「スウェーデン映画」の今とこれから
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「スウェーデン映画」の今とこれから
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ラジオ・つぶやきで語るスウェーデン
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気候変動政策問題で訴えられる国家と、グレタ・トゥーンベリの『気候本』
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スウェーデンのキムチと、危機に備える発酵野菜
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ヘディ・フリード
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高校から育てるホワイトハッカー
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雷雪と霜薔薇
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冷たくなったプール、閉まるサウナ
「スウェーデン映画」の今とこれから
昨年、スウェーデンのアカデミー賞であるグルドバッゲ(金のカブトムシ)賞で、最優秀作品賞他合計5つの賞に輝いたのは、コスタリカの40代の女性の性と成長を題材にした『クララ・ソーラ(Clara Sola)』。この映画は米アカデミーの国際長編映画賞にコスタリカからエントリーされた。監督はスウェーデンとコスタリカに縁のある、スウェーデン人のナタリー・アルバレス・メセンだ。
スウェーデンのアカデミー賞と言われるグルドバッケ(金のカブトムシ)賞の大賞を受賞したこの映画は、監督自身が育ったコスタリカの村を舞台をしており、米アカデミー賞の国際長編映画賞(外国語映画賞)にはコスタリカからエントリーされたというちょっと変わった「北欧映画」だ。
この他にも2019年には、ジョージアの男性ダンサーのセクシュアリティとその苦悩を描いた『ダンサー そして私たちは踊った』がグルドバッゲ最優秀作品賞を受賞しており、この映画はジョージア出身のスウェーデン人レヴァン・アキン監督によるもの。
そして、今年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、10月のフランスでの先行公開に続いて、先週末からスウェーデンでも劇場公開が始まったのが、タリック・サレー監督の『ボーイ・フロム・ヘブン』で、この映画の舞台は、エジプトに実在する著名大学。イスラム教スンニ派にとって、カソリックにとってのバチカンのような存在のアズハル大学で、現代エジプトの宗教界と政治エリートの残忍な権力抗争に巻き込まれる、貧しい漁村出身の優秀な学生アダムを主人公に話は進む。
監督のタレック・サレーがエジプトにルーツのあるスウェーデン人で、また映画の中で重要な治安警察の刑事役を演じているのが、レバノン出身の人気のスウェーデン人俳優ファーレス・ファーレスであることを除けば、スウェーデンとはまったく関係のないこの映画の制作資金を集めたのはスウェーデンの映画製作会社。またスウェーデン映画協会が資金援助を行っている。
スウェーデンやフランスでスマッシュヒットとなった2017年の『ナイル・ヒルトン・インシデント(Nile Hilton Incident)』を撮影しようとカイロにロケで入ったところ「5日以内にエジプトからでていかないと拘束する」とのメッセージを受け取ったタレック・サレー監督は、今回の撮影もエジプトでは行うことができず、コロナの影響でモロッコでもNGとなり、最終的に撮影地はトルコになったと話す。『ナイル・ヒルトン・インシデント』はエジプトの腐敗した警察組織を描いている。
タレック・サレーの映画は創作だが(脚本もサレーによるもの)、現代のエジプトの問題点を鋭く描く。しかしそのような映画は今のエジプトの政治体制下では到底作ることはできない。
同様に今反政府デモが沸き起こっているイランを描いたのが、スウェーデンでは来年1月公開予定の『ホーリー・スパイダー(Holy Spider) 』だ。こちらは先日開催されたストックホルム映画祭で作品賞始め、5部門で受賞した。この映画が扱っているのは、イランの聖地マシュハドの街を浄化するために16人もの街娼を殺した男とそれを追う女性ジャーナリストの話である。これは2000年から2001年に起こった実話に基づくものだが、女性ジャーナリストはアバッシの創作だ。
