政治家は短期集中で

さて、今週はスウェーデンの「政治家」について思っていることを書いてみたいと思います。日本とスウェーデンでは状況も違うし、また個別の政策は一人ひとりにとって最適なものは異なるので単純な比較はできませんが、スウェーデンの政治の世界にあって日本に圧倒的に欠けている枠組みが3点ほどあると思っています。
ブロムベリひろみ 2021.06.13
誰でも

Hejsan! 4月にニュースレターの発行を始めて、途中号外をはさみながらも今日で10号目となりました。いつもありがとうございます。 

この先もしばらくはテーマをランダムに取り上げようと考えていますが、この号からレターの構成を少し変更します。冒頭にはフィーカ(Fika)の場でも話したいような、その週印象に残ったことに関する軽いおしゃべり、末尾にはその週にちょっとはまった「スウェーデンモノを推すコーナー」を作ってみました。

 北欧で踊る・Dans〈今週のフィーカ話〉

マッツがね、とってもかっこよかったですよ。ラストシーンのマッツがすごい!

マッツがね、とってもかっこよかったですよ。ラストシーンのマッツがすごい!

今週は2回も映画館で映画を見ました。両方ともこの先日本でも公開が決まっている北欧発の作品で、1本目が10月1日(金)公開予定でトーベ・ヤンソンの愛を描いたフィンランド映画『TOVE/トーベ』。2本目が日本では9月3日(金)から公開される、今年のアカデミー賞国際長編映画賞を受賞したマッツ・ミケルセン主演のデンマーク映画『アナザーラウンド』です。

もうねぇ、両作ともむちゃくちゃよかったです。とくにマッツ・ミケルセンファンの人には『アナザーラウンド』はマッツの魅力を倒れそうなくらい堪能できる素晴らしい作品だと思います。かっこいいマッツじゃなくて情けないマッツを描けば天下一品の、トマス・ヴィンターベア監督が今回もいい仕事してます。

偶然ですが両作で重要なモチーフとして共通していたのが「ダンス」。体から溢れ出る生きる喜びを表現できるのが、ダンス。年中みんなでサルサを踊っているような国ではなくて、この北欧だからこそよりいっそう輝くダンス。両作品とも、踊ることの喜びに胸を弾ませながら映画館を後にしました。

みなさんの生活にダンスは足りていますか!? ちょっとインスピレーションをお渡ししたくこちらの映画の予告編を紹介しますので、今週はもう次のニュースの方はスルーしてもらって、その時間で、体が弾む曲でも流して、ぜひ踊ってみてください👯‍♀️

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〈今週のニュース〉

ということで、今週はリンクだけ並べておきます!

こんな感じでswelog weekendでは、毎日更新しているブログswelog(スウェログ)で取り上げたニュース記事を一週間分まとめて日曜日にニュースレターとしてメールでお送りしています。おもしろそうと思っていただければ、ぜひ無料の購読者登録をどうぞ👇

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政治家は短期集中で〈今週のテーマ〉

さて、今週はスウェーデンの「政治家」について思っていることを書いてみたいと思います。

スウェーデンの政治にあって日本にはないもの

3年近くスウェーデンのニュースウォッチブログswelogを毎日更新し続けてきて、またこのニュースレターも発行するようになり、毎日様々な政治課題のニュースに触れています。日本とスウェーデンでは状況も違うし、また個別の政策は一人ひとりにとって最適なものは異なるので単純な比較はできませんが、スウェーデンの政治の世界にあって日本に圧倒的に欠けている枠組みが3点ほどあると思っています。

1つ目が「政治と行政の透明性」、2つ目が「その透明性を担保するための報道機関による権力の監視」そして3点目が「政治家を身近な存在と感じること」です。

1点目と2点目についてはブログでも何度も書いていますので、今日は3点目について考えていることをまとめてみます。

あーのひともこのひーとも(政治家!)♪

政治家と言えば田中角栄! を連想していた私にとって、スペインで知り合った、人がよさそうで押しの強さは私の5分の1くらいのニコニコしているスウェーデン人(後に私の夫となった人です)が、少し前に政治家として活動していたと聞いたときには「スウェーデンの政治家ってちょっと私が思っているのと違うのかもしれない」と思いました。

