北欧女性創業者スタートアップ3選

スウェーデンのスタートアップへ流れる投資マネーのうち、女性が創業した会社に投資されるのはたったの1%ということを以前レポートしましたが、今日は、女性が始めた魅力的な北欧スタートアップ3社を紹介します。こんなの日本にもあればいいよねという期待もこめて。隠れたポイントは、「スタートアップは2人で始める」。
ブロムベリひろみ
2021.08.29
誰でも

swelog weekend nr21

〈今週のブログ記事〉固い頭皮に「知の蒸しタオル」
〈今週のテーマ〉    北欧女性創業者スタートアップ3選
〈今週のスウェ推し〉By Malene Birger (デンマークでは?☺︎)

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固い頭皮に「知の蒸しタオル」〈今週のニュース〉

コロナに気候危機、突然の首相の辞意にスウェーデン国内で続く発砲事件。そしてアフガニスタンの緊迫した状況。今週も眉間のシワは深まるばかり、ため息は大きくなるばかり、そして日はどんどん短く、暗くなっていくばかり…… そんな私の一週間を救ってくれたのが、こちらのポッドキャストシリーズ、『働くことの人類学』でした。

anchor.fm

文化人類学者の松村圭一郎さんと文化人類学者6名とのディープな対話〈働くことの人類学〉は、先月『働くことの人類学【活字版】 仕事と自由をめぐる8つの対話』(黒鳥社)としても刊行されましたが、ポッドキャスト版はいまも無料で聴くことができます。

人はなんのために働くのか、お金を稼ぐとはなにか、信頼とは? 名誉とは? などに関して、思ってもいなかった異なる視点を与えてくれるこのポッドキャスト。考え続けて、心配しすぎて、そしてニュースを受け止め続けるだけでも凝り固まってしまった頭と頭皮を、まるで知の温かい蒸しタオルを当ててもらっているかのようにほぐしてくれます。

私の頭が一番ほぐれたのは、第2話、津田塾大学の丸山淳子准教授によるアフリカ・カラハリ砂漠のブッシュマンたちのエピソード。政府による開発が進み、ブッシュマンたちが公共事業や農業に従事するようになってからも、彼らは狩猟生活も続け、仕事を特定せず、古いものも捨てず、新しいものに飛びつくわけでもなく、どちらもありのスタイルで可能性を開いておく感じがあるのだそう。

私と同様、ニュースでちょっと頭が凝り固まってガチガチになってしまった方は、ぜひ上のリンクから楽しいお話をどうぞ。そして、こっちはちょっと頭皮が固くなるほうだけど、今週のニュースたちへのリンクはこちらからどうぞ。

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あ、アルフォンスのニュースは同じカテゴリーにいれちゃいけないな。作者のグニッラ・ベリストロムがなくなりましたが、今もう一度読みたい絵本シリーズです。

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北欧女性創業者スタートアップ3選〈今週のテーマ〉

2015年からしばらくの間、スウェーデンのスタートアップに関して日本語でレポートを書くという仕事をしていたことがあります。その頃知ったスタートアップたちの中には消えていったものも多いけど、もちろん今でも元気に頑張っている会社も。そのうちの一つが、今日まず最初に取り上げるこちらの会社。 生き残ってるだけどころか、ものすごくバージョンアップしていた!

1. Påhoj

Påhoj(ポォホイ)とはスウェーデン語のスラングで「自転車(hoj)に乗る」という意味で、この会社は自転車の荷台に取り付けるチャイルドシートと、押して歩けるべギーバギーが一体化した商品を製造、販売しています。目的地までの移動はエコな自転車で行い、現地につけばチャイルドシートを取り外してバギーとして使用する、というサステイナブルな暮らしのためにPåhojは生まれました。

これは、当時ルンド大学の工業デザイン学科(IKEAの寄付で設立された創業者の名前がついたIKDC・Ingmar Kamprad Designcentrumの建物の中にあります)で修士論文を書いていたリュッケ・ヴォン・シャンツのアイディアによるもの。

Påhojはこれまでにも数多くのスタートアップやデザイン、または優れた子ども用製品といったジャンルで様々な賞を受賞してきましたが、今回、26カ国、1800社のスタートアップが参加した、アマゾンによる2021年欧州イノベーションアワードを受賞した、たった4社のうちのひとつに選ばれたことから、改めて高い注目を集めています

私はまだプロトタイプだった頃に見たことがあったのですが、その後安全性や簡易な取りつけ取り外し方などに磨きを掛け、この春からスウェーデンとデンマークでの販売を本格的に開始。ドイツとオーストリアでも代理店契約を交わしました。現在、会社の経営は、Orbital Systemsなど先行するマルメのスタートアップで経験を積んだ、CEOのサーラ・ステルネルが担当しており、リュッケとサーラの両輪でビジネス拡大に取り組んでいます。