監督のアリ・アバッシは日本でもカルト的な人気が出た『ボーダー 二つの世界』で一躍名をあげた。イラン出身でスウェーデンの大学で勉強するためにやってきたが、その後デンマークの映画学校を卒業しており『ホーリー・スパイダー』も第95回米アカデミー賞へはデンマークから国際長編映画賞へエントリーされており、今はコペンハーゲンに住んでいる。
本作はデンマーク、スウェーデン、ドイツ、フランスの合作映画で、アバッシは「この映画は連続殺人犯に関する映画ではなくて、この殺人犯をある程度容認したかのようなイラン社会、特にイランにおける根深い女性嫌悪についての映画だ」とインタビューで語っている。イランの警察は娼婦殺しをよしとして、犯人をあえて捕まえなかったようなのだ。そしてその嫌悪は宗教でも政治でもなく、文化的なものを背景としているとアバッシは言う。
アバッシやサレーといった監督たちだけでなく、これらの映画に出演することで、俳優たちも職業的、社会的、そしてもしかしたら命の危険にもさらされることになる。それでもこれらの映画は生まれることを望んでおり、熱意をもった製作者たちが彼らの映画を作れる環境と資金を見つけることのできる場所が、今はスウェーデンなのだろう。
この先しばらくすると、ウクライナの、そしてロシアの物語が「スウェーデン映画」という形をとって、語り始められていくのかもしれない。
ラジオ・つぶやきで語るスウェーデン
4回目のラジオは短く短く。今週の音声版のswelog「つぶやきで語るスウェーデン」はこちらからどうぞ。(2分)
昨日約1000人の気候変動アクティビストたちが集結して、ストックホルム裁判所に向かい、スウェーデン国家を訴えた。訴状は国が十分な気候政策を行ってこなかったというもの。
この訴訟を起こしたのは、下は7歳から始まる636人の子どもと若者で、昨日のデモでは気候変動問題活動団体「オーロラ(Aurora)」の代表たちがスピーチを行った。スウェーデンの気候政策には問題がある、特に排出量をどの程度のスピードで削減すべきかについて、政府が調査しておらず、実現可能な計画がないことを指摘している。
同様の気候政策において国を訴えた事例はすでにドイツやオランダにあり、これらのケースでは、欧州人権条約を根拠として裁判ではアクティビストたちに有利な判決がだされ、各国は気候変動目標の強化を余儀なくされた。スウェーデンの環境法の教授ヨーナス・エッベソンは、この訴訟がこれからスウェーデンの気候政策に影響を及ぼす可能性があるとコメントしている。
オーロラたちが主体となって、国を訴える可能性が話し始められたのは2年ほど前。前の環境大臣に同様の要求書が提出された時は、要求書の内容には同意しないと大臣から回答があり、具体的なことは起こらなかった。現在の気候・環境問題担当大臣にも書簡を送っていたが、返事はもらえていなかった。
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今、スウェーデンでベストセラーリスト入りしているのが、この訴訟にも参加しているグレタ・トゥーンベリによる『気候本(Klimatboken / The Climate Book)』。刻々と悪化していく状況の中で、私たちには何ができるのか? そんな究極の問いに対して、100名以上の地球物理学者や数学者、海洋学者、気象学者、エンジニア、経済学者、心理学者に哲学者と広範囲に至る専門家たちがそれぞれの専門知識を駆使して、危機に関する知識と理解がうまれるようにこの本は書かれた。今の地球の全体像を知り、これからすぐに何をしなければいけないのがわかる。
うちの夫もさっそく読んで、みんなに「読め」と薦めていた。そして「グレタは本当にすごい」とも。ほんとうにすごいなグレタ。
今週は、スウェーデンの普通のランチレストランのサラダバーで、初めてキムチが提供されていたのを見かけた記念すべき週なので、やはりこれは記録しておこう。
スシはもちろんのこと、最近ではGyozaやOkomonoyaki,そしてTonkatsuなどの(あやしい)メニューもランチにちらちら見かけるようになった。スウェーデン人は異国の料理にオープンだ。この間、とある専門家が今年のクリスマス料理の傾向を解説しているを見かけたが、この人は、スウェーデン人の家庭で普段よく食べられているのはピザ、パスタ、タコスなどなので、年に一度や二度くらいはスウェーデンの伝統料理を食べるのがいい、と話していたくらい。
