道の中で、この国の国土の70%を占める森に今一度大きな注目が集まっている。

言うまでもなく森は、温室効果ガスのネット・ゼロ達成に向けて大きな役割を果たす。樹木が二酸化炭素を吸収し、地表は炭素を貯蔵する。世界的に見ると熱帯雨林の役割が大きいが、スウェーデンの森はヨーロッパの枠組みでみると大変重要だ。しかし近年、そのスウェーデンの森の中身が急激に変わってきた。

「森を巡る戦い」

今秋スウェーデンの公共放送SVTが30分、7回のシリーズ番組として放映した「森を巡る戦い(Slaget om skogen)」では、スウェーデンの森を巡る考え方の違い、権力構造、そしてスウェーデンの、EUの、地球の未来にむけてスウェーデンの森はどうあるべきなのかを考えるための材料が提示される(番組はスウェーデン語だが、世界どこからでも視聴可能)。

www.svtplay.se

これだけ多くの森があっても、今「自然林」と呼ばれる伐採や植林によらない、自生の森はスウェーデンの森全体の10〜15%を占めるに過ぎず、大部分は植林されるなど、人間の手が入り管理されている森だ。そして多くは「皆伐」方式で植林され、木材や製紙、さらに近年は化石燃料に変わるバイオ燃料の原材料などとして計画的に伐採されていく。

伐採に適しているのは、その土地や木の種類にもよるが、これまではおおよそ70年から80年くらいの樹齢の木で、それを切り出していた。1960年くらいから木の需要が高まるにつれ自然林はどんどん減って、また近年は最適樹齢に達していない木も切り出されていることも指摘されている。

増え続ける木材の需要

植林地であっても樹木は同じ様に二酸化炭素を吸収するし、一度更地になってもしばらく経てばまた生態多様性は新たに作られると主張する林業の研究者がいる一方で、森は人の手を加えずできるかぎり多様性を保ったままで残されるべきだという考え方の人も多い。

化石燃料から脱却するために、木材からバイオ燃料を作り出すことに懐疑的な声もある。プラスティックの使用を減らすために紙の需要は増えているし、またパンデミックでますます進んだEコマースへの商業全体の偏重は、ダンボールの需要をどんどん増やしている。

鉄やコンクリートできた建物に変わって木造建築が選ばれることも増えているが、木材の使用量が増えるとスウェーデンではますます自然林が減っていく。木造建築のために植えられた樹木は二酸化炭素を吸収し、また建材となった木はそのまま炭素を溜め込んでいるとはいっても、これが気候危機への最適解なのかは科学者の間でも意見は分かれている。

森林破壊が叫ばれるとき、よくブラジルの熱帯雨林の乱開発がやり玉に挙がるが、実はブラジルでは開発されている森はごく一部で、広大な自然林や手つかずの原生林が残っている。今スウェーデンに残る原生林は森全体の0.5%にしか過ぎず、また最近は増えてきているとはいうものの、保護区域と指定されている自然林も森面積全体の6%でしかない。

林業の二酸化炭素排出量にも注目

さらにはウメオ大学の研究者は、たしかに森は二酸化炭素を吸収するが、林業の排出する二酸化炭素の排出量は、スウェーデンの他の産業全体からの排出量と交通機関からの排出量と合算した量よりもまだ多い、とも試算する。

スウェーデンの森は全体で年間約1億2千万トンの二酸化炭素を除去していると考えられているが、伐採、木材加工、パルプや紙の生産までを含んだ林業全体では年間8000万トンの二酸化炭素が排出されるという計算だ。

この理論を展開するスティーグ・オロフ・ホルム准教授は「森は気候危機にもっと貢献できる大きな可能性を秘めているが、利用の仕方を完全に変える必要があり、皆伐をやめなければならない」と主張する。

まさに、SYSTEM CHANGE NOT CLIMATE CHANGEなのだが、スウェーデンの林業は7万人を雇用する大きな産業セクターでもある。しかしこの国の林業がこの先も変わらないのであれば、私たちは地球全体で気候危機に対処することなど、到底無理なのではないかと思ってしまう。

幸い(?)国内産業であったスウェーデンのの林業のあり方に、最近はEUからも非難の声があがっており、森林問題はCOP26でもこの先のEUの会議でも、様々な形で議論されていくだだろう。ただ、悠長な議論をしている時間はない。私たち生活者も木からできたものだから、プラスティックではないからといって、木からできた製品を湯水のように使えるような余裕はないことは、肝に命じておく必要がある。

森はどうあるべきなのか、まずはみなさんも森に行って考えてみて!

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〈今週のブログ記事〉

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その他にはワクチン、育児休暇や万引き恩赦の話など〜。

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グレタの映画〈今週のスウェ推し〉

私は去年の12月にオンライン配信で視聴した
私は去年の12月にオンライン配信で視聴した

昨日10月22日(金)から日本でも公開されたこの映画、『グレタ ひとりぼっちの挑戦』。もう、まだ観てない人は観るしかないですよ! 私はブログではこんなこと書いてました。

昨夜は11月20日に公開後、すぐにネット配信でも観ることができるようになったグレタ・トゥーンベリのドキュメンタリー『Greta(アイ・アム・グレタ)』を自宅で観た。途中、アメリカに渡る過酷な航海の中で、彼女が日記代わりにひとり語りをスマホに録音しているシーンがあって、グレタはそこで延々と「責任」というものに関して話している。彼女は自分の感じている重圧について話しているのだが、それは本来ならだれか他の人、そう大人がとるべきものであることはこのドキュメンタリーをみる人には明らかだ。

詳細などはこちらからどうぞ! 必見というか、もう絶対、と言う感じでスウェ推しします!

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では、また来週!

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