右派左派超えた気候同盟の「15の気候要求」
swelog weekend nr 27
〈今週のトピック〉 右派左派超えた気候同盟の「15の気候要求」
〈今週のブログ記事〉 盛り上がる気候危機関連報道
〈今週のスウェ推し〉 Iittala Vintage Service
右派左派超えた気候同盟の「15の気候要求」〈今週のトピック〉
「気候危機の前では右派と左派はイデオロギーの垣根を超えて気候同盟を結び、共に変化を起こしていく必要がある」。そんな主張で、この同盟を立ち上げたのは元左党、女性党党首のグッドルン・シューマンや、右派のキリスト教民主党の議員としてスウェーデン国会やEUで活躍し、今もローマクラブの名誉会長を務めるアンデシュ・ヴィークマンたち15名。
スウェーデンの政界のベテランも多く、今は第一線を退いた印象をうけるがまだまだ大きな影響力を持つシューマンやヴィークマンたちは、スウェーデンは政権担当政党の一つに環境党がありながら、これまで掲げてきた気候政策の目標を実際には達成していないことに業を煮やす。
15名の著名人、活動家からなるこの同盟は、具体的な活動としては15の気候達成目標を掲げており、これを来年9月に実施される総選挙にむけてこれからの政権が具体的な政策として実現していくことを目指している。
今日は気候同盟のこの15の気候達成目標を、みなさんと一緒に見ていきたい。私も地球が大変なことになっているのを、毎日ひしひしと感じながらブログを更新しているが、問題を俯瞰して、まとめてみたことはこれまでなかった。
気候同盟の主張の根幹となる考え方は明確だ。「今の政治、経済の仕組みをそのまま続けていては、間に合わない」。世界中のすべての国で必要となるのは、より勇気ある政治的リーダーシップと、工業、運輸、建設、農業、林業などの分野でのドラスティックな改革であり、短期的な利益の追求を中心に回っている今の経済の仕組みに乗っかったままでは、この目標は到底達成できない。
次の政権が右よりであっても左よりであっても、スウェーデンの政府がどうしてもやらなくてはならない15の目標とは何なのか? まずは1つ目から、これまでの関連ブログ記事へのリンクも入れながら見ていこう。
1. 温暖化対策の目標を、より高くする
スウェーデンのネットゼロ・エミッション目標を2035年から2040年までに達成する必要がある。そのためには温室効果ガスの排出量を毎年10%削減する。
2. 経済活動における短期利益主義への呪縛を断ち切る
会社法が企業のエコロジーや社会的責任を管轄するものにならなくていはいけない。短期的な利益のための利益は、長期的で持続可能な投資から生まれた利益よりも多く課税する可能性に関しても調査を行うべきで、また化石燃料への投融資に関する詳細な情報開示を各金融機関に義務付けるものとする。
3. 電化への変革を加速させる
今後の電化の流れを促進するために鍵となるのは洋上風力発電。送電網の強化とスマートな電力貯蔵システムを確立する。化石燃料を使用した自動車の販売は2030年までには終了すべきである。鉄道網のクオリティを上げ、鉄道路線を拡張する。電気自動車の使用を増やすために、必要となる電池や鉱物を効率よくリサイクルする技術が必要となる。
4. カーボンを減らすために林業のあり方をシフトさせる
樹木や土壌がより多くのカーボンを蓄えることができるように伐採のスケジュールを遅らせる森林所有者にインセンティブを与えるべきだ。産業界で使用される木材の割合を増やして、最終的には建築業界で木材がより多くのコンクリートに取って代わるようにする。気候危機への対処、また生物多様性存続のために、原生林を含むより多くの森林を保護するべきである。これはまた、トナカイの飼育や、成長を続けるネイチャー観光産業にとっても大切な資源となる。湿地帯はカーボン吸収源として重要で、再生したり保護したりしなくてはならない。長期的に土中に炭素を閉じ込めておく策をとる農家には、金銭的な補償が支払われるべきである。
5. 正しい指標を使い測定する
経済的指標として君臨していたGDPは、健康や有意義な仕事、公平な所得分配、安定した気候、健全な生態系を図る指標などに取って代わられるべきである。
6. 大きな変革をもたらす新技術を採用する