私が食べたランチで提供されたキムチは、キムチというよりキムチ風白菜サラダで、なにより、他の料理とまったくマッチしていないその唐突な存在感が、キムチはこの先、どんな扱いになっていくのだろうかと、キムチの先行きを大いに考えさせた(大げさな😅)。
キムチは今や少し大きめのスーパーならどこでも、スウェーデンの瓶詰めのものがが棚に並んでいる(私には”キムチ風”、だけど)。アジア食品店に行けば本格的な韓国からのチルドものも手に入る。発酵食品が健康にいいということで、キムチに注目している人も多いわけだが、今週のニュースでは違う視点から、この発酵させた野菜に注目が集まっていた。
プレッパーのヨハン・ヴァルストレームさんの家には冷蔵庫もレンジもなく、彼は42個の瓶に漬けた発酵野菜を食べて生活している(どうやらキムチはないようだが)。彼は、世界情勢への不安と結びつけて、火さえもいらない自身の自給自足生活を語る。ヨハンさんは、普段この発酵野菜と、発芽させた各種スプラウトを食べて暮らしていて、この先42ヶ月間はまったく買い物をしなくても(おそらくは健康に)生き延びることができる計算である。彼に言わせるとスウェーデンの防衛対策庁MSBがすすめる一週間分の食料の備蓄などは、子どもだましでしかない。
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さて、今日のランチには何がついてくるのだろうか? だれか、キムチよりも 、普通の日本のお漬物をスウェーデンのランチ文化に取り込んでくれないかな?(で、でもこれも”お漬物風サラダ”になっちゃうか?)
先週、作家で心理学者のヘディ・フリードさんが98歳で亡くなったというニュースがあった。1924年にルーマニアで生まれたヘディさんは、20歳の時に送られたアウシュビッツの強制収容所からの生き残りで、1945年にスウェーデンにやってきた。ダーゲンス・ニュヘテルの文化局長のビヨン・ヴィーマンが、彼女のことを20世紀から21世紀にかけてのスウェーデンで最も重要かつ意味のあるオピニオン・リーダーの一人であったと書いている。
ヘディさんにとってはマルメに到着した時に差し出された暖かいチョコレートドリンクがスウェーデンそのものを意味するものだった。そのヘディさんが、切迫した状況下では人間は他者に対してどのような残虐行為も行いうることを訴え、ホロコーストはまた起こる可能性があると声を上げるようになったのは、1990年代初頭にネオナチが台頭してきた時で、彼女は本を執筆し、スウェーデンの学校を回って何万人という子どもたちに自身の体験を証言するようになった。ナチズムや人種差別、暴力や偏見に対抗する教育活動を讃えられ、2017年にはパルメ賞を受賞している。
ヘディさんはかなりの高齢になっても、活動し声を上げることをやめず、必要がある限り努力することを公言していた。2017年に出版した「ホロコーストについて聞かれたこと」という著作はスウェーデンを代表する文学賞にノミネートされ、また2019年に95歳で初めての児童文学作品も発表している。
ヘディさんは2015年のアウシュビッツ解放70周年の記念の年に、戦後初めて反ユダヤ主義の高まりを恐れていると書き、また2020年には、今起こっていることと1930年代に起こったことを比較して、目の前で社会規範が置き換えられようとしており、私たちは暗黒の道を進んでいると書いた。この9月に極右政党のスウェーデン民主党がスウェーデン第2の政党となったニュースは、ヘディさんが最も耳にしたくはなかったニュースであっただろう。
ヴィーマンは、ヘディさんがスウェーデンにいるというだけで、公の場で言っていいことと悪いこととの間に暗黙の了解があったように感じていたが、その彼女がもうこの世にいない、チョコレートドリンクも冷え切ってしまった、と彼女の後に残された空虚を見つめている。
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2017年のヘディさんのドキュメンタリーが、今SVTで再び観ることができるようになっているので、リンクを張っておきます
エステルスンドにあるストールフォー高校(Storsjögymnasiet)では、来年度からサイバーセキュリティーと倫理的ハッキングのためのホワイトハッカーを育てるための新しいプログラムを開始する。ホワイトハッカーは注目の職業だが、高校での特化したプログラムは、スウェーデンでもこれまではあまりなかった。
