国の評判、悪評判

夏休み (Semester) / 警官銃殺事件で二歩下がる / 国の評判、悪評判 / 『こどもサピエンス史』『コミュニティー・オーガナイジング』
ブロムベリひろみ
2021.07.04
誰でも

夏休み (Semester)〈今週のフィーカ話〉

夏休みには、普段は行くことが難しいカフェなどもいろいろ訪れてみたいな
夏休みには、普段は行くことが難しいカフェなどもいろいろ訪れてみたいな

夏休みも仕事のうち? と思うことが最近何度かありました。

先日ブログにも書いた、そもそも夏休みは活動的に過ごすためにあるという休暇法制定時の由来を読んだこともそうですが、この週末から5週間の休暇に入る上司に「私は夏休みは7月終わりから2週間 取ると先日申請しましたよ」とリマインドしたら「最低でも続けて3週間、できれば4週間取ろうよ」と改めて言われ、私の有給を一緒に数えてくれようとしたこともそう。

上司には、父の他界に合わせて4月に既に5日休みを取っていること、またクリスマス時期や来年冬のスポーツ休暇にも休みたいと私が考えていることを思い出してもらって、話は落ち着いたのですが、まぁ、ちゃんと部下が休めているか、精神的に安定しているかを確認することは現代のスウェーデンの管理職の大切な仕事でしょうから当たり前と言えば当たり前の質問なのか? しかし休みが短いと文句(?)を言われるなんて。

夏休みの長さはともかく、全体でみると私は年間30日の休暇(これを6週間とスウェーデン人はよく表現しますが)では、全然足りない。もうあと3週間位あると、しっかり休めそうなんですけど。いや、だらだらするだけかな?

警官銃殺事件で「二歩下がる」〈今週のニュース〉

政局の不安定さが続き、夏休み気分も高まって、なんとなく落ち着かない毎日だなぁと思っていたところに、水曜日の夜にヨーテボリ郊外で警官が射殺されるという事件が。これまでに17歳の容疑者が特定、拘束されており、銃殺は警官を狙ったものではなく誤殺のようだという流れで調査中と報道されています。

事件が起こったのはヨーテボリ郊外のビショップスゴーデンで、低所得層向けの団地が並ぶ地区。近年はギャング団間の闘争の舞台となっており、この地区だけでここ10年間で20件もの銃による殺人事件が起きています。

ビショップスゴーデンの住民たちの中には、そんな負いたくもない汚名を返上しよう、まずは子どもたちをギャング団の勧誘から守ろうと、様々な地元に根づいた活動を行っている人も多い。

今回の事件に際して、多くの警官、住民、活動家たちがインタビューされているのを聞きましたが、その中でも地区のアクティビティリーダーの「せっかくいい方向に進んでいたのに、この事件でまた二歩下がってしまった」との発言が印象的でした。

私はswelogの紹介文で「スウェーデンの三百六十五歩のマーチ」という言葉を使っています。スウェーデンは理想を掲げて革新的な取り組みをよく行うけど、誰もこれまでやってこなったことには、うまく行かないことも多く、「三歩進んで二歩下がる」ことも本当に多い。悲しみや悔しさや無力感が様々な人の口から語られたこの数日。時間がかかるかもしれないけど、願わくばみんなにまた歩み始めようという気力を取り戻してほしいと強く祈ります。

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今週の他のニュースはちょっとバラバラな感じですが、強いて言えば「夏」が共通項かな? ベルリンまでの夜行電車の記事は驚くほど読まれていて、関心のある方が多いようです。電車の長旅って聞くだけで幸せな気分になるのは、私だけではなさそうですね。

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こんな感じでswelog weekendでは、毎日更新しているブログswelog(スウェログ)で取り上げたニュース記事を一週間分まとめてその週のテーマ記事と一緒に日曜日にニュースレターとしてメールでお送りしています。おもしろそうと思っていただければ、ぜひ下記の「無料購読をする」からご登録ください。

国の評判、悪評判〈今週のテーマ〉

悪いニュースは早く伝わる

スウェーデンの首相が議会で不信任案決議されるというスウェーデンの政治における歴史的な出来事と、水曜日に起きた警官射殺事件の報道のされ方をみていると「悪い話ほど早く伝わる」「人は自分の価値観を伝えるために他国のニュースを利用する」という、これまでもスウェーデンに関する報道でよく言われてきたことは、やはり正しそうだと実感しました。

土曜日に公開されたスウェーデン時事問題に関して英語で伝えるポッドキャストでも、ストックホルム大学のジャーナリズムの教授、クリスチャン・クリステンセンの国際メディアにおけるスウェーデン関連のニュースについての見解を耳にしました。

英米の大手やオルタナティブメディアが取り上げるスウェーデン関連ニュースのウオッチを続けるクリステンセン曰く、「スウェーデンに関するニュースはコロナ関連を除けば、ここ5、6年の報道はスウェーデン民主党と移民関連のニュースにほぼ限定されている」。なのにスウェーデンは国としても、未だに「金髪碧眼の人たちが進歩的な考え方で世界をリードしている」というイメージを売り続けようとしている、とも。