彼が活動したのは、コミューンと呼ばれる日本の市町村にあたる地方自治体の議会。議会の代表者などのごく少数の人を除き、多くのコミューンの議員は他に仕事を持ちながら基本的に無給で活動しています。彼の政治家としてのキャリアは様々な理由で1年ほどで終わったそうで、私が知り合った頃には環境党の党員でさえありませんでしたが、はぁ、政治家ってそんな感じでなるものなのか、と首をひねったのをよく覚えています。

次に「やっぱりスウェーデンの政治家って私が考えているのとはずいぶん違う」と実感したのは、隣街のマルメ市でフルタイムの市会議員として働いていた友人のカロリーナ(Karolina Skog)がスウェーデン政府の環境大臣に任命され、家族ともどもストックホルムに引っ越すことが決まった時でした。

小国とは言え、一国の大臣ですよ! 大臣という言葉には権力とか腐敗とかそんな言葉が私の頭の中には連想ゲームとしてあがってくるのに、カロリーナは自分が実現したい社会像には熱いが「大臣」と聞いて私が想像する姿からはほど遠い。清濁併せ呑んだりしなくても、清い志のみで理想にむかって突き進む。それこそ濁ったようなことをすれば透明性が担保されたスウェーデンの政治の世界では、ジャーナリストも国民の目も厳しく、そんな政治家はすぐ排除されます。

「男子」、「一生の」、仕事じゃない

スウェーデンではまだ女性の首相こそ誕生していませんが、それでも大臣の多くは女性です。また北欧の隣国では首相はすべて女性であることが象徴していますが、政治家はこちらでは特に男性がやる仕事というわけではないことは、みなさんもご存知のとおりです。

そして、私が少し前に気がついたのが、こちらでは国政で活躍するレベルの政治家でも「一生」かけてやっている仕事でもないらしい、ということ。

時には行き過ぎではと思ってしまうほどの透明性を公私に渡って求められ、意見の対立する政党や報道機関からは、連日厳しい質問に追いかけられる。国会議員になったからといって給与がすごくよかったり、目を引くほどの特権があるわけでもない。「先生」とかいってチヤホヤされるわけでもないし、ましてや汚職で裏金を稼ぐなんてこの国ではあり得ない。(チェコレートと紙おむつを議員としての経費を精算するためのクレジットカードで買ってしまったことが明るみにでて、あっという間に信用を落としてしまった国会議員もいました。ずるをするといってもこのレベルです。しかもおそらくは不注意だったための出来事でしょう)。

自分が理想とする社会を実現するためにとはいっても、スウェーデンの政治家たちは明けても暮れても討論討論討論、説明説明説明でいやになったりしないのだろうか、と思っていたら、ひとつ、あっそうか、ということに気が付きました。

スウェーデンでは一度国政の表舞台に立つような大きな政治的権力を握った人でも、結構早い時期に国政政治家としてのキャリアを離れる人が多い。現存する首相経験者であるカール・ビルトは、首相退任後は国際紛争解決のための活動を続けており、ヨーラン・ペーションは実業家として、またフレドリック・ラインフェルトは政界を離れ、金融界などでコンサルタントとして活動しています。

また最近では大臣として活躍していた環境党の代表が、若くして国政の舞台を離れ、環境コンサルタントや高校教師といった次のキャリアへと旅立っていった、という例も目立ちました。やっぱり年がら年中、政策のために戦い続けるって本当に大変なはずで、国会でワニの動画とか見ながらやり続けれるものじゃないと思うのです。

政治家って短期集中型でいいんじゃないか?

また、政治家に関してこんなことを考え始めたのは、日本の政治家のドキュメンタリー『なぜ君は総理大臣になれないか?』を見たからでもあります。この映画の主人公になっている衆議院議員の小川淳也さんは、私の友人のカロリーナのように、成し遂げたい高い理想をかかげて、それを社会で実現するために政治家になられた方ですが、現実の日本の政界で悪戦苦闘されています。

また体力のある50歳までに政治家としての自分の仕事をやりきってそこでスパッと政治家をやめる、とちょっとスウェーデン的な政治家のあり方を最初から公言しておられたにも関わらず、今年50歳になってしまった……(のにやれていないことだらけだと、ご自身も思われていると思います)

こんな熱い理想を語る政治家には辞めてほしくないとは思うものの、小川さんや彼のような人にだけその責務を追わせるのはそれはそれでひどい、のではないかとも思う。願わくば、日本でも小川さんのような人が、次々とやってきては戦い、疲れ果ててはその場を離れるという、短期決戦形政治家が全体として社会を前に動かしていくという形でもいいのではないかと思い始めました。