ハッカーのうち、コンピュータやネットワークへの不正侵入者などの行為に対抗して、自らの技術力を善意をもって駆使する者のこと。ホワイトハットハッカーwhite hat hackerともいう
この高校では、サイバー戦士、セキュリティ専門家など、サイバーセキュリティの問題に関わる専門家となるための基礎的な知識を教える。焦点は悪い奴らに対抗する正義の善玉ハッカーを育てること。
大型スーパーのシステムがサイバー攻撃で動かなくなったり、最近もロシア人のスパイが次々に検挙されたり(こちらの事件も)と、私たちの生活は常に脅威にさらされることを実感せずにはいられない。私はこれからハッカーになるのは無理だけど、せめてへんなURLはクリックしたりしないくらいのことはできるな。
一週間前までは気象上の「夏」が続いていたと思ったら、急に全国各地で大雪になっているスウェーデン。日曜から月曜の朝にかけて、ストックホルムを中心とした地域で、大雪の中雷がなるという珍しい現象が起きた。これは「サンダースノー」と呼ばれるもので、空気中に多くのエネルギーがある時に起こる。
今、上空にはとても冷たい空気が流れ込んで来ているが、沿岸の海水は比較的暖かいままで、この温度差により、降雪したり雷がなったりするのだそう。雪が降ると音がすべて吸い込まれるような静寂さが出現するが、そこで鳴る雷、どんな音がしたのかな?(うちの地方では鳴ってません)。下のリンク記事にはその様子が少しわかるビデオがアップされている。
霜薔薇(フロストローズ)という、数千の霜でできたバラが出現したのはキルナ郊外、ケブネカイセ山脈近くのパイタスイェルビ湖。これは氷点下20度の時に氷の表面にできるもので、氷の下から小さな水滴が氷面に上がってきて、この水滴が水蒸気となったものが凍ると、氷の上に花が咲いたようになるというもの。
(画像・スウェーデン気象庁のサイトよりIskristaller, snöstjärnor, snöflingor och frostrosor | SMHI Foto Martin Gräntz)
この氷の花の結晶がどの様に成長するかは、気温や湿度に影響されるが、晴天の中、冷えていて風が弱いという条件が整わないといけない。こちらもリンクから動画でもみれるので、ぜひどうぞ。きれいなぁ。
ヨーテボリの公営温水プールでは、電気代節約のために水温を下げることにした。先週、自治体が消費するエネルギーを5%削減するという決定がされ、これに伴ってプールの水温が下げられることになった。同時にサウナを使える時間もこれまでの半分になった。
SVTが取材していた温水プールでは水温が27度から26度に下げられ、これによりエネルギー消費が3%削減されることになる。今のところ水温が一度下がったことに関する苦情等はなく、泳ぎにきていた子どもたちは、体感できない程度の差であると話していた。サウナの方は利用時間を半減させるだけで、ヨーテボリでは一日あたり3000kwhの電力を節約できると試算している。
スウェーデンでは今、各地にすごい寒波がやってきていて、需要と供給につれて電力料金が決まるという仕組みにより、今日の月曜日は電気代がものすごく高くなることが予想されている。
寒波で北のルーレ川の水力発電所では木曜日から着氷が始まっていて、目下この発電所からの電力出力料が一時的に低下している。川の表面が氷結しても冬の間もその下で水流を確保するが、毎年冬の初めに起こるこの氷結で一時的に電力消費量が減少する。また、目下北欧諸国やドイツの北部地域は、風がなく穏やかで、風力発電の生産量が少ないことも価格高騰の要因の一つとなる。そしてもちろん寒さからエネルギー使用量が増えるであろうことも。水温を下げて3%電気代を節約しても10%電気代が上がったら、焼け石に水状態になるのは目に見えているような…
今日はオーブンなどは使わずアイロンかけもやめて、一日、薄暗い中で過ごすのが、家庭できる対抗策なのだろうか? この先もっと大変なことになったら、寒い日は会社に来るなとか、一日寝てすごせとか、とかになったりするのかな?(妄想です😅)
では、また来週!興味がありそうな方にも「swelog weekend」をぜひご紹介ください。ニュースレターの転送もご自由に。感想やご意見はこちらのメールに返信していただくことでも、私にダイレクトに届くので、ぜひこの返信機能もお使いください♪
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