悪いニュースは訂正されない

スウェーデンに関する悪いニュースは、これまでもアイゼンハワーやトランプというアメリカの大統領たちが、対立する価値観を貶めるために使ってきました。そしてまったくのフェイクではないが切り取られ方がフェアではないなどの場合も、一旦広まってしまった悪いニュースは、後から説明したり訂正したりしても本来あるべき内容へと修正されることは困難です。

だいたい北欧の小国の政治に関するニュースなど、世界的にみれば関心のある人も理解している人もほとんどいません。今回の首相辞任に関してもこんなツイートを見かけました。

swelogに目を通してくださっている方なら、今回のスウェーデン首相の辞任とコロナは関係がないことはご存知だと思います。辞任の経緯は少し前のこちらの記事に。

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町山さんの映画の知識や社会的問題への切り込み方はいつもすごいなと時々ツイートを見かけたり、Youtubeを拝見したりしていますが、そんな方でもこんなリツートをしてしまう。おそらくはトランプが責任をとってないという主張をしたかったため「スウェーデンとコロナ」という人気の(?)組み合わせに飛びついてしまったものかと思われます。

スウェーデンの高い自殺率?

スウェーデンの自殺率が高い、という話、耳にされた方も多いのでは? これを広めたのはアメリカの大統領であったアイゼンハワーだったという指摘がフレデリック・ヘイルという歴史の専門家が2003年に発表した論文にあります。

1960年当時、8年の任期満了間近だったアイゼンハワーは、国家社会主義を掲げる人気のケネディと対立していたニクソンを応援するために、輝ける社会主義国家であった北欧の小国スウェーデンを口撃することで、対立勢力を弱めようとしました。

1960年6月27日に開かれた600名の共和党員が参加していた朝食会で「福祉の行き過ぎは破滅への道である」として、スウェーデンの名前こそ出しませんでしたが、「あるヨーロッパの社会主義的政策をとっている国で、自殺率が信じられないくらい上昇してしまった。(国に)無力が感じられる」と述べました。

実はスウェーデンの自殺率は社会民主党政権になる前から高く、社会主義になってからは逆に減少傾向にありました。知人から間違いを指摘されたアイゼンハワーは二年後にスウェーデンを訪れた際に、その間違いを謝罪したとのことですが、そのような謝罪は人々には届かず、スウェーデンでは自殺が多いというイメージだけが残りました。

北欧の自殺伝説についてはこちらのフィンランド発の記事も参考になります。

北欧の自殺率の高さを強調することは、少なくとも1960年代にさかのぼることができる。その頃、外国の研究者が、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの福祉国家を弱体化させようとしたり、正当化しようと試みたからである(抄訳)
nordics.info

 昨夜スウェーデンで…

そしてトランプ元大統領が自身のより厳格な移民政策主張に関連させて、「スウェーデンでおこっていることを見よ」と繰り返し発言していたことはみなさんの記憶にも新しいと思います。「昨夜スウェーデンで起こったことを知っているか?」といった時、スウェーデンでは特に何も起こっていなかったというオマケつきの発言でした。

スウェーデンで移民がらみの暴力事件が起こる時、殺人事件が起こる時、それはかなりの衝撃で、また世界中にまたたく間に配信されます。以下は2013年にストックホルム郊外のフースビュで起こった暴動についての報道に関する記述です。

スウェーデンは、異常なほど高い国際的な評判があったゆえに叩き落されたわけである。 さらに、スウェーデンについて知らない人が多いがゆえに、「歪み」と「偽り」がはびこることになった。暴動のショッキングなイメージが、危険で怖いスリルをこの物語に与えたとも言える。

進歩的な価値観を示す世界の様々なランキングで常に上位するスウェーデンで起きる「事件」は、事件だらけの国から発信される同様のニュース(もしくはニュースにもならない)とはまったく異なるレベルの注目を集めます。沼地に汚れた靴で入っても誰も気が付かないけれども、磨き上げられた床に同じ靴で一歩踏み入れただけで、その汚れに気がつかない人はいない。

スウェーデンはこれまでに築き上げてきたその進歩的な価値観のゆえに、これからも異なる価値観を持つ様々な(保守的な、とひとくくりにしてしまっていいのか悩みますが)人たちから叩かれ続けることになるでしょう。

先にコメントを引用したクリステルセン教授は、今スウェーデンがらみのことで国際的に報道されたりSNSでシェアされるもののほとんどは、コロナ関連を除けば、スウェーデン民主党と移民に関するものだと言います。

上で引用したnordic.infoの記事では、スウェーデンで母親が子供の教育で主導権を握ったり家庭外で働いたりすることは、子どもの精神的な健康に影響を与え、ひいては自殺率が高まる、という指摘が1960年代にあったとも伝えています。

この考え方に基づいてスウェーデンを批判しようとする人たちは、現在では少なくとも欧米諸国ではあまりいない(もしくはポリティカル・コレクトネスを考慮して、腹の中では思っていても口にはださない)と思いますが、日本の保守層の中には、真面目にまだそんな批判を行いそうな人もたくさんいそうです。