新技術の採用は変革への大きな力をもたらす。人工知能、バイオテクノロジーや新しい認知に関する技術は、民主主義、プライバシーや雇用といった面でリスクにもなりえる一方で、気候と環境の双方にポジティブな変革を起こす可能性がある。
7. 税制改革
労働には減税を、資本、消費、自然の搾取や温室効果ガスの排出には増税する。地方自治体による風力発電への課税を可能にする。
8. 資源効率を向上させ、循環型経済を促進させる
使い切りから循環型へ。リサイクル素材への消費税の廃止などの税制を改正することで、中古品市場の収益性を高める。製品寿命を長くすることを設計要件として組み入れる。スウェーデン国内の公共調達は年間や8000億クローネ(約1兆300億円)に上るが、二酸化炭素排出量と資源の使用量を削減するために、この公共調達を計画的に活用していく。
9. 金融市場をグリーンに
年金基金や保険会社が運用する資本は、化石燃料から持続可能な燃料へと早急にシフトしなければならない。民間また公共の投資のために、早急に「グリーン投資銀行」を設立する必要がある。最終的にはすべての銀行がグリーンになるべきだ。
10. 知識とエンゲージメントを高め民主主義を深化させる
スウェーデンの気候変動対策を成功させるためには、民主主義への参画を深めると同時にその速度を上げていくことも必要だ。そのためには学校や成人教育のカリキュラムや教育法の見直しも必要となってくるだろう。公的な気候教育を強化する必要があり、その取組に年間10億クローナ(約130億円)を投じていく。
11. 公正な変革のための行動をとる
気候変動への対策が公平性を欠くものであれば、その実施は困難で時間のかかるものとなる。よって、より累進的な税制の適応や、社会の格差を是正していくことが必要となる。また豊かな自治体と貧しい自治体の間の税の公平性にも配慮し、自治体や企業によるグリーンな取り組みを後押ししていく必要がある。電気自動車への移行をより現実的で魅力的なものとするためには、急速充電器の配置を特に農村部で拡大する必要がある。
12. 消費による気候変動への影響を減らす
あらゆるマテリアル、素材の利用が、二酸化炭素排出量の少なくとも半分を占め、また生物多様性の損失の起因の90%を占める。私たちの生活の質や幸福感には、物質的な消費以外にも多くのことが影響を与えていることから、文化的消費に関する消費税を削減するなど、消費による悪影響を削減する措置をとることを優先させる。
13. EU全体での気候変動対応を加速させる
スウェーデンは、EUが2040年までに目指す気候ニュートラルの目標達成への推進力とならなければならない。そのための手段として、二酸化炭素排出の国際合意価格の制定や、また気候変動対策のための新しい関税の導入といった分野で力を発揮すべきだ。EUはまた気候危機拡大に伴って増え続ける難民の流入に備える必要がある。
14. 自然に対する犯罪(エコサイド)の国際犯罪化を支持する
国際刑事裁判所のローマ規定において、エコサイドを国際犯罪とすることを積極的に支持する(エコサイドについては、この毎日新聞の記事に詳しい)。
15. 貧困国への気候変動援助を増大させる
気候危機への適応とその対応のために、低所得国への援助を倍増する。より多くのカーボンを貯蔵する自然価値の高い森林を保護し、森林エコツーリズム分野での雇用の促進のために、世界で持続可能な林業の発展を支援する。貧困削減の観点からは、特に若い女性への教育機会とリプロダクティブ・ヘルスへのアクセスを優先させる。
いやー、ちょっと長くなったけれど、改めて眺めると、もう市場の自由意思や数値目標をたてるだけのやり方などはまったく当てにはされておらず、もっと具体的な会社法の改正や、税制改革、教育への投資などがあげられていることに気がつく。
今回の15の目標の具体策の中に挙げられていて、これまでのブログでも取り上げたいと思いつつ、またやれてなかったのが「二酸化炭素排出量と資源の使用量を削減するために、公共調達を計画的に活用していく」という項目。これ、日本でもやれば相当インパクトは強いはず。また近いうちにこちらの詳細も取り上げてみようと思います。今日はとりあえず、この辺で!