スウェーデンの会社は自国から北欧隣国、EU諸国とビジネスを広げていった後はアメリカ市場を目指すのが定石ですが、Påhojがこの先狙うのは日本市場。なにしろ、日本ではみんな子供を荷台に載せて自転車に乗っている、と聞いたそう。

上で紹介したビデオの最後でお母さん役の人が首周りに着用しているのは、これまたルンド大学のデザイン科の2人の学生(両方とも女性です)の修士論文から開発され、私も愛用しているHövding(ホーブディング)という首に巻く自転車用ヘルメット。こちらも日本でも販売もされ、また製品開発でも日本と深いつながりがあります。Påhojを日本で見かけることも、そんな先の話ではないのかもしれません。

2. Boardclic

次にご紹介するサービスの内容は、Påhojからは打って変わって、人材紹介業界の女性スペシャリスト2人が立ち上げた「取締役会評価分析サービスプラットフォーム」のBoardclicです。

アマゾン従業員の過酷な従業状況を取り出すまでもなく、企業の従業員のパフォーマンスを測るために様々な指標やツールが取り入れられてきている現代ですが、データに基づいたパフォーマンス評価のメスがこれまで入ってこなかったのが、企業の重役、経営陣といった種類の人たち。

これまでは、取締役や経営陣の採用はごく一部の人たちのネットワークの中だけで決まることが多く、また在任期間中に具体的に何を成し遂げたのかのはっきりとした評価の基準がなかったといった状況に一石を投じ、デジタルでの評価・分析プラットフォームをサブスクリプション方式で提供しているのがBoardclicです。

取締役会に誰を招き入れるかということは、各企業にとってとても大切な問題であるにも関わらず、時には急を要し、これまでは取締役会の会長や役員の持つ個人的ネットワークや、もしくは高い費用を払って専門的なコンサルタントに任せることがほとんどだったといいます。

またイギリスなどではEGSの観点から、企業の役員に要求される項目も増えており、調査には、より客観的で迅速なアプローチも求められています。

経営層のヘッドハンティング、採用のスペシャリストとして長年この業界で働いてきたモニカ・ラーゲルクランツと、同僚だったマーリン・ロムバルディが、2人で2018年に創業したBoardclicは順調にサービス内容と顧客の幅を拡大し続けており、今回さらなる大型投資も獲得しました。

取締役会に透明性を! ボーイスクラブはもうやめて、公平な評価による経営陣の採用の可能性を期待できそうです。

3. Gubbe

 北欧女性創業者スタートアップ3選の最後にご紹介するのは、フィンランド発のGubbe

3年前にMeri-Tuuli LaaksonenとSandra Lounamaaにより設立されたGubbeは、高齢者の孤独解消を目的としたデジタルプラットフォーム。学生と高齢者をつなぐこのサービスにより、高齢者の孤独感を解消し、若者には学業と並行できる意味のある仕事を提供することを目的としています。

若者たちが提供するのは掃除や料理といった典型的な家事の他、散歩や交流を中心としたアクティブなライフスタイルまで、自治体のホームヘルパーが提供できるサービスよりもぐっと幅広い。また若者たちはデジタル化の進む現代、高齢者に押し寄せてくるデジタル対応問題を解決することも期待されています。

Gubbeはフィンランドで順調に拡大し、高齢者やその家族からの期待に答えており、Wiredの選ぶ「ヨーロッパの期待できるスタートアップ100社」にも選ばれました。この夏からスウェーデンでもサービスをラウンチし、その評判も上々。今後はデンマークとドイツにも進出する予定です。

しかし、Gubbeってスウェーデン語ではおじさんとか、おっちゃんとかいう意味で、ポジティブにもネガティブにもなるニュートラルな言葉だと思うのですが、これ、フィンランドでもそういう意味でつけられたのかな? おっちゃんのように温かみのある人ってこと? どうして?