政治は男子一生の仕事ではなく、その時々で、社会を変えるという情熱のある人が情熱の続く限りの時間の中でやっていくようになると、日本の政治の世界ももっとさわやかな風が吹き込んでくるのではないでしょうか? なによりも長期間権力を握ることで起こる腐敗は防げます。

それを実現するためには、選挙制度を変えたり国会議員のあり方を変えたり大掛かりな仕組みの変更を考え続けることも大切でしょうが、そんなことしなくても、ひとりひとりが「私、このことだけは譲られへんねん!」という自分ごとの社会問題、一点だけに限って、時間限定で政治的にコミットしてみるだけでも何かが変わるのではないかと思います。

うーん、ちょっと風呂敷を大きく広げすぎたかもしれませんが、よければ一時期だけ政治家として活動する自分を想像してみた時に、その活動の舞台はどこで、何を公約とするかを少し考えてみてください。もしかしたらそれを実現するためには、政治家ではなくて、ジャーナリストや官僚として活躍した方がいいなと思う方もいらっしゃるかもしれない。

『あなたの知らない政治家の世界』

最後に「スウェーデンの政治家」をもっと知るための良書、『あなたの知らない政治家の世界 スウェーデンに学ぶ民主主義』を紹介します。日本語訳もでていますが、著者は政治腐敗の国(? 失礼、でもこれは著者による説明でもあったりします)ブラジルからスウェーデンにやってきたジャーナリストです。

日本の政治家の世界はブラジルほどの腐敗はないだろうと信じるものの、政治家不信に陥りそうなニュースが日本でも続いています。この本を手にとっていだく意味を、著者が第一章でまとめていますので、それを引用して今週のテーマ記事のまとめとしたいと思います。

それでも、北極圏にほど近い場所で政治が誠実に行われ、時代遅れとなっている特権がなく、税金に対して敬意が払われている国があることを知っておくことは重要である。国会議員の平均給与が、小学校教師の2倍ほどでしかない国である。健全な管理政策が継続して、公金の効果的な使途を監視することで公的機関への信頼を強めている国でもある。そして、国民への敬意を要求する社会が政府を細かく観察し、違反があれば罰するところである。その結果、汚職が普通ではなく例外のものとなった。つまり、透明性が担保された社会であり、行動の変容を遂げた国と言える。
『あなたの知らない政治家の世界 スウェーデンに学ぶ民主主義』
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DROP COFFEE〈今週のスウェ推し〉

さて、今回から始めようとしているこのコーナー、とりあえず、いっちゃおう!……

日本では北欧発のサードウェーブコーヒーと言えば、まずはノルウェーのフグレンだと思います。私の住むルンドにもLove Coffeeという焙煎とカフェを手掛けるすてきなコーヒー屋さんがありますが、今日ご紹介したいのは、ストックホルムのDROP COFFEE

DROP COFFEEのどこに惚れているかと言えば、オーナーで「よきコーヒー宣言」という本も出版しているヨアンナ・アルムが女性だということ。上で書いた政治家の世界じゃないですが、コーヒーもなんとなく男子がやるもの、みたいなところありません?

本は「スーパーで売っている深入りコーヒーを飲んでいる人へ」むけて書かれています。私もそうだった!

本は「スーパーで売っている深入りコーヒーを飲んでいる人へ」むけて書かれています。私もそうだった!

焙煎だけではなく、アフリカや中南米で豆の買付も直接行い、さらには現地の農家と協力してコーヒーの生産と消費のよい形を築き上げていこうとする彼女の情熱には並ならぬものがあります。今はちょうど全世界送料無料のキャンペーンをやっているようなので、気になった方はぜひDROP COFFEEのサイトを覗いてみてください。

私は今週は5つのコーヒーを比べられるテイスティングセットを味わい始めました☕️

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さて、今号の構成はいかがだったでしょうか? 感想やご意見はこちらのメールに返信していただくことで、私にダイレクトに届きますので、ぜひこのtheLetterのニュースレターに特有の機能もご活用ください。読んで面白かったなと思ってもらえたらTweet などで感想をシェアいただければ嬉しいです。 またこんな話に興味がありそうな方にもぜひswelog weekendの無料購読をご紹介ください。

では、また来週!Vi ses! 👋

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