批判されない日本

日本はこれまで幸いなことに? そのような世界を変革するような価値観をリードしたこともないので、その手の批判とは無縁でやってきたと思います。日本が世界に誇れるもの、これで世界に影響力を持ちたいと、日本のトップレベルの人たちが考えた答えが「おもてなし」だったわけですし。

おもてなしは、誰だってされれば嬉しいものでしょうから反発も起きません。世界を変革する原動力にはならないけれど、誰かから激しくディスられたりもしない。それが、これまでの日本でした。

スウェーデンで20年以上暮らし、日本に帰った時には「ひどいな」と思うことはあっても「わきまえていた」私は、そもそもそのようなジェンダー関係のひどい状況にも文句をいうことでなにかが変わるだろう、と頭に浮かぶことすらなかった。

でも今、声を上げる人が増えてきて、私もここは変えた方がいい、少なくともおかしいと指摘した方がいい、と思うことも増えてきました。先日、日本に帰国した際に政府のお金でホテルにコロナ隔離された時もそうでした。私に直接の害はありませんでしたが、「部屋から一歩も出ない」とか「アルコールもたばこも禁止」というのは基本的な人権の侵害ではないのだろうか? 検疫はこれを実施できる法的な根拠はあるのだろうか? と思わずにはいられませんでした。

そんなことを考えていると、一昨日はアメリカのジャーナリストが来日した際の報道機関の行動の監視について、オリンピック実行委員会に質問をしていると聞き、うーん、やっぱりこのままでは済まないような気がしてきています。

日本の評判は落ちていくのか?

日本はこの先も進歩的な価値観の提示で、世界の一定の層の人達から反感を買うようなことはないだろうけれど、あまりにもアップデートされていないジェンダーや労働問題などでの基本的な人権の侵害や、報道の自由といった当然あるべき土台の欠如で、世界からの評判を落としていくのではないか、と気になっています。

特にこれまでは、人権や報道の自由が日本だけで局地的に守られていなくても、世界では誰もあまり気にもしていなかったと思いますが、最近では入国管理局や労働実習生の話など、外国の方が関連する分野にひどい話が多い。

そして1960年代とは違い、今は誰でも発信できる時代。国の評判や、特によくない話がどのようにまき散らかされていくことに日本ももっと敏感になってもいい。というか他国からの評判は本来ならどうでもいいので、国の中身がよくなっていけばいいだけの話だとも思います。ともかく、日本の化けの皮(?)が剥がれないことを勝手に心配しています。

最後にスウェーデンの評判の話にもう一度戻ると、もしもスウェーデンのニュースに興味を持っていただいているのなら、これからも「誰が何を話しているか」に注意を払っていただければと思います。起こった事実を正しく伝えようとしているだけなのか? それとも発信者には隠れた、もしくははっきりとした意図があってそれを発信しているのか? 

私はスウェーデンの中にある異なる視点の考えをできるだけ伝えたいと思ってはいますが、自分自身の基本的な考え方は社会主義的で、その点では結構偏っています。でも、これからもみなさん自身が、自分のスウェーデン像を作っていただけるようなブログやレターの内容を心がけたいと考えています。これからもどうぞよろしく。

『こどもサピエンス史』と『コミュニティー・オーガナイジング』〈今週のスウェ推し〉

子ども向けの本ってどうしてみんなこんな面白そうなのか? 原題は「猿からサピエンスへ」
子ども向けの本ってどうしてみんなこんな面白そうなのか? 原題は「猿からサピエンスへ」

と、熱くなってしまったところで、今日のスウェ推しはツイッターで知ったこちらの新刊をご紹介します。私もまだ読んでないけれど、とてもおもしろそう。

こういう本スウェーデン語で読むのは辛いけど、子ども向けなら大丈夫か? 私はスウェーデン語で読んでみますので、日本にいらっしゃる方は刊行されたばかりの日本語でどうぞ! 

note.com

あと、これはスウェーデンとはまったく関係のない本ですが、出版を記念して公開されていた対談があまりにもよかったので、こちらをぜひ紹介させてください(無理やり!)。政治を変えるとか考えるとあまりにも現実味がないようでくらくらするけど、ここで鎌田さんが話されている自分でできるサイズのコミュニティをつくって変革していくという形なら手が届きそう。

更には書かれているように、このやり方で日本はもしかしたら社会を変革していくパイオニアになれるんのではないか、と明るい希望を感じさせてくれるところも最高です。この本、読みたいですな。 (しょうがない、キンドル、いっちゃうかな?)

さて、冒頭に書いたように、目下夏休みモードのスウェーデン。swelog weekendもこれから5週間ほど、夏休み体制で配信させていただこうと考えています。とはいっても、ブログの更新は毎日続けるのでこのニュースレターもこれまで通り日曜日に配信します。

ただ夏の間は時事テーマからは少し離れて、ちょっと違うジャンルの読み物を提供したいと考えておりまして「スウェーデンの著名人と税金にまつわる逸話」などをご紹介していく予定です。ご期待ください。(あ、言っちゃったよ、がんばらなくっちゃ。)

では、また来週〜 👋

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