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とうことで、今日は紹介した3社ともみごとに女性2人のチームで前進するスタートアップだったのですが、続くスウェ推しも、また、女性2人の力強いチームワークで生まれかわったブランドを紹介しようと思います。

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By Malene Birger〈今週のスウェ推し〉

By Malene Birgerはデンマーク発のファッションブランド。以前は日本にも進出していたのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

2003年にブランド名にもなっているマレーネ・ビルガーが設立しブランドは成功しましたが、ビルガーは2014年に会社をICグループ(デンマークやスウェーデンのブランドを所有しているデンマーク企業)に売却。その後は魂を失ったようにちょっと迷走の時期がつづきましたが、数年前からICグループでも再編が起こり、ブランド再生のために起用されたのが、スウェーデンのファッション業界で別々にキャリアを重ねていた、ヨーテボリ出身のエレンとマーヤのディックスドッテル姉妹。

マレーネ・ビルガーに先にヘッドハンティングされ、今は会社のCEOを務めるエレンは、3年前まではスウェーデンのブランド、Hope のブランドマネージャーを、そしてそれ以前は同じくスウェーデンのFilippa Kでマーケティングマネージャーを努めていた人で、ストックホルムのレストランやアキペラゴのホテルの経営に関わっていたこともあります。

また現在クリエイティブ・ディレクターとしてブランドデザインチームを率いるマーヤを招いたのは、実は姉のエレンではなく当時のCEOだったそうですが、現在姉妹でブランドを運営していく形態は非常にうまくいっているそうです。マーヤはマネーレ・ビルガーに来るまでは、H&MのサステイナブルラインのConsciousコレクションのデザイナーとして活躍していました。

エレンとマーヤはブランドで使用する素材に関しても売り方に関しても徹底的な見直しを行い、ディスカウント主体のサイトでの販売をやめ、より高級感のあるサステイナブルな素材を中心に、店舗も限定して展開していくと決めました。現在はサステイナブル素材による服が50%という構成ですが、これを2030年には100%とすることを目標としています。またマレーナ・ビルガーのサイトでは最新シーズンのドレスのレンタルも行っていますので、一度こちらのサイトも覗いてみても面白いかも。(レンタルはデンマークとスウェーデンでのみ可能のようです)

これからのファッションブランドは、新作の発売と並行してレンタルもやり、ヴィンテージやセカンドハンド商品も一緒に販売するようになっていくのでしょうね。

デンマークの自由さとボヘミアンさに、スウェーデンのミニマリズムを融合するマレーネ・ビルガー。以前は大理石や真鍮、デコレーションで飾られたダークな雰囲気を醸し出していたコペンハーゲンのフラッグシップストアも、現在はアースカラーを基調として、明るい木材を使ったすっきりした広い空間へを作り変えられたということで、次にコペンハーゲンに行った際には(いったいいつになるのか?)ぜひ覗いてみたいと思います。

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 さて、ちょっと長くなっていますが、最後に読者のみなさまにお礼をこめて、もう少しだけ書かせてください。

先週なんだか思いだけが先走って「スウェーデンの民主主義とアフガニスタン」というニュースレターをお送りしてしまいましたが、その主題を違う視点からも考えてみる機会を、読者の方からの丁重なメールでいただきました。ご紹介いただいたのは中村哲さんの著作です。

中村哲さんのお名前やアフガニスタンで取り組まれていた医療や水路や井戸の建設については概要程度は存じあげていたものの、中村さんのアメリカやタリバンに関しての発言にはこれまで触れる機会はありませんでした。

さっそくhontoで購入できた電子版の著作を読み、また目下、NHK Worldで視聴可能になっている、下にリンクをあげたドキュメンタリーを見ることもでき、とてもいろいろ考えさせられました。ドキュメンタリーは日本語では『武器ではなく命の水を』というタイトルで、2017年に最初に放映され、世界でいくつも賞も受賞している優れた作品です。

この中でもアメリカ軍のヘリコプターが舞う空の下で、黙々と命のために水路建設の工事をする中村さんやボランティアの日本人、そしてアフガニスタンの人たちの様子がカメラで捉えられています。下のリンクから視聴できる(日本国内でも視聴できるといいのですが)ドキュメンタリーはナレーション、字幕とも英語です。ぜひ日本人の方だけでなく、スウェーデンの人や英語を理解する数多くの人にみてもらいたいと思いました。

www3.nhk.or.jp

また、これまで活字化されていなかった中村さんの貴重なラジオ番組でのインタビューでの発言録がもうすぐ本にもなるようです。発売されたらぜひこちらも読んでみたいです。

prtimes.jp

今、このニュースレターの読者と読者の方をつなぐことのできるフォーラムのようなものはまだありませんが、またこんな形で、みなさまからお教えいただいたことをご紹介できればと思います。

ご購読いただき、またメールもいただいているみなさま、本当にありがとうございます! いつも感謝感激しています。

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では、また来週!

興味がありそうな方にもswelog weekendをぜひご紹介ください。ニュースレターの転送もご自由に(転送されたレターを受けられた方、無料の読者登録はこちらからどうぞ!)感想やご意見はこちらのメールに返信していただくことでも、私にダイレクトに届くので、ぜひこの返信機能もお使いください〜。

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