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盛り上がる気候関連報道〈今週のブログ記事〉
さて、11月にグラスゴーで開催されるCOP26に向けて、各大手メディアでは連日、気候危機関連の特集が組まれていて、swelogで取り上げた記事も(今週のトピックも!)それに関連したものが多くなっている。
気候危機の前では右でも左とかイデオロギーで対立してないで、今やれることをさっさとやらなくてはというのは本当に大事だと思うし、そのためには上のトピック記事でまとめたように政治が大鉈を振うことも絶対必要だとは思うけれど、一方でテキスタイルや交通手段のことなど、私たちの暮らしの身近なところでも、やれることはたくさんある、
しかし、気候危機でスウェーデンは暖かくなって住みやすくなるのかな? などという、私の期待をこめた勘違い😅はまったく的が外れているようで、この北の国ではこれまでは関係なかった害虫やらウイルスやらが、今後は南の方からどんどん移動してくるというのはちょっと恐ろしい。
そして、このブログ記事にはかかなかったけど、北極圏からも永久凍土が溶けると、水や空気中の神経毒であるメチル水銀の濃度が上昇して、人や動物が危険にさらされるという問題もありましたな😱 (少し前の記事ですが、こちらが参考になりそう。「北極圏の永久凍土に水銀、推定5700万リットル」ナショナル・ジオグラフィック)
そして世界中のイスラムを敵にまわし、突然の車の正面衝突事故で死んでしまったアーティスト、ラーシュ・ヴィルクスだが、事故の原因など詳細はまだ発表されていない。
今週は、その他にこんなコロナ関連の話題も取り上げた。この記事で書いた夫のドイツ・ケルンへの電車での移動は快適に進んだが、ドイツでは必要と大枚をはたいて買って持っていった医療用マスクは、推奨されているだけでもっと普通のマスクでも用が足りたようだけど、どこに入るにもワクチン証明の提示を求められてスウェーデンとはずいぶん違う、と言っておりましたわ。
Iittala Vintage Sevice〈今週のスウェ推し〉
すみません、今週はスウェ推しじゃなくて「フィン推し」なのかもしれないのだが、スウェーデンの雑誌で読んだということで許して😉。で、イッタラがスウェーデンでも自社のヴィンテージものを買い取って再販売するサービスの提供を始めました。
スウェーデンのIittala Vintage Serviceではイッタラやアラビア、同じ資本傘下のRörstrand、Höganäs Keramikといったスウェーデンのブランドを扱っている
こちらのイッタラのスウェーデン向けサイトによると、このサービスはイッタラなどの日常使いのセカンドハンド品を買い取って、新品を扱う店舗で一緒に販売するというコンセプト。買取は店舗で使用できる1年間有効のギフトカードで支払われ、高く買い取ってもらえるわけでもないので、価値のあるものを高価格で売りたい場合は、アンティークショップなどに持ち込むことをすすめている。このサービスでは買取価格も販売価格も予めきまっていて、サイトで公開している。
イッタラは2020年の秋から一部の店舗でパイロット的にこのヴィンテージサービスを開始していたが、この6月にはストックホルムのIittala & Rörstrand Storeとスウェーデン国内のほぼすべてのIittala Outletでも扱いを始めた(Iittala StrömsttadとストックホルムのNKのIittalaは対象外)。
イッタラは2020年のフィンランドでのVintage Serviceで、どれくらい原材料と二酸化炭素を節約することができたかをヘルシンキのリユースセンターと共同で算出しており、それによると、この取り組みで165トン以上の天然資源と、56トン以上の二酸化炭素を節約することができたという。
衣料ブランドが自社のヴィンテージものやセカンドハンドを新品と一緒に販売することは珍しくなくなってきたが、日用品ではまだ珍しいのでは?(衣料ブランドの取り組みについてはこちらの記事↓もどうぞ)。
これ流れ、このまま行くと、次は出版社じゃないかと思うのだけれど、どうでしょう? 希少本とか絶版本とか、古本屋に任せておくだけでなく、出版社も自社のヴィンテージ本の販売に乗り出してみては?
では、また来週〜。
あ! お知らせするの忘れてた! こちらもどうぞよろしく!
スウェーデン語で「ちょうどいい」を意味する「LAGOM(ラーゴム)」という言葉。現代社会のさまざまな問題における最善の落とし所、すなわち“みんなのラーゴム”を探るならば?
elle.com/jp/fashion/fas… 私とみんなの“ちょうどいい”が地球を救う | スウェーデン発! みんなと地球の“ラーゴム”なくらしvol.1 北欧ならではのマインドやリアルな暮らしから、SDGs達成へのヒントを考える新連載 www.elle.com
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